第二羽 超音速のカワセミ
オレンジ色のカワセミに生まれ変わった僕は今、研究所に住んでいる。
研究所の名前はMESHIDUKA。北海道札幌市にある有名な研究所。研究員は五人。そのうちひとりは来週に来る予定。残りの四人は今、僕を研究中。全員、男性。来週来る人は北海道の随筆・エッセイを研究する予定。
飯塚賢治。MESHIDUKAの所長。六十歳。
中裕司。四十六歳。
安原広和。四十六歳。
大島直人。四十七歳。
僕が研究所で一番楽しみにしていることは、飯塚翼と遊ぶこと。飯塚翼は飯塚賢治の孫娘であり、六歳。彼女の誕生日は僕と同じ八月八日。彼女は花嫁のように美しく、服装は昭和のアイドルファッションに似ていてかわいい。しかし、彼女にはあるものがある。それは難病。病名は分からない。余命は二十年と祖父から宣告されていた。なんて酷い祖父なんだろうと僕は怒りを持ちながら思った。翼は生まれてすぐに両親を亡くしている。彼女は両親の顔を知らない。と言っても、翼本人から聞いた話。翼は毎晩星を見ている。本当の家を恋しがっている。翼の本当の家は北海道十勝市にある。翼は寝る前、王女のように祈ってから就寝する。理由は新しい自分を探すため。
翌日の朝、賢治さんが僕たちの部屋に入室した。
「ウィング、翼。明日は飯塚邸に引越し。」
賢治は引越しの報告をしてから部屋を退室した。
賢治の報告に翼は喜んだ。
「ウィング、私の夢が叶った。」
翼は嬉しそうに僕を持ち上げ抱っこをした。
翼は早速引越しの準備をした。翼はクローゼットから綺麗な服を出した。
「僕に何かできることない?」
「ないって、ウィングは確か、超音速とシャドウボックスが使える。」
「超音速とシャドウボックス?」
僕は疑問を持った。
「そっか、ウィングは自分の能力知らないのか。」
今まで翼と遊んだのは、ミュージシャンごっことFFのチョコボごっこ。
「ウィング、今は超音速必要ないから、シャドウボックス。右羽を広げて、『シャドウボックス』と言えば、黒い段ボール箱が出てくるから。」
翼の言われた通りに右羽を広げた。
「シャドウボックス。」と言うと、右下から黒い箱が出てきた。
「そうだよ。ウィング、この技を忘れないでね。」
翼は黒い箱を手に取り、すぐに箱を開けて綺麗な服や電子機器、アクセサリー、文房具を入れた。
「ウィング、私、小さいころから音楽をやっているの。もちろん、勉強やスポーツも。」
翼は笑顔で過去の話をした。
「あっそうだ、ウィング、あなたにプレゼントがあるの。」
翼はクローゼットから青い箱を出した。
青い箱には、『ウィング』と書かれていた。
「ウィング、まだ靴が無いんでしょ。ほら。」
翼が青い箱を開けると、中身は黒いスポーツシューズが入っていた。
「あなたにぴったりの靴なの。だから、明日の引っ越しで履こう。」
翼は靴を出して、僕の両足に入れた。
「ぴったりよ。」
翼は嬉しそう言った。
引っ越し当日の朝、僕は黒い靴を履いて翼と一緒に本当の家に行く準備をした。
「ウィング、本当の家は十勝にあるの。」
「それぐらい知っているよ。」
翼は首を傾げた。
「ウィング、知っているの。」と質問された。
「し、知らない。」と誤魔化すように答えた。
「ウィング、十勝に行く前に函館に行かない?」
翼が急な質問をした。
「函館、行く。」と大声で答えた。
「しっ。」
〈ウィン?〉
「ウィング、静かにして。あの四人にバレるから。」
「分かったよ。」
僕はあの四人にバレないように翼を慎重に背負った。
僕はスタンディングスタートをするように超音速で空に向かった。
空に向かった僕と翼は札幌観光をしながら五稜郭を探し始めた。
清潔な白に染まった札幌市時計台。さっぽろテレビ塔。美しい自然であふれている大通公園。札幌で有名なスポットの周囲を超音速で通った。北海道の美しい自然に触れていると、大きな緑色の星が見えた。つまり、五稜郭。
