戦力集中(表)
※これは不死鳥視点の物語です
目の前の光が消えた。
ようやく目が開けられるようになったとき、日本の関東司令部にいた我々は中東の地にいた。
「・・・マジかよ・・・」
皆が「当たり前」といった顔をしている中、1人だけ周りをキョロキョロと見渡している者がいる。
西野 騎士だ。
皆が当たり前と思うように普通のそぶりなのも、もうありふれた光景だ。
故に彼のような反応を久々に見るわけで・・・
全くをもって自分の技術の素晴らしさに惚れ惚れとする。
「今回もご苦労だったな、不死鳥。」
「いえ。」
隣に今回の関東司令部からの援軍部隊のリーダーである「若本」は言う。
「・・・皆、ここからは車で移動だ。」
私自身が独自に開発した移動法・・・
自分たちの力を最大限に生かし、計算に計算を重ねて編み出したこの移動技は極めて高度な技だ。
したがって私のような、前衛というより後衛からの支援タイプの力をもった人間にもかなりの上級者しか扱えない仕様となってしまっていた。
・・・今後の課題はこれを以下に簡潔にし、皆の身近な技へと変換できるか。
それが成功すれば、今まで以上に増援の移動が楽になる。
・・・すべては旋律の剣の繁栄と勝利のために。
「・・・車?」
「あぁ、ここが合流ポイントとなっている。」
ただ現在は時間が通常に流れている。
大きな力は使えない上に・・・
これは一種の「電話」と考えてもらえるとありがたい。
簡単にいえば「逆探知」される可能性がある。
敵たちだって馬鹿じゃない。
本拠地への足跡を残せば、そこを陥しにくるだろう。
本拠地さえ落とせば、前衛への命令は途絶し混乱に陥るのだ、これぐらいの考慮は当たり前だ。
「・・・来たか。」
すると、ようやく車がやってきた。
砂漠のど真ん中で立ち往生させられるこちらの身にもなって欲しいものだ。
「中東司令部の連中め、こっちが援軍にきてやってるっつぅ感謝の気持ちが足りてねぇんじゃねぇのか?」
若本は顔をしかめて言う。
・・・集合時間、そしてここに集合ということを決めたのは中東司令部の連中だ。
挙句に、こちらは時間通りにやってきたというのに、あっちは3分ほど遅刻している。
「今は各地から部隊が集まってるんです。・・・中東司令部も忙しいんですよ。」
私にも不満はある。
だが、ここで文句をいっても何も変わらない。
私は心の奥底でため息をつきながら、横で顔をしかめる若本を宥める。
やがて我々を中東司令部に案内するためにやってきた車列は目の前に、まるでタクシーのように停車する。
「へい、中東タクシーです。お客さん、目的地はどこでしょうか?」
先頭の車両から1人の男がやってきて言う。
・・・相変わらずだ、彼も。
「ふざけんな。てめ、遅刻だよ。」
若本が怒りをあらわに目の前の男に向かって言う。
「おいおい、こっちにも事情があんのよ。何しろこんなところだぜ?車で移動とか上層部は馬鹿だろ。」
・・・これでも一応軍事組織に近い組織なのだ、旋律の剣というのは。
・・・本物の軍隊なら上層部への悪口は厳禁である。
「だから基地司令にいってやったのよ、ヘリを使わせろってな。ところが愛しのヘリコプターちゃんは全部出計らってるとよ。やってられっかっつ~の。」
「言い訳はいい。とっととこのくそ熱い場所から移動させろ、リレイブ。」
リレイブ・R・シュレー。
中東司令部の切り札である、「グラーデウス」のリーダーだ。
・・・ま、こんなどうしようもないアホだが、腕だけはたしかだ。
これほどの男にまで、迎え人の役目を役目を押し付けてるんだ。
・・・そうとう増援を迎えにいく人手が足りていないように見える。
・・・本来なら常に前衛でドンパチやっているような男なのだが。
若本はため息を文句をたれつつも、車に乱暴に乗る。
「おいおいおいおい!!車は中東でも貴重な移動手段なんだぜ、もっと優しく扱ってくれよ。」
・・・実際旋律の剣のメンツには移動手段は各自いろいろあって・・・
島風のように、場合によっては車より早く移動できることだってある。
したがってそんなものに頼る必要は基本ないのだ。
