第20話:魔物との遭遇
魔物が来る方に身体を向け、取り出した魔術書を構える。
私だけ数歩前に出た位置取りで、待っていると茂みの奥で影が動いた。
――そして飛び出して来た、大型犬と同じ形をした魔物を目にする。しかし、その腐敗した肉は垂れ下がり、一部の骨が露出し汚れていた。
腐狼と呼ばれる、アンデット系の魔物だ。
鋭く尖った牙を出し、顎をガタガタと震わせながら私達の前に五頭並ぶ。
「これぐらい、直ぐに――」
魔術書に魔力を流した途端に魔物が動き出した。
それぞれが一斉に走り出し、我先にと飛び掛かって来る。
地面に氷が作られ、魔物に向かって氷の柱が伸びていく。
五頭全てに突き刺さると思いきや、我先にと向かっていた腐狼は近くに居た仲間を踏みつけ、攻撃を避けるのだった。二頭だけが氷から逃れ、そのまま前に向かって来る。
「こいつら――」
仲間を何だと思ってるんだ。
意表を突かれる形で魔物の接近を許し、下がりながら反撃しようと私が一歩下がる。それと同時に、ノエルさんの指示で前に出た盾を持った人達が前に並び、隙間なく前方を盾で覆いつくした。
「絶対に通すなッ!」
ガンっ――という大きな音が前から聞こえる。
腐狼が盾にぶつかったのだろう。
「クロ、今のうちに」
ノエルさんの声が後ろから聞こえ、盾の最前列の位置を把握した私は、その少し前辺りで大きな氷を生成した。
「潰れて――」
横に細長く分厚い氷の塊が地面に向かって突き進み、私の元にまで振動が伝わってくる。
前に居る人達がどこか、安堵した様に肩の力を抜いていた。
魔力を確認しても反応はない。
「お疲れ様。怪我はない?」
「はい、私は大丈夫です。それよりも、皆さんの方こそ」
ノエルさんと一緒に前を向くと、全員が心配ないと言わんばかりにこちらを見ていた。
「でも、今の攻撃で盾に……」
突き出された盾に目を向けると、そこにはしっかりと二つの穴が開いていた。
あの尖った牙で、噛まれたに違いない。
盾の上部に出来た痕を見ながら、私は周囲に意識を向けた。
「寄って来る魔物は?」
「大丈夫です。今の所、確認出来ません」
広げた魔力探知には、多くの生物が反応するものの、向かって来る敵は見当たらない。
けれど、少し離れた位置で魔物を見つける。
「ノエルさん、進行方向少し左に、十数体程の反応があります、避けますか?」
「右は、どれくらい居るの?」
「纏まっている所はないですけど、所々で点々としています」
「群れに、個体か。その群れは、何か強い敵から逃げてるって可能性もあるけど、僕達が相手にするなら、数が少ない方が良いかな。君はどう思う?」
「私も、少ない方で良いかと」
数が多過ぎたら、その分見落としが増えてしまう。
「それじゃ、左の多い方は避けてから進もうか」
避けながら歩くのはそう難しくはない。
ただ向こうが突然動き出してしまえば、遭遇してしまう。
それか別々の位置にある反応を避けようとして、間を通ってそのどちらにも気づかれる場合が最悪だ。挟まれる形で魔物との戦闘が始まれば、直ぐに包囲され全滅に近づく。
だから私は、二つとも避けられないと分かった段階で、一方に向かって近づいていた。
木々の陰から覗き込むように前を向いた私の視界に、二足歩行の巨大な生物が目に入る。背丈だけでなく体の大きさも人の二倍はあるその生物は、のそのそと周りを見渡し歩いていた。
毛深い毛に覆われた体は黒く、太く大きな腕の先には鋭い爪がついている。
「オーガか、厄介だな……」
一本の木に二人で隠れ、左右から覗き込んでいた私とノエルさんは背中合わせている。そんな状況で隣に居るノエルさんが小さな声で呟いていた。
「ですよね、アイツら見た目以上に速くて、頑丈ですから」
バレない様に少し後ろに下がると、背中がノエルさんとぶつかり慌てて前に出そうになる。
「でも、群れじゃなくて良かったよ。一体だけなら、僕らだけでも、十分に倒せる」
「そうですか」
任せるとは言わなかった。
「私が倒しますね」
オーガなら、油断しなければ問題ない。
私はそう思っている。
それに、立ち止まっているのなら都合が良い。
静かに木陰から出た私は、オーガに向け手を伸ばした。
「その場で、凍れ――」
オーガの周囲に白い靄が出来始め、オーガが首を動かす。
けれど、逃れようともがく体の動きが段々と遅くなり、数秒で動かなくなる。
「終わりました」
全身が氷に閉ざされたオーガは、微動だにせず固まっていた。
離れた位置から見れば、ただの彫像の様に思えてしまう。
「オーガがこんなあっさりと……」
ノエルさんだけでなく、他の人も驚いたまま私とオーガを何度も見ていた。
「君って、本当に強いよね」
「条件次第です」
さっきの腐狼みたいに、動きが速く小回りしてくるタイプは苦手だ。
それに比べて、図体が大きく今みたいに気づかれていないなら、手段はいくらでもある。
「ただの不意打ちですよ、ノエルさん。さぁ、今のうちに進みましょう」
――死霊系が出ないのなら、ある程度は大丈夫だ。
だから、出てこないでよ……。




