13.潜入捜査(12)調査報告
13.潜入捜査(12)調査報告
ミシェルの話では、女子寮は各室にシャワールームがあるらしい。
「アッシュアッシュ。ビデまであるの」
そこまで聞いていない。
この時間、夜に開いているのは職員用のラウンジだけだ。もちろん新館、旧館と二つある。
今は旧館のラウンジで、ミシェルと二人だけだ。他に職員がいるが、遠くて話は聞こえない。
今回は学校法人からの要請なので、ぼくたちが使う許可は得ている。
横を見ると、ミシェルが椅子に膝を乗せて兎のように背によりかかっていた。
あの後、男子寮から女子寮までフリーダに尻を蹴られながら案内(御披露目)されたらしい。
「あの女、プロだわ」
こころなしか、ヒップが大きくなっているように思えた。
「そうか」
ウィルキンソンのソーダを飲みながらぼくはぼんやり聞いていた。
「最初の一発目だけ本気で、あとは傷にならないように調節していたのよ」
「そうか」
加虐性欲も被虐性欲もぼくには分からなかった。
(分かりたくもないが……)
「ビデくらいあるだろう? 温水洗浄便座なら」
「違うよ、アッシュ。ビデ専用があるのよ。ホテルみたいに」
この学校は、良家の子女の嗜みを教えているそうな。
「それで?」
ぼくが日本語で言い返した。
「監視カメラだけでなく、マイクまであった。ここにもある」
同じくミシェルが日本語で答えた。
「記録にない設備か……」
「化粧室のなかまで。たぶん生徒は知らないでしょうけれど、上に確認したら『適切に利用している』ですって」
「上、とは?」
「あなたも持っているでしょう? 茶泉のアプリ」
(ああアレか)
スマートフォンからアプリを立ちあげると、衛星経由で秘匿回線で接続された。
私用で使うことはないが、料金を考えたくなかった。
わざわざ日本語表記になっている。
ミシェルが歩かされたところのカメラとマイクの地図がアップされていた。
ミシェルは仕事が速い。
夕方の襲撃の場所を確認すると、やはり監視カメラがなかった。
(変に頭がいいというのは不幸だなあ……)
男子寮の監視カメラの記録にアクセスした。
やはりぼくしか映っていなかった。周囲をひろげて、三名を特定した。
ジョン・ブラック、アーサー・マクミラン、ボブ・オコーナー。
(ジョン・ブラックは色白で赤毛なので、ブラックの直系じゃあないだろう。マクミランはスコットランド系の名前なのに、アーサーとは?)
伝説のアーサー王はスコットランドではなく、今のイングランドの英雄である。
オコーナーはアイルランド系で「コナーの子孫」という意味だけれど、ロバートじゃあなく略称のボブを正式名としているのに違和感があった。
三名の成績を閲覧した。
当然のことながら、歴史は全員がCかCマイナス。
身長は三名とも一七〇cm前後あるから、米国の被疑者とも疑われるけれど英国からの出国記録も米国への入国記録もなかった。
「情愛にかられて罪を犯すだけの知性もないということです」
画面を覗きこんだミランダが英語で感想を述べた。
「日本語が読めるの?」
「いいえ。けれど生徒の個人データでABCがあれば成績だと考えつきます」
「これ機密なんだけど……」
秘密には三段階ある。
・機密
・極秘
・秘
「隠してもバレます。――というかあの三名でしたら無実です。あの日、三名とも補習を受けていたから」
調査済であれば、こちらにデータを開示してくれてもよさそうなものである。
(違う。ぼくたちの能力を確かめていたんだ)
フリーダがミシェルの尻を蹴っていたのは趣味だろう……。