・・・戦闘に関しては、我々は螺旋の剣と違い、時間が流れているところでは戦わない。
時間が止まったときのみ戦うので、力を使わないときのほうが珍しいのだ。
「皆も各自車に乗ってください。」
「不死鳥、てめぇはもちろん俺の車だよな~?」
「・・・リレイブ中尉、私には松代本拠地からの命令を継続中・・・」
「るっせぇ!命令なんて知ったことか。どうせ上にいるのは馬鹿しかいねぇんだ。乗らねぇなら力ずくで乗せるぞ!」
・・・彼はもちろん前衛タイプの人間だ。
私のような支援タイプの人間がまともに戦っても勝てるはずがない。
ちなみに本拠地は日本の長野の「松代」にある。
松代のどこにあるか、まではさすがに知らない。
というか、我々前線の兵士にとって本拠地の場所なんて知る必要がないのだ。
故に本拠地の連中は本拠地の場所を秘密にしているが、だいぶ前に「松代」にある、という噂が流れ・・・
それから前線の兵士が本拠地を呼ぶときは「松代」となった。
「・・・わかりました。」
そうして、皆は私が先頭の車に乗ったことを確認すると、後車に乗り始めた。
やがて全員が乗ることを確認すると車列は動き出した。
「・・・あとどれぐらいでつきますか?」
「あぁ?・・・どうなんだ?」
リレイブは運転手に聞く。
・・・リーダーならそれぐらい把握しておいてもよいだろうに。
「あと20分です、中尉。」
「悪いね、レイル。」
運転手であるレイル軍曹はチームでも特にリレイブを信頼している部下だ。
「あと20分だとよ。」
「さっききいた。貴様は昔から無駄口ばかり多いな。」
「若本もかわってねぇじゃねぇか。」
2人が再開したのは何年ぶりだろうか・・・
実際中東にここまでの戦力を送る、なんてことは前代未聞だ。
・・・というのも、我々旋律の剣は先ほども言ったとおり、基本的に乗り物を使わない。
乗り物を使わなければ、動力源となるものも必要ない。
中東には石油があるから、螺旋の剣は必死こいて攻めているわけだが・・・
我々には正直メリットがないのだ。
「しかし妙ですね。なぜまた松代のお偉いさん方は中東に戦力に戦力集結を?・・・中東はメリットがない、とかで撤退案まででていたじゃないですか。」
それをきき、リレイブはため息をついてたばこを加えながら、こちらを見る。
「吸うか?」
「・・・私はまだ未成年です。」
「硬いこというな。」
「日本では未成年の喫煙・飲酒は厳禁です。」
「戦場にはルールなんてねぇんだよ。・・・郷に入っては郷に従え、日本の言葉だろう?」
どうせ最初からそういうつもりだったのだ、彼は、
どうせ断っても強制で吸わされることになる、いつものことだ。
「1本もらいます。」
「俺ももらおう。」
それから若本もたばこをとった。
「ほら、ライターだ。」
リレイブはこちらにライターを投げた。
・・・なかなか高価なものだ。
ま、実際たばこに火はつけるものの、吸ってはいない。
・・・ふかしている、くわえている、というのが現状だろう、私の場合。
実際ここにきても、日本のルールを破るつもりはないし、今後もたばこに関しては吸うつもりはない。
「それで?撤退案がでていたでしょう?」
「それが螺旋の剣とゲルレレの連中がでかい花火をあげるってきいた瞬間、中東司令部の上層部の馬鹿は“ここで我々も参加しなければメンツが潰れる”とかいって松代に増援要請をしたんだよ。」
・・・しかし撤退案をだしたもの松代だ。
松代はそう簡単に一度いったことはかえないはずだ。
「そんなの、通るわけが・・・」
「そう、却下されたんだよ。」
彼は煙をフワッとうかべて、徐々に上へと上げリつつも消えていく煙を見上げて言う。
「ならなんで・・・」
「それでこっちの上層部はブチ切れて、松代に猛抗議。最終的に“増援をくれないなら全滅覚悟で中東部隊は前進する”とかいって、松代も諦めたらしいぜ。」
・・・信じられない。
一部署が、本拠地の命令に逆らうなんて・・・
「ぶっちゃけ中東が一番螺旋の剣の連中との仲が悪いって話だからな。」
若本はため息をついていう。
ま、全体的に仲は悪いけど・・・
「中東司令部の上層部にとって螺旋の剣が動くのに自分たちは見ているだけ、というのが耐えられなかったのだろう。」
