中東への移動
アメリカの五大湖周辺。
そこには世界有数の工業地帯が多数存在している。
ここはその五大湖周辺の工業地帯のうちの一部。
・・・実際ここの正確な場所はほんの一部の人間しか知らない。
そのほんの一部の人間のうちの1人である男・・・
「螺旋の剣」の最高責任者であるアーネスト、そして彼の秘書は細い廊下を静かに歩いている。
前には白い服をきた、まるで博士か研究員か。
そんな服装をした男性が歩いている。
やがてまっすぐで細い廊下を歩いていると1つの扉が現れる。
どう見ても「金庫」かなにかに使われるような非常に分厚く重そうで頑丈な扉だ。
そこで白衣をきた男は網膜検査・指紋検査・肉声検査・生年月日入力・暗証番号入力を行う。
暗証番号だけでも桁数は18桁。
非常に厳しい検査だ。
「暴君に対する反乱は神への服従である。教育とは本性を新しい人間に接木することであり、人間の本性の中にあるねじまがった悪いものを美徳や社会的に価値ある資質に改善することである。」
最後に肉声検査とは別に合言葉をいって、ようやく重たい扉は開いた。
ちなみにこの合言葉、第3代アメリカ合衆国大統領である「トマス・ジェファソン」の言葉である。
そこを超えると、今度は廊下の両端には気をつけの姿勢をした警備員が何にも立っている。
手にはアサルトライフルやショットガン、腰には何丁もの拳銃と手榴弾。
警備にしては過剰とも思えるレベルだった。
「・・・ここはいつきても息がつまりそうになるな。」
ここまで無言で歩いてきたアーネストがやっと口を開いた。
「ま、ここは実際地下ですからね。地上に比べると空気が薄いかもしれません。」
「・・・」
「でもご安心を、社長!地上とはパイプをつたって・・・」
「・・・もういい。」
彼は本当に空気が薄いから「息がつまりそう」といったのではない。
アーネストはただただ呆れ、秘書はめがねをかけなおした。
「さっ、つきましたよ、社長。」
おそらく最後の扉と思われる扉を開くと、そこは非常に大きな倉庫のような場所となっていた。
その中心には巨大な鉄の塊がおいてあった。
「・・・これが卯月社に特注したTNK-Vか?予想より大きいな。」
アーネストは目の前の巨大な鉄の塊を見上げながら言う。
卯月社・・・
卯月財閥グループとも呼ばれているこの会社は現在急激な成長を見せている会社である。
「卯月社は“我が社のテクノロジーを最大限に駆使した”といってきています。」
「・・・」
しかしアーネストの顔は浮かない。
というのも特注したものの条件のうちの1つには「通常の戦車の2倍程度の大きさ」というのもあった。
しかしながら目の前の巨大な鉄の塊は注文よりはるかに大きいものと仕上がっていた。
「大きさは少しアレですが、防御面は完璧。AGM-65マーベリック(空対地対戦車ミサイル)ですらひび1つつきません。」
白衣の男性は自分が作ったわけではないが、まるで勝ち誇ったかのように言う。
「主砲は戦艦大和型の主砲と同型の45口径46cm3連装砲を搭載。副砲はMk45 Mod4 5インチ60口径単装速射砲を前部に2基、後部に2基、さらに後部にはミサイル発射口もあります。」
その見た目は若干ソ連軍の多重砲塔戦車である「T-35」に似ていないこともない。
また速射砲が前部・後部にあるため死角もほとんどない。
そのあまりの兵装ぶりと大きさはまさに“陸上戦艦”というに相応しい武装だった。
「ま、強いて欠点をいえば動きが遅いことと、このでかさですから倉庫に入りませんね。」
白衣の男は皮肉をこめて苦笑する。
「・・・それで?卯月社は今、何台完成させてる?」
「現在14台です。あと1台が完成間近らしいです。」
「あと1週間で完成させろ、と伝えておけ。」
そうアーネストがいうと、白衣の男はメモをとって頷いた。
それから再び歩き出し、今度は妙な形をした兵器のところへと連れて行く。
「これが紅蓮社に特注しておいたSFRシリーズです。」
紅蓮社というのも現在成長中の会社のうちの1つである。
卯月社と紅蓮社が今、伸びている大企業のツートップとなっている。
「これは1台1人乗りの人型戦闘兵器です。」
正直さきほどの戦車からしてみれば豆粒のようなレベルの大きさである。
高さ的には装甲車の2倍、といったところか。
