第1話:追放される団長
「君は、この魔術師団にふさわしくない! 今日限りで出て行ってもらう!」
野外に張られた天幕の中で、私は魔術師団の副団長であるオリヴァーから追放を宣言されていた。
この男は何を言い出すのかと思い、困惑を通り越して吹き出しかけてしまった。
「どうして?」
「君のやる気のなさが皆の士気を下げているんだ! 昼間に何もしない団長が、許される訳あるか!」
「士気は下げてないし、やる気はあるわよ。それに私は、夜中に沢山魔物を倒しているのだけれど」
私のその言葉を聞いてか、オリヴァーの顔に強い怒りが現れる。
「そんな見張り番としての仕事だけで、他の皆が納得する訳ないだろ!」
見張り番……ね。
余りにも酷い言いようだった。
確かに、やってる事は見張り番と変わらない。けれど、団長の責務としては十分する程に働いている事に変わりない。何故なら、私一人と、それ以外の者で昼に対応する魔物の総数は、私の方が多いからだ。
それを知った上で言っているのなら、副団長の方が現実が見えていない。
「でも、代わりがいないから仕方なく」
「関係ない! お前が楽したくて、ずっとやってるだけじゃないか!」
楽したい様に見えていたのなら、どう説明しても無意味だ。
こいつは夜勤の辛さを知らないんだ。
夜勤、連続通勤記録が更新されていく、あの感覚を知らないんだ。
私クローディアは、元は日本人だった転生者だ。
前世の生活はとにかく酷く、会社に寝泊まりする事が基本で、家に帰れたとしても短い睡眠時間を終えると直ぐに会社に出社する社畜人生を送っていた。
そんな私も、気づいた時には過労で死んでしまい、この異世界に転生していた。
性別が同じだった事が救いだった。
そして学生時代に読んでいたラノベの世界に入ったかの様な感覚は素晴らしく、社畜から解き放たれた私はこの世界の魔術を徹底的に調べ試し、魔物を倒している内に団長にまで任命されたのだった。
誰が楽したくてやるか。
夜勤って辛いんだよ。
のんびりお菓子食べながら、誰かと話してる方が良いに決まってるじゃん。
夜だから、まともに話し相手も居ないのに……。
「楽して……ね。そう……思ってたんだ。ちゃんと魔物をどれぐらい相手にしてたかは、言ったよね?」
少し怒り気味に私が問うと、オリヴァーから見下す様な冷たい視線を向けられた。
「あぁ聞いているとも、団長様が言った異常に数の多い報告数も、夜行性の魔物ばかりで大変。という可愛らしい、文言も全て把握している。君のそういうのに付き合うのは、もううんざりだ」
あぁこの人は、私が言ってる事を信じていない。
理由はなんであれ、団長という立場に居る私が気に入らないんだ。
私が居なくなれば、この人が団長だもんな。
「それで、私にどうしろと?」
「自ら、辞めていただきます。これは、師団全員の意思です」
「えっ……」
流石に悲しかった。
話す暇はなくとも、見張り番は他にも数名居る。
その人達であれば、この役立たずよりは私がどう戦っているかを把握している。そう信じていたのに、師団全員の意思と言われてしまった。
「婚約者であるあなたも、それで良いと思ってるのよね……」
「当たり前だ。君が居ても、もう何の意味もないからな。今や、汚点とすら言える。婚約者が何もしない団長だったなんて、恥ずかしくて肩身が狭いだけだ。お前にこの気持ちが分かるか?」
そう高らかに話す男を見て、私は何とも言えない気持ちになっていた。
「そっか。分かった。国王陛下には、なんてご報告を?」
東西と北を国に囲まれ、南から来る魔物の相手をしないといけない王国に、私を弾く余力があるとは思えないけど。どうせ、この人がどうにかするつもりなんでしょう。
「安心して消えるが良い。貴方を団長に推薦した伯爵殿も、今では成り下がったただの、一貴族に過ぎない」
「なるほど、じゃあ退職……じゃない、退団理由は、適当に報告しとくね」
師団の士気低迷による問題解決のため。ぐらいにしておこう。
後で突っついて文句言われても、私には関係ない。
「あぁ、何でも良いから。さっさとこの戦地から、消えてくれ。君はお荷物なんだよ。僕にとっても、師団にとっても、邪魔でしかない」
「……そうですか、分かりました。それでは、後の事は頼みます」
「言われなくともこれまで通り、いや。これまで以上に、ちゃんとするに決まってるだろ。それぐらいの事も分からないのか? 馬鹿が」
もう、返す言葉もなかった。
私は一人天幕を出て、静かにその場から離れて行く。
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――海月花夜より――