僕と翼は五稜郭公園に降りた。
「ウィング、五稜郭タワーに昇ろう。」
翼は僕を抱っこして五稜郭タワーへ向かった。
タワーの中に入った僕と翼はチケットなしでエレベーターに乗った。なぜなら、翼は年長の六歳だから。エレベーターに乗ったのは、僕と翼のふたりだけ。
「ウィング、なんだか、わくわくするね。私、タワーに昇るのはじめてなの。もちろん、東京タワーや東京スカイツリー、通天閣にも昇ったことがないのよ。」
「へぇ、そうなんだ。僕も、初めてなんだ。」
〈本当は二回目なんだけどね。〉
僕は恋愛小説のようにバレない嘘をついた。
高校一年生(前世)の頃、藤と夜のデートの時に昇った。
「そうなの。」
翼は返答した。エレベーターの中が急に暗くなった。
「ウィング、何?」
翼は災害が起きたかのように僕にカワウソハグをした。するとエレベーターの中が急に光った。
「え?何?なんて書いてあるのかな。」
翼は思わず泣きそうになった。
「大丈夫だよ。翼。」
僕は花嫁のように泣きそうな翼を励ました。
「君はどんな理由があっても、人から守られ、人を守る心がある。君の心は北海道の自然のように美しい。」
僕が翼に名言を言った。
エレベーターの中は急に明るくなり、速攻開いた。翼はカワウソハグをしながらエレベーターを降りた。エレベーターを降りてすぐに展望台に向かった。
「ウィング、五稜郭。見えるでしよ。」
「見えるよ。」
僕は返答した。
「ウィング、展望二階に行ってみる?」
「ウィン。」
僕は即答した。
僕と翼はエレベーターに乗り、展望二階へ昇った。
「ウィング、写真撮ろう。」
翼は鞄から白いカメラを出した。六歳なのにカメラを持っている。翼は首にカメラをぶら下げた。
「ウィング。」
カシャ。
翼はいきなり僕をびっくりさせるように撮った。
「ウィング、ここの階はね、五稜郭が少し小さく見えるのよ。」
翼は王女のように言った。翼は僕を抱きながら少し小さく見える五稜郭を眺めた。
「ウィング、この階に土方歳三のブロンズ像があるんだって。」
翼は僕を抱きながら土方歳三のブロンズ像に向かった。
「ウィング、ここよ。これが土方歳三のブロンズ像よ。」
〈知ってる。新撰組副長で函館の戊辰戦争で死んだ人。翼が言わなくても、日本の歴史で知っている。〉
「ウィング、土方歳三の隣に行って。」
「隣に行って何をするの。」
「記念撮影。函館に行った思い出の。」
僕は銅像の隣に行った。
「翼、ここでいい?」
「いいよ。」
カシャ。
翼は僕と銅像を撮影した。
「ウィング、展望台を一周してからお土産屋に行こう。」
翼は僕の近くに行ってカメラを鞄に入れてから僕を抱いて一周を始めた。
「ウィング、タワーの近くにホテルがあるよ。」
僕と翼が見ているのは、ホテルBRS函館。
ホテルBRS函館は、僕と藤がはじめて函館に行った時に泊まったホテル。部屋は広くてベットが寝心地良くて寝やすかった。
「ウィング、展望台一周したから。お土産屋に行こう。」
翼は僕を抱きながらお土産屋に行った。
お土産屋に着いた翼はいろんな商品を見た。
北海道のフォトカード。
宝石のように輝いているキーホルダー。
自作イラストの参考になりやすい日本刀のキーホルダー。
お土産屋の商品を見ていると、『自動手相占い』と書いてある看板を見た。
「ウィング、手相占いだって。私、一度、占いをやりたかったの。」
翼ははじめての占いに興奮していた。もちろん値段は無料。
占いのやり方は二つ。
男性は左手。女性は右手。片手を機械の上に乗せるだけ。
翼は早く右手を機械の上に乗せた。すると、一枚の紙が出てきた。翼は一枚の紙を取って読んだ。
「あなたは今後、なにわで素敵な人と運命の奇跡を起こすだろう。」