「この兵器の最大の特徴はミサイルが腕内収納型で、発射は腕内部での回転式装填装置機能が搭載されているということです。」
トリニティ・ウェポン機能は紅蓮社が独自に開発した装填装置だ。
リボルバーのような回転式のものだが、形は三角で角部にミサイルがついている。
そのため、ミサイル攻撃をするときは三角部の一部は必ず露出する必要がある。
1発発射するとこの三角が回転して次の角の部分へと行く。
ミサイルが発射され、弾がなくなった部分はリボルバー形式で回転して腕内部へと行き、そこで自動で装填されるという仕組みだ。
「これによってミサイルをより高速に撃ち出すことが可能になっています。」
ミサイルは全部で4箇所についている。
両腕に2箇所ずつだ。
ただ2つはMGM-140ATACMS(地対地ミサイル)、残り2つがMIM-23ホーク(地対空ミサイル)弾を積んでいる。
ただミサイルそのものに関しては、他社に頼っている。
ただし対空ミサイルであるホークは紅蓮社が、ホークを作り上げたレイセオン社から購入し、独自に改良(小型化・SFRシリーズに搭載)をしたものである。
「副装として、ゼネラル・エレクトリック社製のM-61バルカン(機関砲)を4基搭載しています。」
それらのうち2基は腕を超え、手の部分に存在している。
人間でいうならば手のひらの部分である。
手のひらの中央部は開口することができ、その内部に機関砲がある。
もう2基は胴体そのものにあり、手のひら部分とは違い、常に攻撃できるようになっている。
「このLが地上戦用で、防御力・攻撃力に特化したため動きが遅いです。」
「足元に車輪をつける、とかなんか動きを早くする工夫はこなせなかったのか?」
「防御力がある分、重たくて・・・Lの重さに耐えられる車輪がなかったんです。」
アーネストは目の前のロボットを見つめつつ、軽いため息をついた。
「こっちは?」
「これらはS、空中戦と陸戦を同時にこなせるタイプです。」
「形もだいぶ違うな。」
「基本的武装はかわりませんが、背部と脚部にロケットブースターを装着してあります。」
たしかに背部には巨大なロケットと航空機のような巨大な羽がついているし、人間でいう足首の部分にも小さなロケットが大量についている。
「ロケットブースターは方向転換できるようにしたので、空中格闘戦にも強い仕様となっています。」
「ふむ・・・」
その解説にアーネストは今日始めて納得したような顔をした。
「また羽には追尾システムをより強化した、卯月社が開発した「34式誘導弾」が搭載されていますし、胴体内部には空中から爆撃できるよう空対地爆弾(500LB爆弾)も搭載されています。」
その説明をきき、秘書は秘書で必死にメモをとっている。
今後、どの点を強化して発展型兵器を作るかを発注した会社に知らせるためだ。
「地上戦では羽は背部に収納できるようになっています。ただ飛行できるようにしたために重さを軽減する必要があり、その点防御力が劣っています。」
白衣の男は細かく説明していく。
アーネストも秘書も聞くのに必死の様子でもある。
「それで今、このSFRは何機作られているんだ?」
「SFR-L、SFR-S両方で300機とちょいです。」
「それだけあれば十分だ。」
(これだけの新兵器があれば必ず中東戦は勝てる!)
アーネストは目の前の新兵器たちをみて、そう確信するのだった。
一方旋律の剣関東司令部では皆が皆、慌しく中東へ向かうための準備をしていた。
そう、皆が皆・・・
・・・のはずなのだが・・・
「もってくもの?そんなの自分の命と武器だけで十分よ。」
「あ、食料もな。」
「私はパソコンがないとダメですね。」
・・・なんて平和な奴らだ・・・
悪いが信じられん・・・
「お前らさ、これから中東にいくんだぞ?いろいろもってくものがあるだろ?」
「ないだろ、別に。」
「てか遊びにいくわけじゃないし。」
たしかに遊びにいくわけではないが・・・
だからといって、そんなにテキトーに選ばなくてもいいじゃないか。
何しろ中東だ。
国外だぞ、国外。
いったらなかなか戻れない。
忘れ物、なんていっても戻ってこれないのだ。
「さて、そんなわけだからあとは休んでようかしら。」
そういうと五十嵐は床に座り込んだ。
「俺も俺も。もう疲れた。」
まだ何もやってないだろうが!!