若本はそう推測するが、おそらくそれはほぼ確実に正しい答えであろう。
「アホか。」
リレイブは上層部への不満に皮肉をこめて言った。
「・・・俺たち前衛の兵士たちは皆、こんなメリットのない戦いやめて自分たちの祖国の戦線で戦いたいって思ってるのにそれらはぜ~んぶ無視だ。・・・ホント、信じられねぇほど上層部は馬鹿だぜ。」
彼はため息をついていう。
そのため息はタバコの煙で白くなっている。
「・・・中尉、上層部への陰口は軍法会議ものですよ?」
「あぁ?バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。」
リレイブの言葉にレイル軍曹は呆れた様子をしている。
「てなわけで、螺旋の連中がやらかしてくれたおかげで撤退案はパァ~だ。素晴らしいね。」
「・・・中尉・・・」
「バレなきゃいいんだって。どうせ間違ってはいないんだ。・・・フレイバーの連中も大してかわんねぇんだぜ?」
フレイバーといえば、もと島風がいたチームだ。
フレイバーも中東専門の部隊だったな。
・・・ただ先日の「龍王の盾」の奇襲で大活躍した・・・とか。
「フレイバーの被害はどうなんです?」
「ありゃひどいな。・・・あの時はちょうど俺らはエリア63を落としたところでぬか喜びをしてた。」
「!?」
彼のひどい、という言葉に意外さを覚えた。
あの件に関しては報告書で読んだな。
エリア63の敵部隊は異常に少なかった・・・と。
最初、グラーデウス隊は「ラッキー」と捕らえたらしいが・・・
後に緊急命令が入る。
“司令部に向け、敵の大部隊が接近中、至急帰投せよ”と。
「俺たちが緊急司令を受けて、もどったときにはあのザマだ。・・・迎撃部隊のほとんどは壊滅。寸前のところで司令部は守られた。」
その迎撃部隊の中心部隊だったのがフレイバー・・・ということだったらしい。
だがそんなことは報告書には載っていなかった。
「おい、そりゃ報告書と違うぞ。報告書にはフレイバーが大活躍して「龍王の盾」の1人を討ち取った、としか・・・」
「だろうな。」
この件に関しては若本も知らなかったらしい。
だが私たちの反応は彼は“当然”といった反応で応えた。
「・・・なぜ味方の被害を載せなかったんです?」
「あのなぁ・・・フレイバーはうちの部署のエース部隊だ。んな連中が壊滅寸前なんて書けば、一気に部隊の士気は落下する。」
だからといって、都合の良いことしか報告書に書かずに松代にまで報告する・・・
なんてどうかしている。
・・・おそらく松代は先日の事実を“完全勝利”と高を括っていたのだろう。
だからこそ、今回の作戦を許可したのだ。
「だからといって松代にまでそんな報告をするのは・・・」
「それが中東司令の上層部のやり方なんだよ。・・・な、馬鹿だろ?」
彼は皮肉を込めて苦笑した。
ちなみに中東司令部はその後、移動した。
相手に場所がバレたのにそのままなんて無防備すぎるからなのは言うまでもない。
そしてそれが現在向かっているところでもある。
やがて、外をみると前方に町らしきものが見えてくる。
ところがその町を迂回するかのような起動を車列は取り始める。
「レイル、突っ切れ。」
「え!?ですが・・・」
「後ろのお客さんたちも司令部に何よりも早くつきたがってる。客の機嫌をそれ以上損ねちゃまずいだろ?」
彼はそういうと、レイルのもっているハンドルを横からつかんで、まわした。
そして、さらにはレイルの足の上からアクセルを思いっきり踏み込んでスピードを上げる。
後ろの車両たちは“待ってました”とばかりに機動をかえ、ついてくる。
それから車列は猛スピードで街中を突っ切っていく。
外を見渡すと・・・
「ん?」
今、人影が見えた気が・・・
そんなことを思った瞬間に、いたるところからまるで豪雨のような激しい銃撃をうける。
「なっ!?」
「大丈夫、この車はそういうのを想定して作られてる特注よ!」
実際この車はジープだしな・・・
・・・後ろの車両たちは大丈夫だろうか。