運命の奇跡、そう、その奇跡は、今年の十月の第二金曜日に知り合いが住んでいる大阪へ駆け落ちする。
二年後に彼女が死ぬまでは。
占いが終わり、翼は宝石のように輝くキーホルダーを手に取り店員に五百円玉を二枚を出した。
二枚の五百円玉を受け取った店員はキーホルダーを小さい封筒に入れ、翼に渡した。もちろん、お釣りは無い。
キーホルダーを買った翼は店員から小さい封筒を受け取ってすぐに鞄に入れた。
「ウィング、次は六花亭でお昼を食べてから八幡坂に行って赤レンガ倉庫に行って函館山。」
翼は今日のスケジュールを僕に言った。
僕と翼はエレベーターに乗って出口へ向かった。タワーを出たら、僕は翼を背負って超音速で六花亭へ向かった。
六花亭に着いた僕と翼は喫茶店へ入店した。今日は火曜日なので、食事をしている人は半分くらい。
僕と翼は急いで紙に『ヨツバ2名』と書いて近くの椅子に座った。
一分後、店員が「二名でお待ちの四葉さん。」と大声で言った。僕と翼は急いで店員の所へ向かった。店員が「君、もしかしてひとり?」と翼に問いかけた。翼は「違うよ。ウィングと一緒。」と答えた。翼の答えに店は首を傾げた。
「ぬいぐるみと一緒。かわいいオレンジ色の小鳥さんね。席、案内するね。」
僕のことをかわいがった店員は「ここだよ。」と席を案内した。席を案内された僕と翼は黒い椅子に座った。
翼は早速メニュー表を手にした。
「ウィング、このメニューは六花亭名物のサッサクティラミスミルフィーユ。私、これにする。」
翼はサッサクティラミスミルフィーユの画像に指を差した。
サッサクティラミスミルフィーユの画像は白い円皿にトマトの苗の絵柄。卵の黄身のような色をした水の粒がふたつ。長方形でチョコの粉がかかっているバニラ色の生クリーム。
メニューを決めた翼は店員呼び出しボタンを押した。すると、パトカーのサイレンが聞こえた。翼は今六歳だから大丈夫だけど、もし五歳だったら泣くか泣かないか。
「はーい。」
店員が僕と翼の席に来た。
「ご注文はなんでしょうか。」
「サッサクティラミスミルフィーユとドリンクのオレンジジュース。」
「かしこまりました。では君が使いやすいように木のフォークと木のナイフを持ってくるから。」
注文を受けた店員は小さな籠と水の入った硝子製のコップを持ってきた。
「もうすぐ、ジュースを持ってきますから。」
店員は伝言を伝えてからキッチンに戻った。
キッチンに戻ってから二分後、トレーを持った店員が僕と翼の席に近づいて来た。
「お待たせしました。ご注文の品であるサッサクティラミスミルフィーユとオレンジジュースです。どうぞ召し上がってください。」
店員は注文の品と一枚の紙を置いてキッチンへ戻った。
美味しそうなミルフィーユを見た翼は「いただきます。」と言っておしぼりで手を拭いてから木製のフォークと木製のナイフを手に取り、ひとつのミルフィーユを上手に取ってフォークで固定しながらナイフでゆっくり切った。半分に切ったミルフィーユをそのままひと口食べた。
「美味しい。」
翼は子役のような顔をして言った。
翼はバニラアイスクリームやバニラ色の生クリームをつけながら食べた。翼はオレンジジュースを半分飲み、ミルフィーユを完食した。完食後に翼はオレンジジュースを最後まで飲み干し、財布を出して一枚の紙を持ってレジに行った。
「お会計は千円です。」
「はい。」
翼は紙と百円玉十枚を店員に渡した。
「百円玉十枚で千円。丁度お預かりします。」
紙と千円を受け取った店員はすぐにレジに入れてレシートを一枚翼に渡した。
「ありがとう。」
翼は会計を済ませて八幡坂に向かった。
八幡坂に着き、翼は鞄からカメラを出して首にかけた。
「ウィング、写真を撮ろう。まずは緑色の柱の近くに行って黄色い消火栓を眺めて。」
翼はプロカメラマンのように僕の立ち位置を指示した。
「翼、ここでいい?」
