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魔法少女のバッドエンドを救いたい〜TSゲーマーはダークファンタジーのシナリオを覆さんとす〜

なんとなく書きたくなって書いた、そんな物語

 人生は一つの出来事で変わることがある。


 たとえば愛の告白をされたり。


 理由なきイジメを受けたり。


 何気なく相手に放った一つの言葉も、時に人生の転換点となる。


 ポニーテールが似合うクールビューティなボク、叶芽(かなめ)あさひの人生が変わったのは、今から三年前。

 魔法女子学園に入学した春ごろだ。




「──そういえば、あさひちゃんはなんで魔法少女になりたいの?」




 同い年の従妹、日和(ひより)カナデは何も意図していなかったと思う。

 ただ大好きな従姉に構ってほしくて、話題を考えた末に出た無垢な質問。

 子猫のように目をキラキラ輝かせるカナデに、ボクは答えようとして。


「ボクが魔法少女を目指すのは……」


「うんうん、目指す理由は?」


「……あれ、なんでだろう」


「えー、もったいぶらないで教えてよ」


「いや、そういうつもりじゃなくて」


 カナデに対する意地悪ではない。

 本当に目指す理由が、ボクの頭の中に一つも思い浮かばなかったのだ。

 魔法少女を目指す子供は、魔物から命を助けられたとか、テレビで活躍を見たとか、そういった理由が大半を占める。


 しかし、ボクの場合は大きく異なった。


 何故なら物心がついたころから『魔法少女になりたい』と、ずっと思ってきた。

 つまり切っ掛けが一つもないのだ。


「……本当に、わからないんだ」


「でも魔法少女になりたいんだよね?」


「う、うん」


 ボクは魔法少女になりたい。

 この気持ちは、紛れもない本物だ。

 そのために幼少期から魔法の鍛錬を頑張り、成績も学年トップクラスにまで上り詰めたのだから。


 自室の床には、努力の象徴である魔法教材が積まれ、足の踏み場もない。

 目の前にいるカナデなんて、器用に積まれた本の山に座っていた。


「魔法少女を目指す理由、か……」


「あさひちゃん?」


「目指す理由、理由は……」


「ちょっとあさひちゃん、私の声が聞こえて──きゃあ!?」


 話しかけても反応しないことに、カナデは不安に思ったのだろう。

 考え込むボクに近寄ろうと、彼女が本の山から腰を浮かした瞬間。

 カナデは足下にあった本で滑り、バランスを崩して前のめりに転倒した。


「あ……」


 カナデの小さな悲鳴に意識が戻り、その光景を見てしまう。

 あのまま倒れたら、カナデは顔面から本の山に突っ込んでしまう。

 恐怖で目をつむる彼女を見て。


「っ!?」


 何故か高校生くらいに成長したカナデが、傷だらけで怪物に立ち向かう姿が、脳裏にフラッシュバックした。


 なんだ。なんだ、この映像は?


