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僕が住んでいたところははっきり言って田舎だ。
近くに町はあるが、それも小さな町だ。
そんな田舎の村に、家族が引っ越してきた。
まだ若い主人と奥さん。
それに九歳の女の子だ。
同じ九歳だった僕は、はっきり言って心がそわそわしたものだ。
女の子の名は奈美と言う。
知り合うにつれて、奈美が活発で一言でいえばお転婆だということがわかった。
常に周りを振りまわしていた。
――思っていたのとは違う。
僕は少し落胆した。
そんなある日、奈美がいきなり聞いてきた。
「なんか、森の入り口にある祠? かなんかだけど。あれには絶対触っちゃいけないって近所の人にいわれたんだけど」
僕も物心ついたころから言われていた。
「みんなが触っちゃいけないって言ってるから、触らないほうがいいよ」
「触るとどうなるの?」
「目がどうかとか言ってたけど、よくわかんない」
「ということは、触ったことがないんだ」
「ないよ」
「触ったらどうなるかわかんないのに、触るなって言われたから触らないって、ばかみたい」
「みんなが触るなと言っているのは、なんか理由があるからだよ。触らないほうがいいよ」
「ふーん」
奈美の「ふーん」には、ある種の軽蔑のような含みを感じた。
「とにかく、触っちゃだめだからね」
「はい、はい」
大丈夫かなあ、と僕は思ったが大丈夫ではなかった。