「じゃぁ、俺も少し行って来る。」
とりあえず自由行動となったらしい。
俺は一旦自分の部屋に戻り、荷物をさらに詰め始める。
それから30分ぐらいして、どうにか荷物整理は終わったものの・・・
まだお呼び出しもない。
時間的にまだ余裕がある、ということだ。
・・・俺はもう1箇所行っておきたいところがある。
「ご主人様、疲れているのでは?」
「騎士よ、やめておいたほうがいいんじゃないか?」
・・・あ~、きこえないきこえない。
な~んにもきこえないぞ~。
とりあえずしゃべりまくる拳銃に弾を込める。
「・・・よし!」
弾を込め終わり、銃を構える。
・・・そう、俺が来たかった場所・・・
それは「射撃訓練場」だ。
「おい、騎士。これ以上やったら総力戦の前に倒れてしまうぞ?」
「今回は総力戦なの。・・・今のままじゃ何の役にもたたない。」
それからひたすらに目の前の的に向けて撃ちまくる。
時間がないこともあり、いつもより弾の消費が早く感じる。
リロードの時間が長く感じる。
「ま、騎士がそのつもりなら文句は言えんが。」
「そうこなくちゃ!」
弾は山ほどある。
今の俺にできることはひたすらに弾を込めて、ひたすらに的に向けて弾を撃って、少しでも命中率を上げることぐらいだ。
その頃、関東司令部基地司令室では・・・
「毎回情報をくれることに感謝する。」
基地司令である竜胆、副司令である大蔵、そして・・・
この総力戦が行われる、という情報を旋律の剣に伝えた情報屋「市村」がいる。
「いや、情報屋の俺としては旋律の剣さんが一番のお客さんだからね。俺たち情報グループ「シェルター」がやっていけてるのも全部旋律の剣さんの支援金があるからなんだよ?これは当然のことだよ。」
市村は頭を下げ、感謝の意を示す。
シェルターは開設以来、今までずっと旋律の剣に情報を渡してきた情報グループだ。
旋律の剣からすれば、いまやシェルターの情報なしではほとんど動けない状況に陥る、といっても過言ではないほど大きい役割を果たしていた。
「・・・悲しいことに同じ情報屋には「螺旋の剣」や時には「ゲルレレ」にもいるんだけどね。皆、旋律の剣に情報を渡せば、一方的勝利ですべてが終わるっつぅのに。」
「そういうもんだ、情報屋というものは。」
竜胆は苦笑して言う。
「じゃぁ俺はそろそろ新たな情報を探すために出るよ。」
「あぁ、了解した。」
そういって彼は出て行こうとする。
しかし、扉の前でいきなり立ち止まった。
「あ、悪い。久々にここにきたし、少し見学していってもいいかな?」
「ここは最重要機密の塊です。・・・が、大蔵。」
「はい。・・・この私もお供します。どうかお気を悪くなさらずに。」
「いや、見学させてもらえるだけで十分だ。」
そういって2人は部屋を出て行った。
それから2人は話しながら、廊下を歩いていく。
「では、今から皆は中東は?」
「はい、ほとんどの戦力は向かうことになります。」
「なるほど・・・だから人がいないんですね。」
市村は納得したかのように深く何度も頷いた。
「皆荷物の準備等を行い終わった後で疲れていると思われますので休憩しているのではないかと?」
「ゲルレレと戦う勇ましい戦士さんがそんなことでバテちゃ困りますな。」
「まったくで、ハハハ。」
そんなこんなで2人が歩いていると、銃声が聞こえた。
「ん?」
耳をすませてみると、今は誰もいるはずのない射撃訓練場から音がきこえていた。
「ここからですな。」
ドアを開けてみると、そこには1人の青年がせっせと弾を込め、せっせと銃を撃っていた。
「ふぅ・・・」
やれやれ、さっきより距離が縮まったと思って気を抜けば、また広まった・・・
これだから拳銃は嫌いなんだ。
そんなことを思っていると不意に肩に手をかけられる。
「うわっ!?」
「よっ、青年。」
「西野くん!?」
目の前には大蔵副司令と・・・
どちら様だかよくわからないお方がたっている。
「どうも、大蔵副司令。」
「出発前なのに頑張ってるな。」
「えぇ、少しでも足手まといにならないように練習をこなしておかないと、と思いまして。」
そんなことを言いつつも流星に弾を入れていると・・・
途中から手のひらに弾をのせられた。
「きみとは初めて会うよね?」
そのよく知らない方が乗せてくれたのだ。
「はい。えっと・・・失礼ですが、どちら様ですか?」
「俺は市村っていうもんだ。ここに情報を渡す情報屋のうちの1人さ。」
情報屋?
