8.潜入捜査(7)伯爵令嬢(2)
8.潜入捜査(7)伯爵令嬢(2)
イザベルお嬢さまは美しい少女だった。
美しいブロンドの髪に、ブロンドの瞳。虹彩は正確には琥珀色だったけれど、狼の目ではなく、金色でそれはまさに鷹の目だった。
ただ、変人でもあった。
東邦美少年の黒髪の匂いフェチだった。
まあそれだけなら、犯罪ではない。
「前は自覚していなかったのですけれど……」
中等部の応接室に移動したイザベルお嬢さまが話してくれた。ソファーの左右にロブとミランダが彫刻のように立っている。
「チャーリーが亡くなって、犯人が生きているかと思うとゾッとしてしまって……以前は黒髪の美少年の画像を集めるだけでしたのに、つい本物に出会ってしまうといけませんわ……」
無理に触れてしまったらしい。
「それで絶縁ですの」
理解できなくもないが、犯罪である。
どうにか示談で済んだらしいが「接近禁止になってしまった。さてどうしましょう」という問題である。
(騙したな……)
珠子さんによって、ぼくはイザベルお嬢さまの餌にされたらしい。
「はあ……」
イザベルお嬢さまが溜息をついた。
ぼくが軽く顔を横にしたけれど、髪を掴んで引きもどされた。
構図としては、イザベルお嬢さまの膝にぼくが鎮座している格好になる……。
匂いをかぐだけでは飽きたらず、金髪の少女が日本人の少年の黒髪をなめていた。
「マイケルからの意趣返しにわたくし、傷つけられるかもしれません」
たぶんそんなことにはならないと思うぼくだが確証はなかった。
ロブの話では、ミシェルの特殊技能によって盗撮カメラが見つかったとのこと。
今の時代、どんなところにもカメラを仕込むことができる。
(というか、この状態はイイのかしら?)
どう考えても、脅迫の対象にあるかと思うのだが、そうはならないらしい。
(大英帝国め……)
もっと変人はいっぱいいるらしい。
「とりあえず、マイケルと接触してくださらない? それでチャーリーを殺めた犯人がはっきりするかもしれませんし……」
「その可能性は――ヒィ!」
少女の舌が、首筋に達した。
「まあ時間もあることですし、よろしくお願いいたします」
そう言うなり、イザベルお嬢さまが立ち上がった。
ぼくは前のソファーに転がった。
後ろ髪に触れるとべったり濡れていた。
ミランダがナプキンでイザベルお嬢さまの唇を拭うと、淡い紅をさした。
「では、ご報告を待っています」
今度はぼくが溜息をつく番だった。