月に満ちる一匹狼
夜空がきれいに見える夜。
風が吹き、月明かりが町々を照らしている。
風が吹いているということは、珍しいことではない。
だが、それは時間が流れているという証拠だった。
彼らがいうように時間がとめられるのだとしたら、この風がピッタリとまるということになる。
そんなことあるわけがない。
認めてたまるか。
「!」
まただ・・・
さっきから、変に力を感じる人々が横を通る。
1回目はかなり大きなものだったけど、3人が気づいていないのだから思い違いだと思った。
ところが・・・
それが何度もおこっている。
さすがに不安になる。
やはり3人に伝えたほうがよいだろうか・・・
「な・なぁ・・・」
「今度はなんだ?」
・・・無愛想な奴め。
非常に面倒そうな顔でこちらを見てくる。
「なんか力を感じないか?」
「いや、感じないが・・・」
「もしかしてお前、探知型なんじゃぁ・・・」
「そんな馬鹿な。かなり珍しい能力ですよ?」
月が雲に隠れた。
そんなときに強大な力を感じた。
「!!」
これには3人も目つきがかわった。
「チッ・・・気をつけろよ、坊主。」
緊迫した空気になる。
「俺は坊主じゃない。」
「戯言は終わってから言うんだな。」
そういうといつの間にか3人が武器をもっていた。
体内に収納できるというのは本当のことだったのだろうか?
「時間をとめた奴・・・かなり強大な力をはなってました。これはヤバイんじゃぁ・・・」
そんなとき、足音がきこえた。
俺たちは皆、立ち止まって3人は武器を構え、俺はキョロキョロと辺りを見渡していた。
足音が聞こえるわけがない。
だが・・・
実際にきこえるのだ。
・・・目の前の人混みから。
「・・・くる!」
ゆっくりと1歩1歩、こちらに歩いてくる男が1人。
間違いない。
一番最初に力を感じた男だ。
そして、人混みから抜け俺たちの目の前に立つと、とまった。
「お前がゼロか・・・」
「チッ・・・さっそくこいつ狙いの野郎かよ・・・」
そういえば・・・
風がない。
・・・ホントに時間がとまっているというのか!?
馬鹿な・・・
そんなわけない。
たまたま止んでいるだけだ。
「我が名は時雨。」
「し・時雨!?」
「知ってるの?」
3人が徐々に後退しはじめる。
後退しながらボソッとフェニックスが言う。
「時雨は「龍王の盾」の1人です。通称「一匹狼」。」
いきなり「龍王の盾」かよ!?
一匹狼ってことは・・・
基本1人ということか。
だが・・・
後ろから3~5人の人が歩いてくる。
「あ・・・う・・・」
あれは・・・
皆、俺が先ほど歩いているときに変な力を感じた人たちだった。
見事に・・・的中していた。
「冗談・・・だろ・・・」
またしても非常識と認めざる得ない事態がおきてしまった・・・
「お前らは手を出すな。」
「はい。」
後ろの連中はこいつの部下みたいだが・・・
やはり「一匹狼」。
1人で狩りをするということか・・・
「まずいぜ・・・」
「これは逃げたほうがいいみたいですが・・・そう簡単に逃がしてもくれなさそうですし・・・」
「くっ・・・」
徐々に後退するが・・・
それと同時に連中は前へ前へと歩いてくるので距離がひらくことはない。
「そちらからこないならいかせてもらう!いざ・・・参る!!」
そういうと視界から消えた。
「危ない!!」
「え?」
上をみると、男が上空から落ちてきていた。
「う・うわぁ!」
とりあえず逃げるしかない。
「逃げるか!だが、逃がさん!」
彼が刀を縦と横に流れるようにふると、そこから生じた風が刃になり、こちらに向かってきていた。
「伏せろ!」
「くっ!」
神速とよばれる男にいわれて、とっさにふせる。
風は頭の上を通り過ぎて、後ろにとめてあった車がまっ二つになった。
「おい、冗談じゃない!」
こんな「どっきり」、冗談じゃないし、ぜんぜん笑えない!
てか、この企画考えた奴、マジでもういい!
頼むから、とめさせろ!!