 ズキンと胸が痛み、例えようのない焦燥感(しょうそうかん)に駆られたボクは。


 ──カナデを助けないと。


 たった一つの思いを胸に動く。

 とっさに選択したのは、一番得意としている身体強化の魔法。

 金色の光を全身に纏い、椅子を蹴っ飛ばしてカナデと本の間に割り込んだ。


「きゃ!?」


「ぷぎゅ!?」


 周囲に積んだ本が崩れるけど無視。

 両手を広げたボクは、自分より一回り小さいカナデを胸に受け止めた。


「ま、間に合った……」


 強化したボクの身体は無傷だ。

 そしてキョトン顔のカナデも、見たところ綺麗な肌に傷は一つもなかった。


「びっくりした! あさひちゃん、ありがとう!」


「うん、どういたしまして。……それにしても、カナデが怪我しちゃうし、これは今から片付けないと危な」


 立ち上がろうとした際に、間近で彼女と見つめ合った時だった。

 見慣れているのに、何故か胸が『ドクンッ』と大きく弾むように高鳴る。


 絹のような腰まで届く金髪。


 宝石のような碧い瞳。


 愛らしく整った顔立ち。


 密着した身体から伝わる、彼女が生きている証の温かいぬくもり。


 そして次々に見たことのない、カナデが成長した姿が頭の中に流れ込み。

 ピシッ、とボクの中にある()()に、大きな亀裂が入る音がした。


「あさひちゃん?」


 しかも、亀裂はどんどん広がる。

 身体を満たしていく『思い』は、例えようのない大きな愛情だった。

 最後にカナデの姿を、ボクは過去に思い描いていた理想の魔法少女に幻視して。


 ───パキィン。


 何かが砕け散る音が響き渡り、今まで封じられてきたモノが解き放たれた。


「──────っ!?」


 まるで雷が落ちたような感覚。

 頭から足のつま先まで痺れ、視界にザザザと大きなノイズが発生して。

 周囲が知らない景色に切り替わった。


 ベッドとタンス、それとテーブルしかないシンプルな部屋。

 まるでモデルルームのような室内には、一つ異彩を放つ物があった。


 例えるならば、バイクのヘルメット。

 しかし、普通のヘルメットではない。

 後頭部から謎のコードが伸び、特殊な形状のコンセントに接続されている。


 アレを、ボクは知ってる。

 というか、ここは()()()()()だ。


(ぐぅ……っ)


 次に頭の中に知らない記憶が、まるで津波のように流れ込んできた。

 魔法も魔物も存在しない、|Virtual Realityバーチャル・リアリティの技術が発展した科学の世界。


 そこで一人の男性として生きた記憶が、走馬灯のように(よみがえ)る。


(………おい、嘘だろ)


 なんと前世のボクは魔法少女を愛するオタクで、有名な廃人ゲーマーだった。

 好きなものはネトゲー。

 嫌いなのはガチャとネタバレ。


 ある日SNSで話題の魔法少女ゲームを入手し、誰よりも早くクリアしたが。

 ヒロインが最後に世界を救い死亡する、バッドエンドに納得できなくて。


 どうにかして救うルートはないかと、できる全てのパターンを試して。

 最後に残ったラスボスの負けイベントを、十日間寝ずに挑戦してクリアした。

 だが結局ヒロインは死亡してしまい。

 連日無理をしたボクは、プレイ後に急な発作で倒れてしまった。


 自室で孤独死を迎えた自分を見下ろすと、周囲の映像が切り替わる。


 次に見たのは死後の世界だった。

 死者の列に並んでいるボクに、なにやら怪しい幼女が語りかけてきて。


『わいは女神のロキ、そこのつよーいゲーマーの人間。わいと契約して、あのゲームの魔法少女を救ってみんか?』


 契約を持ち掛ける、エセ関西弁ロリ。

 オマケに北欧神話の悪戯好きで、オーディンに並ぶ有名な神の名。

 どう考えても、ヤバそうな臭いがプンプンしたし、最初は断ろうと思ったが。


『魔法少女を救う……』


 ふと、ゲームには存在しなかったハッピーエンドが脳裏をよぎってしまい。

 悩みに悩んだ末にロキの話に乗り、この世界に転生したのだ。




 ああ、そうだ。全部思い出したぞ。




 記憶が封印されていたのは、赤ん坊では受け止められないから。

 そこでロキは、ボクが成長する度に記憶の封印が弱まるよう設定したのだ。


 意識が現代に戻ってくる。

 何度もボクの名前を呼ぶ幼い推しの姿に、胸の奥から熱いものがこみ上げた。


「あさひちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫。大丈夫だよ。それよりもさっきの質問なんだけど、全部思い出したんだ」


「さっきの質問って、魔法少女になりたい理由?」


「うん、そう。……カナデ、ボクが魔法少女になりたい理由はね」


 今なら彼女の質問に答えられる。

 魔法少女になりたいと思ったのは、いつも側で慕ってくれている大切な従妹。


 目の前にいる最推しの少女──日和カナデをバッドエンドから救う。


 それが鬱ゲーと評された魔法少女ダークファンタジー〈マジック☆ガールズ〉に転生したTS少女(ボク)


 今から数年後に魔物に殺され、彼女が魔法少女に覚醒する引き金となる従姉(モブキャラ)




