6.潜入捜査(5)米国報告(2)
6.潜入捜査(5)米国報告(2)
資料には続きがあった。
チャーリーの母、韓国人女性レイチェルにはもう一人子供がいた。
それが今回の目的といえる。
「マイケル・スミス……」
チャーリーの双生児の弟だった。
「うわー! めっちゃ好み!」
ミシェルが食いついた。紙焼きを奪われる。
(二卵性双生児か……)
レイチェルはそれぞれ別の家庭に売る予定が、マイケルを見たスミス夫妻が強引に買い取ったと記録されている。チャーリーの二倍の価格だった。
「確率から考えて……ミス・レイチェルは計画的に妊娠したのでは?」
写真のレイチェルは男っ気などない研究者タイプだ。寝癖髪で口紅の一つも化粧していない。チャーリーは母に似たのだろう。
(とすると、マイケルは父に似たのだろうか……)
男児は母に、女児は父に似ると聞いたことがある。
(ただ、隔世遺伝もあるので判断できないが……)
「この子かわいい! もらってイイ?」
ミシェルが写真にキスしようとしたのを、ロブが返してくれた。
「手を出すなよ、ミシェル。また裁判沙汰になりたいのか?」
ロブ曰く、未遂とはいえ前科があるらしい。
「ここを見ろ!『ミシェル・ラングレイは対象者の十ヤード以内に入ることを禁ずる』とある」
ロブが赤くマークされた箇所を読んだ。
およそ九メートル強。同じ部屋に入ることすらできない。会話も厳禁だ。
「チッ! ――遺伝子上の母であるミス・レイチェルは……」
舌打ちをしたミシェルが、ぼくが読んだ部分を読みかえした。
音読を気にせず、ぼくは注意深く先を読みすすめた。
マイケルは十歳で、飛び級で中等教育を受けていた。成績は平均してA評価。母親ゆずりらしく数学、物理はS。
(理系か……)
体育はフェンシングがA、三〇〇〇メートル走もA。テニスはB。ラグビーはC。
「ん?」
そこでようやく気づいた。
「イザベルお嬢さまの護衛ですよね?」
「そうだよ、アッシュ」
「マイケルの護衛は?」
「依頼に含まれない。伯爵令嬢のみだ」
(やっぱりよくない予感が的中した……)