「チッ・・・黙ってみてりゃ、調子にのりやがって!!」
神速が槍をかざし、男へと突っ込む。
「甘いな。」
「ヤベッ!」
神速と呼ばれる男の動きは早すぎてまったく見えない。
けど・・・
俺が見えたときには、彼は槍をもっていなかった。
「レン・・・例のを使っていいか?」
「・・・だが・・・」
「このままじゃ全滅だぜ。」
「・・・わかった。許可する。」
すると、神速と呼ばれる男の手には、今度は剣があった。
「!」
それをみると、「一匹狼」の表情が少し変化した。
「その剣・・・「スラストケイヤ」か?」
「昔の名前はな。今は「神風」って名前がある。」
「ふっ・・・よかろう。その「神風」とやらの力・・・見せてもらおう。」
何をいっているかはわからないが・・・
とりあえず彼の持っている剣が「神風」という名前なのはわかった。
「行くぞ!!」
彼が走っていく。
・・・さっきより早い。
まったく見えない。
いや・・・意識を集中しろ・・・
「速い・・・」
2人も呆然と見ている。
おそらく2人にも見えていないのだろう。
2人に見えないなら俺も見られるわけがない。
「ふぅ・・・」
彼が見えたとき、彼はかなり疲労していた。
「野郎・・・俺の攻撃を全部左手の剣で受け止めやがった・・・冗談きついぜ、マジで。」
神速が苦笑する。
ん?
左手の剣?
「一匹狼」は二刀流なのか?
「「神風」とやらの力・・・それだけか?」
彼をよくみてみるが・・・
剣は右手でしかもっていない。
どういうこ・・・
「危ない!!!」
不意に押されて、倒れこんだ。
「レン!!」
「うっ・・・」
次に俺が見たのは、剣が肩あたりに貫通している女性の姿だった・・・
俺をかばった!?
だからこんなことに・・・
「な・・・」
「大丈夫?」
「あ・あぁ・・・」
こんなに血がでてるのに・・・
それでも人に気を使えるなんて・・・
「チッ・・・右肩をやられた・・・が、問題ない。聞き手は左だ。」
そういうと、剣を抜いた。
剣の先端は、赤色に染まっていた。
「ゼロをかばったか・・・そんなに死にたいならお前らから消してやろう。」
相手の男はゆっくりと近づいてくる。
「まずい!」
「今、どれくらいです?」
「やっと傷口が閉じた。まだ内部はダメージがある。」
おかしい・・・
さっきも証明してくれたが、傷の治りが早すぎる。
「チッ・・・俺が時間を稼ぐ。」
神速が「神風」を構えて、走ろうとしたとき・・・
「一匹狼」は変化していた。
彼は先ほどまで建物で月明かりにあたらない影の部分で戦っていたから・・・
月明かりが苦手なのかとひそかに考えていたが・・・
今、彼がいるのは月明かりをモロにあたるところだった。
彼の体がぶれ始める。
この光景・・・
見たことがある。
そうだ・・・
フェニックスが妹に香水のようなものをかけたときと同じ・・・
じゃぁ・・・こいつ、本気になるつもり!?
どんどん口にある歯は伸びて、とんがっていき、牙となる。
二足歩行から四足歩行となり、徐々に黒い毛がたくさんはえてくる。
「う・嘘だろ・・・」
生きてる人が獣になるところなんて・・・
漫画とかアニメとかでしか見たことなかった・・・
実際みてみると結構グロいものだ。
人がホントに獣になるなんて・・・
俺はこの目にはその姿がしっかり焼きついてしまった。
「お・狼!?」
ぶれ終わった。
どうやら変化が終了したようだ。
月明かりに照らされるその姿は・・・
狼そのものだった。
「そこまでだ、時雨。」
「!!」
すると上から声がした。
これまた強大な力。
人が空中にういていた。
ポケットに手を突っ込んで、たばこを吸っている。
「将軍か・・・人の戦いの邪魔をしないでほしい。」
「将軍」!?
こいつが・・・
フリューゲル!?
「巨大な力を感じてきてみれば、お前かよ・・・まぁ、おかげでゼロを発見できたがな。」
こいつも・・・
俺狙い?