 ───叶芽あさひの使命なのだ。




◆   ◆   ◆




 魔法少女のバッドエンドを回避する。



 普通ならば、ゲームで定められたシナリオを回避するのは不可能だ。

 どんなに足掻いても、プレイヤーはゲームのプログラムを変えられないから。


 しかし、この世界はゲームではない。


 世界観はまったく同じだが、見た感じ人々はプログラムに縛られていない。

 自分で一日の行動を考え、気まぐれで変えたりする自己を持つ人間だ。


 つまり運命が決められていても、この世界なら覆すことが可能なはず。


 そう考えたボクは、カナデを救うために行動を開始した。


 先ず考えたのは、彼女に魔法少女を諦めさせること。

 ことの発端さえなくなれば、彼女は普通の女の子として生きられる。そう考えたからだ。


 しかし、そんな浅はかな計画は、残念ながら早々に失敗してしまった。

 カナデの亡き母は元魔法少女。


 最後まで戦った母と同じように、自分も人々を怪物から救いたい。

 その思いはボクが想像していた以上に、とても強かったのだ。


 ──私は悪い魔物からみんなを守る、希望の光になりたいの。


 告げられた言葉を思い出し、流石は主人公だなと苦笑いする。

 まぁ、世界を救って死んだ彼女が、従姉の忠告で止めるわけない。

 真っ直ぐに己の意思を曲げず、困難に立ち向かう姿に自分は惚れたのだ。


 まったく、可愛いのにかっこいいとか推しが最高すぎるんだが?


