戦をどう捉えるか
「陛下、次の議会の内容ですが」
「陛下、こちら嘆願書のまとめです」
「陛下、裁判所から役員が来ております」
と、ノアの執務室には臣下の魔人が多く出入りしていた。中には獣人もいるが、比率としては魔人の方が多い。
ノアは仕事を捌きながら夢でのことを考える。
(・・・兄上ならば、どうされていたか)
あくまでも自分は兄王のスペア。臣籍降下をするつもりが、まさかの下剋上をしてしまい最も慌てたのは国を運営している大臣たちだった。
王による他国への一方的な宣戦布告からの即時開戦。
大陸を統治する魔人族、獣人族、鉱人族、海人族。全てを無視した暴走としか言いようのない大混乱の中、唯一まともに機能していたのは各国を運営し続ける大臣たちだけだった。
理由は至極単純。
これまで国を動かしてきた矜持。そして逃避。
王だけが暴走しているという旨を各国に通達し、他国の矛先が国に向かないようにした。
犯罪者は変わらず牢の中に残っている。それらの管理も必要だった。
王の暴走。
それ以外は全てがこれまで通りであるために。
だが同時に、王を最も信頼していたのも大臣たちだった。なにより宣戦布告の前日まで滞りなく、それまでと変わりなく執務をこなしていた王が突如として豹変したのだ。その混乱は窺い知れない。
大臣たちを中心にノア新王が執務を進行する。
他の重役たちの言葉は全て結果によって黙らせてきた。
例えば戦時下に研究された広範囲殲滅魔法の制御方。これは災害時の被害を抑えるための防御魔法に転用された。
例えば兵や物資を長距離移動させるための転移魔法は人々の生活に定着し、今や気軽に他国へ渡航できるようになった。
それらの結果からノアは人々に受け入れられた。兄を殺さなければならなかったことにも一定の同情は集まった。戦争肯定派を除いて。
元より他種族よりも頭1つ抜きん出た能力を持つ魔人の、特に名誉欲や金銭欲に塗れた者たちは先王の決断を擁護し、それを殺したノアを非難した。
直接的な言葉ではない。しかし『兄殺しの王』という異名は市井にも流れた。これはそんな者たちが流した証拠に他ならない。
故に虎視眈々と狙う者もいた。ノアを貶せば再び戦の火蓋が切られ、他国に付け入る隙を晒す。そこを自分たちが切り返せば、自分たちこそが英雄になれると。
だからこそ、これは想定されていた。
獣人国との和平を記念した祭りで、ノアが襲われること。