「龍」と「龍王」と「龍王の盾」
薄暗い闇が渦巻き、ほのかに街灯が道を照らす夜・・・
風がふいた。
「やっと時間が流れはじめたか・・・」
その男は助手席でたばこをくわえながらに、夜空を見上げていた。
リクライニング式の椅子を倒して、寝ながらである。
車のフロントガラスがわれていて、そこから彼の足がでている。
「フリューゲル将軍!」
すると、その車の隣に1人の男がいて、敬礼をした。
「よぅ、ヴェルナー中尉。どうだった、中身は?」
「家の中は生きてる者は誰もいません。」
その報告に、「将軍」と呼ばれる男はたばこを捨てて起き上がる。
「で?被害は3名か?」
「はい。」
「チッ・・・優秀な諜報員だったんだがな・・・一足遅かったか・・・」
彼はドアを乱暴に閉めて、外にでて、少しの間、手を合わせて、目を閉じる。
それから少しして、自らが乗ってきた車に蹴りをいれる。
人間業ではない。
その車はまっ二つになってしまった。
まわりには「将軍」とよばれる男と「中尉」しかいなかった。
「せっかくいただいてきたこの車も意味なしだな・・・」
彼が乗っていた車・・・
それは「パトカー」だった。
今はその原型をとどめていないが・・・
「死体は?」
「すでにトラックに回収済みです。」
「そうか・・・」
家の裏側にはトラックが2台とまっている。
「将軍!報告します!!」
「どうした、ロイヤー少尉。」
そんななかにもう1人男がやってきた。
「少尉」と呼ばれる男である。
「本部より帰還命令がでています。」
「・・・誰の命令だ?」
将軍は目を細めて、少尉に問う。
「基本的には「軍師」と「参謀」からです。」
「・・・」
「しかし、この命を受け、「男爵」がすでに本部に移動したと・・・」
「はぁ・・・」
その報告をきくと、少し呆れ顔で将軍はため息を一息つく。
「よし、俺らは撤退するか。」
将軍は目の前の家をにらみつけてそう言った。
「いいのですか?」
その言葉にヴェルナーが聞き返す。
「連中もバカじゃない。俺たちがここを占拠することぐらいわかってんだろ・・・」
「しかし・・・」
吹き付ける風が将軍の服をひらりひらりと舞わせる。
髪もそれにあわせるかのように舞う。
「わぁ~ったよ。第46小戦隊を待機させよう。」
裏手にとめてあるトラック2台には、各車に1個小隊を乗せていたらしい。
「73小戦隊は俺らとともに本部に撤退。」
「了解しました!」
(本部に帰ったら、ゼロの行方でも捜させますかねぇ・・・)
将軍は夜空を見ながら、胸ポケットにあるたばこの箱からまた1つたばこをとりだし、トラックに乗ったのだった。
「なぁ・・・いつまで歩くんだ?」
隣には合計3人の謎の連中がいる。
こんな奴らの話を信じ込むなんて俺もどうかしてるぜ。
あまりにも現実からかけ離れているのだ。
「もう少し。」
お隣の日本刀を、今は隠し持っている女性は、おそらく俺と同学年かそれより少し小さいかぐらい・・・
黒いロングの髪は風がふくたびになびく。
しかしながらに、彼女が「もう少し」と今日、何度言っただろうか・・・
悪いが5回はすでに聞いてる気がする。
先ほどからきいてもきいても、「もう少し」ときたもんだ。
俺はホントに暇人なんだな・・・と自覚してしまう。
「・・・なぁ?そういえば武器はどこにやったんだ?」
「保存した。」
「は?」
保存・・・
その言葉の意味は、そのままの状態に保っておくことのことをいうのだが・・・
「あぁ・・・まぁ、いってみれば、体の内部に取り込んだってところかな?俺たちの意思で武器をいつでも収納できる。」
相変わらず冗談がきつい。
「武器が体内の器官に反応して、濃縮されてからだの内部の一部になるの。」
いや、意味わからねぇ~し・・・
これ以上いっても、意味わからない答えがかえってくるだけなので、質問をかえることにする。
「てか・・・あんた、ゲルレレのこと、詳しいのか?」
「まぁ、専門だからな。」
「神速」と呼ばれる男は言った。
髪はボサボサとしているが、なかなかの男前である。
年も・・・俺より少し上ぐらいだろう。
「今までにいろんなゲルレレとやり合ってきましたからね。」
先ほどまで「フェニックス」と呼ばれていた男は小さなノートパソコンを使いながらに言う。
歩きながらにパソコンというのはなかなか器用なことだ。
彼は彼らの話によると、時間をとめたりする、いわば「ストッパー」の役目を果たしているらしい。
地味にイケ面なのが、羨ましい。
彼は「神速」と間逆に整った髪をしている。
手入れをしているのだろうか?