あぁ、なるほど、だから中東のこととかも急にわかったわけか。
彼が伝えてくれた、ということだな。
「きみも中東に行くの?」
「はい。ただまだ新米ですので銃とかも上手く扱えなくて・・・」
「大変だねぇ、戦士さんは。」
軽い人だが、悪い人ではなさそうだ。
「皆は疲れて休憩中なのに、君は休まなくていいの?」
「いえ、大丈夫です。休むほど疲れてもいませんしね。」
「いいねぇ、やる気がある子っていうのは。努力は必ず報われるよ?」
「・・・だといいんですけどね・・・」
なんて俺は下手な笑みをうかべる。
何しろここ最近は特に頑張って努力してきたがまったくのびないのだから。
正直なところ、ホントに努力が報われるのか不安でもある。
「・・・」
それから銃を再び的に向けた。
よく狙って・・・撃つ!
ちょうど引き金をひいた瞬間だった。
「また」別の人がきたようだ。
ドアが開いた。
「あ、こんなところにいた!!」
「・・・!!」
この声からして五十嵐であろう。
だがそんなことはどうでもいい!
それより衝撃的なことが目の前でおこっている。
「・・・あたった・・・」
俺の撃った弾が綺麗に的のど真ん中を貫いている。
「あんたねぇ、何こんなところで遊んでるのよ!!」
が、俺はそんな初命中に喜ぶ間もなく手首を強く握られて、引っ張られていく。
「ちょっ、痛いって!」
「時間がとまったのよ、この大マヌケ!」
「時間?」
「移動する時期は時間がとまっている今しかないんだから早く走りなさいよ!」
・・・そういえばついこの間に聞いた気がするな。
なんでも皆の力は時間がとまっている間にしか使わないって・・・
時間がとまっている間じゃないと、変に時空に重みがかかってより大きなゆがみをつくっちまう・・・
だとかなんとかいってたな。
・・・そのときちょうど眠くて、ほとんどきいていなかったが・・・
とりあえず大きな力を使えるのは今しかないということだ。
つまり中東への移動もその大きな力を使う、ということになるらしい。
・・・あれ、ということは・・・?
「お・おい!中東には飛行機とか船で行く、とかそういうのはないのか?」
「は?あるわけないでしょ。早く走りなさいよ!!」
なんだよ、チクショー・・・
無駄に期待した俺が馬鹿だったということか。
集合場所である集会場へといくと、もう皆は集まっていた。
というか、俺が最後だった。
「よっ、遅かったな。」
島風があくびをしながら言う。
「こいつのせいで私たちだけ置いていかれるところだったわよ。」
「・・・ごめん。」
「てか時間が止まったことに気づかなかったのかよ・・・」
島風は大あくびをしながら言う。
「気づかなかった・・・」
「やれやれ・・・」
そんなことを思っていると、あることに気づく。
「あれ、不死鳥は?」
こ・これはもしかして遅刻か!?
俺以外にも遅刻者がいたりするのか!?
「不死鳥ならあそこだぞ?」
島風が指差す方向を見ると、熱心にパソコンのキーボードを打っていた。
「よし、プログラムは完了です。30秒後にとびますよ?」
そういうと彼はこちらに走って戻ってきた。
「・・・なぁ、飛行機や船じゃなかったらどうするんだ?」
「空間移動よ。」
「・・・は?」
・・・やべぇ、久しぶりにびっくりしちまった・・・
ついつい聞き返してしまった。
「空間移動よ、空間移動。」
「・・・」
「なんだ、そんなに驚かないのね。」
「慣れたんだ。」
慣れってホントKOEEEEEEEEEE!!
「不死鳥がプログラミングしてとばしてくれるのよ。」
てか、不死鳥は物を修復したりとか、どんだけチートなんだよ・・・
マジ万能すぎだろ、ノートPC。
「5・4・3・2・1・GO!」
そこから目の前がいきなり眩しく輝いた。
・・・そして次に目をあけたときには、俺の知らない場所へとついていた・・・
こうして無事に俺の日本から中東への旅(行き)は成功した・・・らしい。
「中東へ移動」 完