14.潜入捜査(13)指標
14.潜入捜査(13)指標
背後から近づく足音に違和感を覚えるぼくだったけれど、ミシェルが見ているので安心していた。
どうしてそんな足音を消す歩き方をするのか分からない。第一、音は消えていないし。
さっきドアを開け閉めした空気の流れも感じていた。
人数は一名。歩幅から身長は一七〇cm前後。その身長にしては足取りは軽く――体重が軽いので、女性か少年。
レディ・ベルであれば、ミシェルは立ち上がるだろうから、ミランダだろう。
ミランダの匂いはしなかったし、フリーダならミシェルが何かしらの反応をするはずだ。
ぼくの背から、スマートフォンを覗き見した。
すぐにアプリを閉じた。
「情愛にかられて罪を犯すだけの知性もないということです」
ミランダだった。男子寮らしく、スラックスのセーラー服を着ている。
となると男性扱いになるので、立ち上がる必要はない。
女性がテーブルにやってくると、男性は立ち上がるというルールがある。
「進展はどうですか?」
二三、言葉を交わしたあと、向かい席につくと本題に移った。
「何も。――マイケルには近づけなかった。避けているんだろうな」
「気になる人物はいましたか?」
「いいえ。獲物が増えて興奮するタイプではないのかと。――敵がここにいれば、の話ですが」
こう目立ってしまっては隠密行動ができる訳もないし、指標という名の生き餌――つまりぼくに敵が食いついてくるのを待つしか方法がない。
「どのような場合にも適切な対処を求めます。イザベルお嬢さま優先で」
再確認。
「もちろん。ただ……」
「――ただ?」
「マイケル君の警護はしなくていいのですか?」
「この学校はセキュリティがしっかりしているので、特に気にする必要がないでしょう」
(ということは……)
「別に他の誰が――あなたやそこのイット、私を含め、どうなろうとアセックス卿はお気になさいません。必要であれば、喜んでその身を捧げてくれと仰られるでしょう」
(ですよね……)
「青い血ですか……」
「貴族はそうしたものでしょう? そしてそれを口にしない美徳もあります」
(美徳……)
「さて、休みましょう。――部屋にご案内します」
「……」
「ああ、私と同室です。――ああ、イットはフリーダの部屋に」
「レディ・ベルは?」
「個室です。フリーダの部屋と続きになっています。ご安心を」
「あなたと同室はどうかと……」
「獲物を前にした敵がじっとしているとは考えにくいですからね」
(眠れそうにないなあ……)