「てか、本部で俺たち「龍王の盾」に招集がかかってるんだが・・・お前、なんでこんなところで暇つぶしてるんだ?」
「暇つぶしをしているわけじゃない。お前と一緒にしてもらっては困る。」
狼はいつの間にかまたもや影の部分へと移動して、人の姿となっている。
「こっちに「旋律の剣」の連中がきてるぞ。」
「チッ・・・」
「先頭の連中は殺っておいたが・・・まぁ、少しの時間つぶしにしかならないだろ。」
やった?
それって・・・
殺したってことか!?
「撤退しろってことか?」
狼は将軍をにらみつける。
「あぁ。それにゼロを傷つけることは俺が許さねぇ。盟主エンゲージ閣下の意思に逆らうことになるからな。」
「・・・わかった。俺も・・・本部に向かうとしよう。」
狼とその部下も空へと浮かび始める。
「お・おい!フリューゲル!中東にいたはずのお前がなんでここにいる!?」
「ん?ほぅ・・・フレイバーの連中か・・・久々だな。」
「んなことはどうだっていいんだよ!」
神速は将軍をにらみつける。
「まぁ、平たくいえばゼロ狙いだ。」
「んなことで、わざわざ中東からご苦労なこったな。」
「将軍としての身はなかなか大変なんだぜ?」
そういうと将軍はこちらを見た。
一瞬で鳥肌がたった。
恐ろしいほどの強大な力・・・
「・・・ゼロ、今度会うときはお前をこちらへつれてってやる。」
「・・・」
その言葉は非常に重く、強い。
俺は言い返すことすらできない。
「行くぞ、時雨。」
「お前に言われてなくてもわかってる。」
そういうと2人が飛んでいった。
残ったのは3人と俺。
さっきとかわらないのに・・・
気まずい空気である。
「あの・・・大丈夫?」
そういうと、彼女は俺をギロリとにらんだ。
「なわけないでしょう?というか・・・戦場でウロチョロしないでくれる?正直邪魔。死にたいの?」
たしかに俺が悪かった。
けど・・・
非常にイラッとくる言い方である。
「まぁまぁ。彼も悪気があったわけじゃないですし・・・」
「だが当たり所が悪ければレンは死んでた。」
「あのねぇ・・・そんな簡単に死ぬわけないでしょ?まだまだ私はゲルレレを殺さないといけないの。」
非常に殺戮的である。
「さて、次の作業いくわよ。」
「おい、怪我は?」
「時間の流れがこないうちに修復のほう先決。そして、流れ始めたら本部にいくのが先決。私の怪我は本部で行う。」
「大丈夫かよ?」
神速が、そんなに焦りをいれずにいう。
いつものことなのだろうか・・・
「最低限度は治ってる。本部に向かう途中にも治ってく。だからぜんぜん大丈夫。」
「わかった。」
彼女の腕は傷口はふさがっているものの血まみれだった。
その光景をみて俺は悟った。
俺の暮らしてきた世界と彼女たちのいる世界は同じ世界でも別の世界。
日常と非日常。
そして・・・
俺も日常から非日常へと転落し、もう戻ることはできない。
すなわち・・・
彼女たちの話は本当のことだ。
「まぁ、とりあえずここら辺の修復といきますか!」
「彼らが去ったのだから・・・そろそろ時間の流れが戻りますからね。」
町をみてみると、先ほどの風の刃のせいで車が一台粉砕されている。
他はあまりかわりない。
するとフェニックスがノートパソコンをひらく。
「壊れた車の修復・・・これなら3秒で終わります。今日は楽で助かります。」
そういいながらに、キーボードを打ちまくっている。
「さぁ・・・修復!」
そういって彼がエンターキーを押した。
すると・・・
車はみるみるうちに直っていった。
「す・すげぇ・・・」
「いつもはもっと激しく町が壊れるんですよ・・・直すのが大変なんです。」
なんて彼は苦笑する。
「さて・・・とりあえず新手がこないうちに急いで本部に向かいましょう。」
「そうだな。」
「えぇ。」
俺は・・・
とりあえずついてく。
いや、もう「とりあえず」じゃない。
家はゲルレレに占拠されている。
行くところなんてない。
だから・・・
「行くしかない」んだ。
ありえないことが目の前で何度も起こって、そのたびに目に焼きついて・・・
今の俺は頭がイカれそうになっていた・・・
「月に満ちる一匹狼」 完