 気を取り直したボクは、次に『覚醒イベントの阻止』を実行することにした。

 しかし、これもほとんどダメだった。


 何時何分どこに魔物が現れるから、そこに魔法少女を派遣してほしい。

 そう言っても魔法機関に、まともに取り合ってもらえなかったのだ。


 魔法少女は常に人手不足、貴重な人員を学生の不確かな情報で出せるわけない。

 オマケにボクは学生、社会的信用度がないので門前払いされるのは当然だった。


 ちなみに家族を頼ることはできない。

 両親に相談ルートは、ボク達の盾になって全員亡くなってしまうから。


「こうなったら一か八か、魔物が出るルートを避けて帰るしかない」


 ゲームの中では不可能だが、行動制限されていない現実では可能なはず。

 というわけでボクは当日、カナデに「少しデートしよう」と提案した。


 前世の記憶を頼りに、魔物が出るルートは全て完璧に回避していく。

 途中で何度か、正規ルートに戻そうとするトラブルに見舞われたが。


 それらは魔法の力で強引に突破。

 どうしてそこまでするのか、と首を傾げるカナデをエスコートし、ようやく遠目に実家が見えてきた瞬間。


「あ、あさひちゃん!?」


「っ!?」


 後少しのところでダメだった。

 目の前に黒い魔法陣が形成されて、獣型の魔物〈レッサーフェンリル〉が顕現(けんげん)してしまった。

 漆黒に輝く鋼の体毛と、大型トラックのような巨躯きょくの魔狼。

 劣った個体(レッサー)とは思えない圧倒的な存在感に、ボクは完全に気圧された。


「くそ……っ」


 ゲームとは全く違う本物の怪物。

 全身の毛穴から汗が吹き出し、恐怖に手足が小刻みに震える。


 万が一エンカウントした場合、前世の知識をフル活用して倒す予定だった。

 だけど手足がまったく動かせない。


 戦う意志はあるのに

 倒すための知識はあるのに。

 指一つ、動かせなかった。

 まるで世界が「おまえはここで死に、主人公を目覚めさせる礎になれ」と言っているような感覚だった。


 ──ああ、むかつく。


 恐怖心よりも、悔しさが胸中を占める。

 ここまで頑張ってきたのに、やはりカナデを救うことはできないのか。


 甘いものが大好きで。

 辛いのが大の苦手で。

 猫や犬に好かれる体質で。

 クラスでは全員に()(へだ)てることなく接して。

 まるで太陽のように明るく優しい子が、身を削り最後は世界のために散る。


 嫌だ。そんなのは絶対に嫌だ。

 しかし、どれだけ否定したくても殺意をカナデに向ける〈レッサー・フェンリル〉の爪が、猛然と迫ってくる。


 後は彼女を突き飛ばし、それを代わりにボクが受けることで全て終わる。

 隣に並び立って戦う未来。

 それすら許さない無慈悲を、ただ眺めることしかできずにいると




『──なんや、オタクの推しに対する思いは、そこで終わる程度なんか?』




 頭の中に自分を転生させた神、ロキのエセ関西弁が聞こえた。


「……っ」


 彼女の心底腹立つ煽りは、絶望で折れそうになっていたボクに火をつける。

 推しに対する思いを馬鹿にされて、オタクとして黙ってはいられない。


「ぬ、……ぐぅ」


 腹の底に力を込め、必死に抵抗した。

 この先で起きる全てを否定するため、懸命に運命に対して抗った。




 ──ああ、なんてムカつく展開だ。




 胸中に芽生えた一つの感情。

 それはゲームのシナリオを強いる、世界に対する激流の()()()

 激しい感情に心臓は強く脈打ち、血管を通して全身の隅々まで広がる。


 許せない。絶対に許さない。


 否定する、否定する否定する否定する否定する否定する否定するっ!!!


 内側が炎に焼かれてるような感覚。

 指先から徐々に、世界の拘束を破り自由を取り戻していく。


 そして臨界点を超えると。

 大切な物を奪う敵に対する憤怒(ふんぬ)が、眠っていた力を覚醒させた。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」


 抑えきれない怒りを叫び、自由になったボクはカナデの前に飛び出す。

 全てがスローモーションになり、「あさひちゃん!?」と彼女の悲痛な叫びが鼓膜を叩く。


 ゆっくり迫る凶爪(きょうそう)を睨みつけ、貧相な自分の胸を貫く瞬間。

 頭の中に浮かんだ、一つの言葉を呟く。




「──()()