年は俺と同じぐらい。
だが・・・
こいつは確実に「天才」のオーラをだしている。
「日本には・・・ゲルレレは多いのか?」
「いや、日本は私たちの仲間が多く警備してるし、3日ごとに日本中を確認してるからいないはず・・・だった。」
「・・・」
いないはず・・・ねぇ?
さっきの話と矛盾している。
普通に「ゲルレレ」がごまかしているときは見つけられないんじゃなかったのか?
「本部にある「セクレット」と呼ばれる隠密機械で検索するんだぜ?これが結構ボロいんだよ・・・」
「時間もかかりますしねぇ・・・日本全体を確認するのに2日はかかりますよ・・・」
「だから、「セクレット」を投入してるのは、日本やそれ以下の面積の国のみ。だからアメリカとかロシアは異常にゲルレレが多いの。」
それは異常に物騒だな・・・
といいたいところだが、残念ながら笑える話でもない。
もちろん信じているわけではない。
が!
現に「フェニックス」と呼ばれる男が「ゲルレレ」の正体を見せたり、隣の女の子が傷の治りが早いことを証明してくれた。
「さっき同業者とかいってたけど・・・なんかの組織なのか?」
「私たちのチーム名は「旋律の剣」。」
これまた微妙な名前ときたもんだ・・・
「各地に仲間がいるし、時にはチーム合同で作戦を行うこともある。」
ということは・・・
団結力があるということか・・・
「で?あんたらの力ってのは、あんたらだけが使えるのか?」
「えぇ。私たちは特殊な力をもった、人間の異質、「リクルート」と呼ばれる種族よ。」
人間の異質・・・
「リクルート」とよばれる種族などきいたことがない。
「これは私たち「リクルート」と呼ばれる人間のみが持てる力で、普通の人間が特訓しても身につかない。」
「しかも同じ「リクルート」でも、人によって力も違いますしね。」
特殊な力というのはどこまででも特殊だということか。
「まぁ、種族といっても一緒に暮らしてるわけではない。いってみれば「血液」みたいなものね。」
「血液?」
「えぇ。血液っていうのは生まれながらでしょ?それと同じ。かなり低い確率で「リクルート」の力をもった人間が、生まれるのよ。」
いわば、その力を持つことができるかはすべて「ランダム」ということか。
「日本はリクルートの力を持った子が生まれることが多い。」
「現に俺たちも皆、日本人だしな。」
「「旋律の剣」が日本の警備を強固にする理由はそこにもあるんですよ。」
どこまでもSFというか・・・
ファンタジーな話である。
というか、専門用語が多すぎてついていけない。
「リクルートは「ゲルレレ」と同様に普段から少し力を放ってるの。だから私たちも「ゲルレレ」もリクルートを見つけることができる。」
ちょっと待て。
なら生まれたときに接触すればいいじゃないか。
今の俺はもう高校生だ。
遅すぎじゃないか?
疑問は不信へとかわっていく。
「なんで今頃になって俺のところへきた?」
「リクルートの力は生まれた時には不完全で力を放たないの。」
それは生まれたときは「リクルート」でも普通の人間ということだ。
「でも、成長の過程で徐々に無意識にリクルートの力は目覚めていく。まぁ・・・これは個人差があるんだけどね。」
俺の場合は今だったということか・・・
「ちなみにお前さんが目覚めたのはここ1週間。最近運動で不調じゃなかったか?」
「!」
たしかに最近不調だった。
陸上で、不調真っ盛りだった。
「あ・あぁ・・・」
「それが目覚めに力を使ってるから、運動にまわす力が残ってない。・・・目覚めのしるしね。」
つまり・・・
俺の体は勝手に「リクルート」とかいうわけのわからない変な力に目覚めて・・・
その目覚めと、力を使いこなすための体作りのために体力が削られ、不調になったということか・・・
彼女たちのいうことは到底信じられないことばかり。
だが、俺が不調だったことを知っていて、証明も先ほどにした。
だんだんあまり信じたくないのに、「信じる」という道へ進んでいこうとしている自分がいた。
「あなたの場合、特に撒き散らす力が大きかった。異常なほどにね。だから結構早く探知できたの。」
「まぁ、それは「ゲルレレ」も同じだけどな。」
「いやぁ~、いつになったら引き抜き命令がでるのかと思えば・・・発見から4時間後ですよ?早いですよね?」
その2時間の間に「ゲルレレ」は家族に摩り替わった?