「ま、念には念を・・・だ。お客さん、頭を下げててくださいな、撃たれても当社は責任は一切とりませんよ?」
「ざっけんな、てめぇ!」
若本は再びリレイブにブチ切れる。
・・・これは切れてもいい。
おそらく連中は中東のゲリラたちだ。
私たちが乗っている車はジープだから、おそらくは多国籍軍の部隊と勘違いをした、といったところだろう。
すると、後ろから2台目の車がさらにスピードをあげて先頭車両であるこの車の横に並んだ。
「スファーニ少尉・・・やる気か?」
「スファーニ少尉・・・」
リレイブは笑みをうかべ、レイルは“最悪だ”と言わんばかりに深いため息をつく。
「さぁ・・・デスレース開催だぜ!」
その頃、紅蓮社本社。
1人の男が社長室にノックを入れて、社長室に入った。
「あぁ、きみか。」
社長は副社長である“彼”を快く迎え入れた。
「どうしたんだね、フリューゲル。」
その“彼”というのは信じがたいことに「龍王の盾」であるフリューゲルだった。
「石油の件に関して報告があります。」
「ほぅ?増えたかね?」
「いえ、むしろ減少しています。・・・やはりテロリストたちによる行動規制が大きいと思われます。」
現在中東部を占拠しているのは、フリューゲルの部隊が大多数だ。
フリューゲルはその石油を大企業である紅蓮社へと受け渡すことで、副社長の座を得ていた。
表向きには中東諸国の石油富豪たちと仲が良い、ということになっている。
それは社長自身もそう思っている。
そのため他企業からは紅蓮社はまず潰れることはない、とまで言われている。
だが実体は人間にとって危険な存在が実力支配しているものを受け取っている、というものだった。
それを知っているのはフリューゲルと彼の部下のみだった。
「それに関して中東に展開している多国籍軍から頼まれたよ、新兵器を開発してくれ、と。試作で2種類の兵器を10台作った。それが公式化されればテロリストなど一瞬で消し去ってくれる。」
社長はそう認識している。
だがそれは本当は正規軍などからの依頼ではなく、正規軍に成りすました螺旋の剣からの依頼だった。
そして10台しか作っていないと報告されている兵器は実はすでに300台も量産されている。
それは「財閥」だからこその欠点でもある。
おおまかにいえば「紅蓮社」の配下の会社でも、所詮は配下で一体化しているわけではないのだ。
報告をごまかし、「紅蓮社」の配下の工業組織のうちの一部が量産していた。
その工業組織はおそらく螺旋の剣の存在を知っている組織。
事情を知っているからこそ、量産している。
「その兵器については、すでに試作を作り上げた社から報告を受けています。・・・ただ・・・」
「ん?」
フリューゲルはもはやこの社にいなくてはならない存在だった。
というのも、社長ですら大体しか把握できない組織の全体部を、彼は細かにまで把握し、いたるところにまで飛び回ってアドバイスやプロジェクトを進めている。
社内では“天才”なんて呼ばれていたりもする。
そんな天才を社長も最大限に信用していた。
「どうした?」
「設計図をみたのですが、一部不安な部分があります。」
「なに?」
「それに改善点も多くあります、まず副装で突いているバルカンはより強力なアヴェンジャー(機関砲)に切り替えるべき、などです。」
バルカンは20mm機関砲だ。
それに対し、アヴェンジャーは30mm機関砲となっていて、その威力は戦車の装甲さえ軽くぶち抜く。
「ま、改善点に関してはパッと浮かんだだけなのですが。」
「報告では規模的にアヴェンジャーは無理、ときているぞ。」
「正式な設計図があれば、私が搭載可能なように考えましょう。」
フリューゲルは社長に絶対的自信をもって言う。
「・・・きみはいつも言うことを言うだけでなく現実に果たしてくれる。・・・今回も信頼しているよ、今回も任せよう。」
社長はフリューゲルに微笑んで、引き出しの奥から何枚もあるプリントを1枚ずつめくって中身を確認しつつ、探していく。
それからホッチキスでとまった2種類のプリントの束をフリューゲルに渡した。
「これはコピーだが・・・大丈夫か?」
「えぇ。ありがとうございます。」
