第10話:街中で
人通りの多い帝国の街中を、私は一人で歩いていた。
けれど、歩いても次から次に昨日の事を思い出してしまう。
ノエルさんと出かけた後に、ルークに魔術を教えた。
そこまでは良かったけど、私に教える才能はなかった。
これからは自重していこう。
魔術が使えた事は良い事だけど、別の問題が出て来る。
――結局ルークは、あの後に別の魔術を起動出来ず、火の魔術だけを練習していた。
「間違い……だったかな」
呟いた声は喧騒にかき消されていく。
それ程、人や馬車が多い道で幼い声を耳にした。
「やめてくださいっ! ――困ります」
小さな叫び声だ。
その声に聞きつけた人が目を向け、自然と声を出した人物が見つかる。
幼い少女が、男二人に囲われていた。
「何あれ、信じらんない」
理由は知らない。けれど、どこからどう見ても父親でもなければ、言葉的に親しい間柄でもなさそうだった。
気づいた時には身体が動き、考えていた事が頭から離れていた。
「すみません。こんな人の往来がある場所で、何してるんですか?」
「うるせぇ! おめぇには関係ねぇだろ。引っ込んでろ」
「でも、流石にその子……嫌がってますよね? 警備兵、呼びますか?」
「ちッ、ごちゃごちゃうるせぇな。てめぇも潰すぞ」
少女の手を掴んでいた男が懐からナイフを取り出し、それを目にした少女が怯えて身体をひこうとする。けれど、掴まれた腕が男から離れる事もなく、力強く引き戻されていた。
「逃げようとすんじゃねぇ、殺すぞ!」
周囲の人達は男達から離れる者と、様子を伺っている男女の姿を目にする。
「流石に、怪我人が出たら危ないので、それ――下げてもらえますか?」
「おいッ、こいつを黙らせろ!」
少女の腕を掴んでいた男がもう一人に指示を出し、男が私に近づいて来る。
「はぁ……仕方ないか。――凍れ」
近づこうとしていた男の足に、氷が纏わり動きを止める。
「何だよこれ、てめぇの仕業かッ! ざっけんじゃね、解きやがれ――!」
膝付近まで一瞬にして伸びた氷を、男が振り払おうとするもびくともしない。
空いた手で氷を叩こうとも、男は叩いた手を痛そうに抑えだす。
「こいつ魔術師か。動くんじゃねぇ、動くとこのガキを――」
「ガキを何?」
聞き返した私が、少女の腕を掴んでいた男に目を向ける。
既にナイフを持っていた手の肘と肩に氷が生まれ、少女の腕を掴んでいた手首には地面から生えた氷柱がしっかりと固定していた。
「いつの間に……くそッ! 離れねぇ」
何だか、今はいつもより氷がいう事を聞いてくれる気がする。
感情の分からない魔物を相手にするよりも、よっぽど分かりやすい。
「で、貴方たちは、何がしたかったの? ナイフを出した時点で、敵なんだけど」
話そうとしない男たちを横目に、私は少女と顔を合わせる。
落ち着いたピンクがかった赤茶色の髪。それを少女は片方を三つ編みにして、もう片方を無造作に垂らしていた。
「大丈夫?」
「ありがとう、お姉ちゃん」
柔らかい声で礼を言われ、少女が男の手の甲を爪で挟んで腕を離していた。
「おかげで助かった」
周りから歓声が上がり、私と少女はいつの間にか人に囲われてしまう。
「良くやった、嬢ちゃん」
元気なおじ様が近寄り、私に一声かけてから男共に近づいていく。
その後ろから身体つきの良い男性たちが続いた。
「後は任せなさい。おい、お前らしっかり取り押さえるぞ」
「おう」
「あはは……お任せ、します」
ゆっくりと氷を溶かし始めると、少女が私に話しかけて来る。
「あの、本当にありがとうございます」
「うん。あっ、一つ聞いていい?」
「はい」
「あの男たちは、何であなたを襲ってたの?」
「それは……」
周囲を見渡してから少女が口を開いた。
「あの良ければ、ついて来てくれませんか? 近くに私の家……教会があるので……」
「教会? 良いよ、分かった」
夜まで時間がある私は、少女の提案に乗って教会に向かった。