「そう、ここでいいよ。」
カシャカシャ。
翼は写真を二枚撮った。
「ウィング、とてもいいよ。次はハートの石を探しながら八幡坂を散策して赤レンガ倉庫に行こう。」
翼はハートの石を探し始めた。
「どこかな。どこにあるのかな。」
翼は周囲の石を見た。でも、ハートの石は見つからなかった。ハートの石探していると、旧函館区公会堂が見えた。
はじめて藤と来た時はこの近くにハートの石があると思っていた。でも、石は見つからなかった。石の場所は家の近くに竜巻のような形をした木のすぐ下。
翼の天才的な推理でハートの石見つかるのかな。僕はそう思いながら翼を見守った。
「翼、ヒントその1は、竜巻のようなような形をした木を見たらすぐに下を向いて。」
僕は翼にヒントを言った。
「竜巻のような形をした木。」
「ヒントその2。とても小さい竜巻の木。見たらすぐに下を向け。小さな赤い屋根。」
今度は少し簡単なヒントを言った。
「ヒントその3。右を向け。」
「分かった。さっきの赤い屋根の家。」
翼はコナンのようにハートの場所を答えた。
赤い屋根の家へ向かった。赤い屋根の家に着いた翼は下を向いた。
〈どこだ。ハートの石。〉
翼は心の中でハートの石を探し続けた。すると、翼の目が止まった。
「ウィング、ハートの石、見つかったよ。」
翼は嬉しそうにハートの石を見つけたことを僕に報告した。
カシャ。カシャ。
翼はすぐに鞄からカメラを出し、二回撮ってすぐにしまった。
「ウィング、赤レンガ倉庫に行こう。」
「翼、カメラ大丈夫?」
僕は心配するように言った。
「大丈夫だよ。ウィング。こう見えて私、結構器用だから。」
翼は平気そうに答えた。
僕は翼を背負って超音速で金森赤レンガ倉庫へ向かった。
金森赤レンガ倉庫に着いた僕と翼は早速倉庫へ入った。倉庫の中は大正レトロのような光に包まれている。
「ウィング、この倉庫にアクセサリー店があるの。」
「アクセサリー買うの?」
「違うの。この店にバースがあるの。」
翼の謎発言に僕は「バース?何それ?何色?」と質問した。
「バースっていう宝石は、七つあって七色あるの。」
翼は何かを覚えているかのように答えた。
「今、バースを狙っている人がいるの。その人は傲慢な力を使って他人が持っているバースを奪うの。」
翼の説明に僕は気配を感じた。
「翼、何も触れていないよね。」
「うん。」
「ロープウェイに行こう。あそこの方が安全だ。」
僕は翼を連れて倉庫を出た。倉庫を出てすぐに僕は彼女を背負って超音速でロープウェイの乗り場に向かった。
ロープウェイの乗り場に着いた僕と翼は券売機で二枚のチケットを買った。
「ウィング、なんだか怖いわ。今は十八時三十分。」
翼は恐怖を感じながら今の時間を言った。
「翼、これやばいよね。」
「ウィング、大丈夫だよ。」
僕と翼は心を落ち着かせロープウェイに乗った。
ロープウェイに乗った僕と翼は函館の景色を眺め函館山に着いた。
「ウィング、ここなら大丈夫だよ。ここは、私たちの避難場所。」
翼は僕を落ち着かせるように言った。
僕と翼は展望台に行って夕日を一時間見詰めた。
一時間後、日は暮れて夜になった。
「ウィング、見える?これが函館の夜景よ。」
翼は僕を抱いて函館の夜景を見せた。
僕と翼が夜景を見てから十秒後、空からロケット爆弾のような星がこっちへ向かって来た。
ドーン。
謎の爆発で僕と翼は意識不明になった。
「ウィング。」
翼の声が聞こえた。
「翼?ここはどこ?」
「ここは私の本当のベット。」
「本当のベットにいるなら、ここは本当の家。」
「そうだよね。ウィング。私、今まで何をしていたのだろう。」
「何って、函館観光だよ。」
「函館観光?ウィング、もしかしたら、夢でも見ていたの。」
翼は僕が夢を見ていたかのように思った。僕と翼は何かを忘れたかのように思いながら眠った。