27.殺人事件(10)絶体絶命(4)
27.殺人事件(10)絶体絶命(4)
扉、床、壁、天窓さえも脱出できるところはなかった。
ぼくはゆっくりそれ以外の箇所を注視した。
「――イヤよ」
察したミシェルが拒絶した。両手で水をかきわけて後退った。
「絶対にナニがあっても絶対にイヤ! わたしはスカトロだけは絶対にイヤなの!」
新人AV女優のような言い訳をした。壁にしがみつく。
「他に――」
「――他のナニをしてもイイけどそれだけはイヤ! 絶対にイヤ! 死んだほうがマシ!」
その気持ちはぼくにも分かる。
そんなことはしたくなかった。
ぼくはミシェルの細い腰に手をやった。
その手をミシェルが押さえた。
イヤな音がした。
(たぶん折れているな……)
ぼくはミシェルにキスをした。
力が弱まるのを感じたぼくはミシェルを押し倒した。
*
レディ・ベルが痙攣するかのように笑っていた。
「で、あなたたち、どこから逃げたんですって?」
もう一度聞いた。
あのあとぼくはミシェルをトイレの穴に落とし、飛び込んだ。
ヒントはインドガビアルだ。爬虫類は口で呼吸する。
そのワニがいなくなっていたので、出口があると考えた訳だ。
ダムの決壊のように上流から大量の水が流れてきたとしたら、あの壁の水位に留まる理由がない。校内を水浸しにするだろう。
とすれば、下流で水を堰き止めたと考えたほうが合理的だ。
また、インドガビアルが大学の外に出てしまうと問題になる。
どこかにワニが生息できる場所がある考えるほうが順当だった。
「上流に泳ぎました」
下流には細長い口吻のインドガビアルが待っていた。
なお、ぼくもミシェルも二人とも全裸にタオルという出で立ちだ。きれいに洗濯されている。
「ま、生きていたなら問題ないわ。あとは金で解決できる」
「マイケルは?」
右手首にギプスされながら、ぼくが聞いた。
「セントルーシー大学はわたくしのものになった」
アセックス伯爵令嬢は自分の立場をはっきり言った。相手がどうとは言わないところが貴族らしい。
マクミラン家は大学におけるすべての権利を手放したのだろう。
拒否すればアーサー・マクミランは逮捕・起訴される。「非常に重い危害を加える故意」があり、死亡という結果を「事実上確実」と認識していたとなれば、最悪終身刑だ。
それにアーサーは対価を得ている。
オコーナーの両親にはボブが被虐性欲者だったという事実が伝えられ、それなりの賠償金が学校法人から支払われるだろう。
「ああ知っていた? ミシェル――日本のアダルトビデオ(AV)ショップのレジ前にはスカトロジストの女優のポスターが必ずあるって。貸し出しは少ないんだけど……」
もう差別主義者のフリをする必要がなくなったレディ・ベルが、茶泉珠子理事長から聞いた話を続けた。
話を聞くのもイヤな銀髪のミシェル・ラングレイが耳に手をやった。
それをニタニタしながらフリーダ・レイサムが見ていた。
ぼくを後ろから抱いたミランダが豊かな胸を押しつけて笑っていた。