 漆黒の魔法陣が、前方に出現した。

 それは〈レッサー・フェンリル〉の爪を弾き、ボクの死を拒絶する。


 弾かれた〈レッサー・フェンリル〉は、(へい)に強く叩きつけられた。

 魔法陣に触れた爪はへし折れ、その場に膝をついて動かなくなる。


 それでも衰えない殺意を、ボクは真っ向から受け止めて相対する。


「……この世界にシナリオがあるのなら、ボクはそれを壊すイレギュラーになってやる」


 覚悟を決めて前に歩み出し、思いっきり魔法陣の中を通過した。

 太古に魔女リリスに対抗するため、聖女イヴが女神に与えられた破邪の力。

 それが全身を包み、身に纏う服を変容させて漆黒の鎧ドレスと成る。




 ──魔法少女。




 それは人類にとって希望の光。

 この世界を闇から守る象徴。

 ゆっくり手を前にかざしたボクは、魔法少女に与えらし神器を呼んだ。


「──来たれ〈無名真刀(ムメイシントウ)〉」


 魔法陣が足下に広がり、その中から漆黒の日本刀が姿を現す。

 柄を握ると日本刀から、ボクの中に知らない情報が流れ込んでくる。

 神器〈無名真刀〉の使い方。魔法少女だけが使用できる特殊な魔法。


 インプットが終わったボクは、目の前に立ちはだかる魔物を見据える。

 力を得た高揚感のせいだろうか。

 なんでこんな雑魚相手に、ピンチに陥っていたのか不思議でならない。


 そして優位な立場が逆転した敵は、困惑を隠せず後退りする。

 もしかして、逃げるつもりだろうか。


 狩る側から狩られる側になったら、急に弱腰になるとは実に情けない。

 無論、そんなことは許さないが。


 カナデを危険に晒した罪、それをここで全て返済してもらう。

 神器を構えたボクは、獲得した魔法を開放し、必殺の一撃を刃に込めた。





「──邪悪なる存在よ、天の雷を受けよ」





 雷の固有魔法〈建御雷神(タケミカヅチ)〉。

 天から金色の雷が落ちる。そして雷は神器から全身に広がり、武器の性能だけでなく、身体能力を大幅に強化した。


 そのまま上段に構えた日本刀を、背を向けて逃走する敵に向かって一閃。

 雷鳴が轟き、魔を断つ金色の紫電が、夕暮れの世界に一筋の線を刻む。


『ガァ──────ッ!?』


 生に対する執着心なのか。

 しばらく走った後〈レッサー・フェンリル〉は真っ二つになり灰となった。


 完全に消滅したのを確認後、魔法少女の姿が解除されて元の制服に戻る。

 音が聞こえなくなったからか、近所の人達がこちらを物陰からチラ見する。

 彼等を無視してボクは、棒立ちしている従妹に手を差し伸べた


「大丈夫? ケガはない?」


「……」


「カナデ?」


「……」


 あれ、なにやら様子がおかしい。

 もしかしてシナリオを変えたことで、彼女に何らかの悪影響が出たのか。

 不安になってしまい、固まっているカナデの前で右往左往していると。


「あさひちゃん!」


「うわ!?」


 急にカナデが両手を広げ、勢いよく抱き締めてきた。


「あさひちゃん、スゴイ! 魔法少女に覚醒するなんてスゴイことだよ!!」


 喜びの感情を抑えきれず、カナデは何度も大はしゃぎで祝福してくれる。

 本来はボクではなく、ここで彼女が魔法少女になるはずなのに。

 今更ながら罪悪感が湧いてきて、ボクはなんとも言えない顔をしてしまう。

 そんなボクを見て察したのか、カナデは苦笑してこう言った。


「あさひちゃんに先を越されちゃったけど、お母さんが魔法少女で、従姉のあさひちゃんが魔法少女になったってことは、私も魔法少女になれるチャンスはあるよね。だから、いつか追いついてみせるよ」


「カナデ……」


 流石は〈マジック☆ガールズ〉の鬱を、全て乗り越えてみせた主人公。

 羨ましい感情を胸の内にしまい、カナデは溢れんばかりの笑顔を見せた。


 ……ただ、正直に言って、ボクは彼女に魔法少女になって欲しくはない。

 あんな暗くて辛い話、優しいカナデに体験してほしくないから。


 でも今の彼女を見て、一つ確信した。

 今すぐではないが、いつか必ずカナデは、魔法少女になってしまう。


 この世界を守る真の主役として。

 物語において役割は絶対不変である。


 脇役の自分と違い、主役はどれだけ舞台から遠ざけられても、空に輝く太陽のように無視することはできない。

 だから、今日行ったボクの目論見は、ただの時間稼ぎにしかならない。


 それならば──


 今のボクにできることは、ゲームの知識を駆使して強くなり、彼女(カナデ)とこれから出会うヒロイン達を守ること。

 ああ、そうだ。とても簡単なことだ。


 魔法少女になることを阻止できないのなら、今よりも強くなれば良い。

 いずれ邂逅(かいこう)する強大な魔物を、全て自分一人で倒せるように。


「……うん。カナデなら、いつかきっと魔法少女になれるよ」


「あさひちゃん、私に追いつかれないよう頑張ってね!」


「そうだな。先輩として、カナデに威厳を保てるように鍛えないといけないな」


 ──それから数分後、住民から報告を受けた魔法少女が現場に到着する。

 ここから先はゲームと同じ展開だった。


 魔法少女の力で魔物を倒したボクはスカウトされて、対魔物の日本魔法機関〈ガーディアン〉に所属することが決定。

 人々を守る魔法少女として、戦う日々に身を投じることになった。


 黒衣の魔法少女あさひ。


 漆黒の日本刀を振るう彼女は後に。



 ──己の芸術を見失った魔法少女。


 ──己の進路に迷いを抱く魔法少女。


 ──己の怯弱(きょうじゃく)に悩む魔法少女。


 そんな問題を抱えたヒロイン達を、バッドエンドから救うために奮闘する。



 これは世界を救う物語ではない。



 主人公が英雄になる物語ではない。



 ただ一人のハッピーエンド厨が、犠牲になろうとする魔法少女達を救う物語である。



【終】

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