15.潜入捜査(14)密談(1)
15.潜入捜査(14)密談(1)
ミランダが部屋に入るなり靴を脱ぐと、ベッドの上で下着姿になった。
(あんがい胸があるんだな……)
ぼくがアクティブノイズキャンセリング機能のヘッドフォンをセットした。ヘッドフォンといっても耳に装着するものではなく、耳の後ろに取り付けて骨伝導で聞くタイプだ。
マイクはヘッドホンと一体になっていて、喉の振動を伝えてくれる。元は左右ペアで使用するものだけれど、一つずつ使えば密談ができる。
電波はスマートフォンの例のアプリを経由しているので盗聴される恐れはない。
(珠子さんなら聞けるはずだけれど……)
多用な人物がいちいち盗み聞きすることはない……はずだ。
ある意味、ぼくを派遣した時点で彼女の仕事は終わっているのだから。
(ぼくが亡くなっても、サイン一つで忘れるだろうなあ……)
『聞こえる?』
『ああ。問題ない。便利だな、コレ』
ミランダの地声が伝わった。
(アイリッシュ?)
アイルランド英語だった。
『どうかした?』
『いや』
『二人しかいない。隠し事をされても困る』
『違う違うそうじゃあない』
(近づかないでくれ! 目のやり場に困る!)
『――アイリッシュ系かと思っただけだよ』
『ああそういうこと。――両親がアイルランド系だから。祖父はフィンランド人で木材関連の会社をやってたけど、ソ連崩壊で倒産。アイルランド系の祖母と結婚。生まれた父はロンドンのアイリッシュパブで知りあった母と結婚。母の兄――伯父が卿のパティシエ。あっああ、全員亡くなってる。フリーダ以外は。――あなたは?』
『ご愁傷さまです……。生まれてすぐ震災孤児に。就学前の学力診断で優秀だったから、茶泉グループの施設で英才教育を受けた。――前回ミスって人身御供』
ミランダはぼくが何をミスしたのか聞かなかった。もちろん答えられないのを知っていたからだろう。
『そう……。似たようなものね。銀髪の彼は?』
『別の施設だから、詳しくは知らない』
『どうして?』
『言いたくないことをわざわざ聞いたりしない』
『紳士ね』
『たぶんどこにでもある不幸な話だろうから。……あーところで』
『何?』
『顔が近い』
『えっ?』
『えっ?』




