4.潜入捜査(3)状況
4.潜入捜査(3)状況
「ミシェル、お前さんまだ生きていたのか?」
黒服の執事が軽く笑った。
「残念ながら。『雑草はすぐ蔓延る』からね」
「まったくだ。――ようこそ英国に」
ミシェルは庶子だ。自虐を込めて「憎まれっ子世に憚る」と言いたかったらしい。
二人の露払いで、ぼくはゆっくりとロビーを後にした。
親しげに仏語でジョークを言いあっていた。
執事はミシェルからロブと呼ばれていたが、ぼくが呼ぶ場合は「バトラー」と言わなければならない。
ぼくのような「特殊な客人」は、主人と同格扱いされる。「貴族のお坊ちゃんは上流階級にどうぞ」である。
まあそれも分からなくはない。白人の執事に敬語を使われる人は、大切にされる。
東洋人のぼくを守るためだということは承知していた。
玄関を出ると、ベントレーのパープル色のリムジンが待機していた。
「どうぞ」
執事とは別の若い女性運転手がドアを開けてくれた。
「ふう……。ようこそアッシュ。私はロバート・テイラー・ジュニア。アセックス伯爵――ホークアイ家の執事だ。客人として歓待しよう。個人ではロブと呼んでくれ」
握手。
「他に侍女のフリーダ、ミランダのレイサム両姉妹が本件を担当している。ああ、フリーダは先行してイザベルお嬢さまに侍っている」
「ミランダさんは、彼女?」
運転席を見た。
「そうだ」
運転席とは仕切られているので会話は聞こえない。
「……イザベルお嬢さま? レディ?」
ミシェルが疑問を口にした。よくない予感がした。
「ああ。護衛対象はアセックス伯爵令嬢――イザベルお嬢さまだが何か?」
「共学ですよね?」
「もちろん。だが、あなたにはイザベルお嬢さまのご学友になってもらう。もちろんミシェルといっしょに」
ロブがスーツケースを広げた。
もちろんネイビィブルーのセーラー服だった。