それから彼は軽くお辞儀をして、社長室を後にした。
(よし・・・新兵器の弱点がこれでわかる。)
こうして新兵器の情報はあっさりとゲルレレの手にまわってしまっていたのだった・・・
その頃、再び中東では・・・
「おら、どけどけどけ!!ぶつかっても当社は保険はおりませんからねぇ~!」
猛スピードで多くの車両が町を駆け抜けていく。
すると目の前に1人の男が出る。
彼が肩に背負っていたものは・・・
「お?RPGか?」
RPG-7。
簡単に言ってしまえば、ロケットランチャーのようなものだった。
武器にしては比較的安価で手に入る・・・
しかも旧式兵器にしては威力も強いため、ゲリラたちでは愛用されている武器だった。
「レイル、ハンドルは任せたぞ。いいか、スピードは落とすなよ?スファーニに抜かれたらタダじゃおかねぇからな。」
「はっ。」
そういって彼は自らの席の窓をほんの少しあける。
依然銃撃は激しい。
下手をしたら撃たれる可能性もある。
彼はホントにちょこっとあけた窓から拳銃だけをだして、撃ちこんだ。
その弾は見事に目の前の男性の肩に当たり、RPGの脅威は排除できた。
「よし、ハンドルかわれ。」
それから窓を閉めて、再び横からハンドルをつかむ。
肩を撃たれた兵士は轢かれるギリギリのところでどうにかかわした。
それから再び激しい銃撃のなか、この車両らは道を進んでいく。
「もうすぐゴールか。」
ようやくゴールか・・・
なんてことを思ったのもつかの間、いきなり車両がカクッと傾いた。
「連中もアホじゃねぇな。」
「タイヤをやられたか。」
若本は呆れ呆れにいって、目の前のどうしようもない男を見る。
「どうするんだ?」
「そんなの腕でカバーよ!かぁ~、このスリルがたまらねぇな。」
タイヤをやられたことで揺れは一層激しくなる。
後ろを見れば、先ほどよりもさらにこの車が巻き上げる砂埃は大きくなっており・・・
スファーニとかいう者が運転していると思われる車とこの車が走りぬけたあとは砂埃しか見えない。
後ろに続いている車はライトをつけて全速力で走行しているが・・・
正直後続車が可哀想だ。
いつしか銃撃もなくなっていた。
・・・おそらく超したのだろう。
「よっしゃぁ!勝った!!」
そして揺れる車のなか、頭をあげて外を見てみれば・・・
前々まで町の中にいたはずが、いつしか中東にきたときとかわらないまわりが砂漠しかないという景色にかわっていた。
「勝ったじゃねぇよ!!てめぇは俺たちを殺すつもりか!?」
ようやく冷静さを取り戻した若本はリレイブに怒鳴る。
「そういうな、ショートカットを使ったこともあって、あと少しで基地につくんだぜ?」
それからは意外と平和的だった。
後続車も落ち着き、皆が前とかわらない落ち着いた車列を取り戻したのだ。
それからどれほどたっただろうか。
目の前に巨大な軍事施設が見えてきた。
巨大な砲台や無数の対空砲。
よくこの短期間にこれだけの要塞を作れたものだ。
時間がとまっていて、力を使ってもこれだけのものはなかなか時間がかかりそうである。
・・・こんなものを中東に作られたんじゃ、さぞかしゲリラたちも無念であろう。
・・・ま、当然ながらゲリラたちに手に負えるものでもなく、それは目に見えている。
なので基本的には攻撃されないのだ。
上空をみれば、多くのヘリが飛んでいる。
ヘリポートに着陸しては、また飛び立つ。
普段あまり見ない光景に自分自身でもわかるぐらい驚いている。
基地内に入れば、基地内に入るための通路は渋滞していた。
「珍しい光景だぜ。しっかし・・・これなら歩いたほうが絶対早いぜ。整備班は昼寝中か?」
彼はあくびをしつつ、ダルそうな顔で目の前の状況をみていった。
・・・その様子に「珍しい」とか「すごい」とかいうものはまったくない。
結局彼にとっての「珍しい」は口先でしかないのだ。
「せっかく日本からのお姫様を大事に大事につれてきたってのに。」
あの行為が“大事に大事に”といえるのであれば、世界から乱暴という言葉はなくなるであろう。
何はともあれ、どうにかやっと目的地に着いたのだった・・・
「戦力集中(表)」 完