んなバカな。
だが・・・「ゲルレレ」も時間をとめられるとしたら?
・・・可能である。
「ゲルレレの連中は「旋律の剣」よりだいぶ前に気づいてたみたいだけどな。」
いつかはわからないが・・・
「ゲルレレ」だって時間をとめられる。
いつでも家族に入れ替われる。
頭のなかには「絶望」の2文字しかでてこない。
家族の無事を信じたい。
けど・・・
それでも不安で不安でたまらないのだ。
「あなた、運がいいわよ。普通、「リクルート」を「ゲルレレ」に発見されたら殺されてたわよ。」
だが、家族がゲルレレになっていたということは・・・
殺すつもりだったということは否定できなくもない。
「家族になりすましたってことは・・・ゲルレレも引き抜くつもりだったのか・・・」
「え?」
「あなたの力はさっきもいったとおり、異常に高い。それはそれだけ大きな力をもってるということなの。つまりゲルレレ側からすれば、敵にすれば厄介だけど、味方にすれば心強い。そういう存在。」
ということは「旋律の剣」も俺を引き抜こうとしているということか・・・
「私たちの任務はあなたの護衛と引き抜き。」
「・・・なぁ、なんで俺を引き抜こうとするんだ?」
力が強いから?
それだけか?
「力が強いから・・・そして、今、「旋律の剣」は人員不足なの。」
「え?」
「3週間前も、アメリカの地域基地がゲルレレによって破壊された。その基地の仲間は全滅だった・・・」
「・・・」
再び気まずい雰囲気になる。
「だから人員不足だから、リクルートの力をもっている人員を1人でも多く入れたがってるのよ。」
「・・・なるほどね。」
夜の町々の光が鮮やかに照らすなか、静かに4人は歩く。
夜の静粛が、気まずい空気をより気まずくさせる。
「それより・・・さっきのゲルレレの言葉・・・」
「将軍さまってやつか・・・」
「将軍ということは・・・フリューゲルですかね?」
どうやら、フリューゲルというのは、ゲルレレの将軍らしい。
先ほどはパニくってて何一つわからなかったが・・・
冷静にきけばわかるものである。
「いや・・・フリューゲルは中東でドンパチをやってたはず・・・なんでこんなところに?」
その言葉を隣の名もわからない女の子が発したとたん・・・
皆がこちらをみた。
「やはり・・・こいつ目当てか・・・」
「連中はこいつのことを「ゼロ」っていってましたしね。」
「チッ・・・面倒な奴がきたもんだぜ・・・」
やはり将軍と呼ばれるほどのゲルレレ・・・
強いのだろうか・・・
先ほどのゲルレレの体格で相当なものだったから・・・
将軍とよばれるゲルレレはどんなのなのだろうか・・・
「となると「龍」関連かよ・・・最悪だな・・・」
「ですね・・・」
「ごめん、わかるように説明してくれないかな?」
そういうと皆がこちらをにらんだ。
「いや、説明してください。」
訂正しておこう・・・
うん、それがいい。
「とりあえずさっきのゲルレレ3体はフリューゲルと呼ばれるゲルレレの将軍の部下みたいね。」
そこまでは理解している。
問題は「龍」とかそこら辺である。
「将軍はゲルレレ最大の大同盟「龍」に属してるゲルレレよ。」
「だ・大同盟!?」
ゲルレレもやはり生き物・・・
同盟を組んで、人間に対抗してくるということか?
「むしろ、「龍」に属さないゲルレレのほうが珍しいがな。」
彼の言葉から察するに・・・
ゲルレレの基本は皆、「龍」という大同盟に属しているということだな。
「で、そのトップが「龍王」。」
「エンゲージ?」
「えぇ、「龍」の「王」とかいて「龍王」よ。」
エンゲージ?
龍王・・・
ものすごくイカついイメージがある。
「で・・・その「龍王」を支える「龍」の幹部みたいなのが「龍王の盾」。」
「古代遺跡には龍王を囲むように「龍王の盾」の連中がいたから、そこから「リング」という名がついたんだろうな。」
古代ということは・・・
昔もいたということか・・・
「将軍はその「龍王の盾」の1人?」
「そう。彼はざっと3000年は生きてるって言われてるわ。」
3000年!?
ゲルレレというのは、そんなに生きてるのか!?
「なぁ・・・一応きくけど、ゲルレレに寿命ってのはあるんだよな?」
「わからない。」
それって・・・
徐々に増えてるかもしれないってことじゃないか・・・
「・・・というか、こんなにまだ出会ったばかりの信用できない俺に話しちまっていいのか?」
「いいのよ、これぐらいのこと、ゲルレレの連中も知ってる常識だし。」
そんな常識、誰が考えた!?
考えたやつ、出て来い!
そしたらそいつにその考えは「おかしい」というまで殴り続けてやる。
「!!」
不意に強い力を感じた。
「・・・」
わかる・・・
今、横を通り過ぎた人だ・・・
「ねぇ?きいてるのか?」
「え、あ・あぁ・・・」
「何かあったの?」
だが・・・
3人は気づいていなかった。
俺の思い過ごし・・・か。
「・・・あれが・・・「ゼロ」。」
騎士が感じたのは正しかった。
その男は闇に紛れ、ニヤリと微笑むのだった・・・
「おかえりなさいませ、将軍。」
ここはどこにあるか・・・
どんな場所か・・・
まったくわからない場所。
ただ、多くの大きな柱がずらりと道の隣に並んでいる。
「おぅ、セバート。」
「番人」セバート。
それが彼の正しい名前だった。
「奥で皆様がお待ちです。」
「サンキュー。」
将軍は、ヴェルナーとロイヤーをつれてその静かで薄暗い廊下を歩く。
静かな空間に彼らが歩く音が響く。
やがて広い広場にでた。
そこには何人かの人・・・
の形をしたゲルレレがいた。
「遅かったな。」
「悪ぃ、遅れちまった。」
「悪ぃ?「ゼロ」を逃がしておきながらよくいいますね?龍王閣下の意思に背くつもりですか?」
めがねをかけて、杖を使ってたっている、爺がいう。
(チッ・・・もうつたわってやがったか・・・)
フリューゲルは苦笑する。
「うるせぇな。こっちだって大変だったんだぜ?」
「兵をケチるからそうなるんです。」
「あんたは兵を無駄遣いしすぎだ。だから人間に殺されるのが多いんだ。」
「まぁ、まぁ、いいじゃないか。2人とも。」
すると今度は1人の若い男が歩いてくる。
「インドラ男爵。貴様、この私の意見を崩すつもりか?」
「いいえ。ただ仲間割れは部下の指揮低下につながることを「軍師」であるあなたはお気づきのはずです。」
「・・・」
「軍師」ゼンメル。
冷静で冷酷、「旋律の剣」のアメリカ地域基地の破壊を指揮したのは彼だった。
彼は人間そのものを嫌っており、降伏した人間も皆殺しにしたのである。
そして、フリューゲルとゼンメルの言い合いをとめたのがインドラ「男爵」。
機動性の高い羽のはえたゲルレレたちを部下にもつ男である。
「てか・・・オレセイ参謀。俺たち「龍王の盾」を集めた理由ってのはなんだ?」
「今後「ゼロ」をどうするか・・・ということだ。」
参謀であるオレセイは女性である。
ショートの髪をしている。
「まぁ、フリューゲルでドジ踏んでくれたおかげで誰かが余計な厄介仕事をしなきゃならんということだ。」
「おい、姫さまよぉ・・・そりゃぁ、いいすぎだぜ・・・俺だってさっきも言ったとおり大変だったんだぜ?」
「姫」とよばれるロングヘアーの女性。
カタリナはフリューゲルをにらみつける。
「しかし・・・まだ「龍王の盾」は全員集まってないですよね?」
ヴェルナーは言う。
「今、「雪風」と「時雨」、「センライ」は仕事中だ。」
「まぁ・・・「雪風」、「時雨」はいつもいないがな。」
それから1時間ほどしてフリューゲルは広場から離れた。
「センライ団長に任せていいんですか?」
「知らん。いないのが悪いんじゃねぇのか?」
フリューゲルは言う。
「まぁ・・・俺もそれなりに動くつもりだがな。」
将軍はまたたばこを1つとりだし、火をつけた。
その火は暗闇をしっかりと照らした。
まぶしすぎるぐらいに。
「さて・・・と。俺もさっそく「それなりに」動きますかねぇ・・・」
「「龍」と「龍王」と「龍王の盾」」 完