11.潜入捜査(10)性癖〔ロブ語り〕
11.潜入捜査(10)性癖〔ロブ語り〕
〔ホークアイ家の執事ロブの語り〕
私の名はロバート・テイラー・ジュニア。アセックス伯爵――ホークアイ家の執事だ。
いちおう執事だが、最近はイザベルお嬢さま付をしている。
本来であれば、バトラーの名のとおり酒や銀食器を管理するのが私の役目だ。
しかしそれは後輩で有能な家令にとられてしまった。
卿の命とはいえ、イザベルお嬢さまのお世話は頭を悩ませる。
先日は、マイケル・スミス君に申し訳ないことをした。
スミス夫妻に謝罪したところ、高額の慰謝料を提示された。もちろん卿が支払った。
こうした示談でスミス夫妻は儲けているという噂も聞く。事実そうだとしても、こちらの不手際があったことは否めない。
しかし、だ。
信じられるだろうか。白昼、高尚な物理の講義のなか隣の少年の髪をなめる少女の存在を。
いや、私とて大人だ。変態プレイがどのようなものか一通りは知っている……つもりだ。
いやいや、けっして私は愛好家などではない。妻とはそのようなことをは一切したことがないし、口で愛撫することすら躊躇われる。
しかし、信じられるだろうか。
美しい金髪の少女が黒髪の少年の髪を愛撫する様を。
幸い、イザベルお嬢さまの隣にフリーダ、ミランダ姉妹がいたからそれ以上進展しなかったが、今後を考えるとあまりある。
異動願いを卿宛に提出したが、あの家令に見られてしまった。
結局「示談で済んだ」=「何もなかった」の世界にあっては、家令が言うとおり「異動しないほうが賢明」とも考えられなくもない。
イザベルお嬢さまに他の性癖――これはセックスの癖を意味していない――生まれつきの性質をいうが、他にあったとしたらどうだろうか。
今はまだ一つのうちに、イザベルお嬢さま付の全員で解決できるのではないだろうか。
その提案をしたのが三日前で、すぐにフリーダから意見があった。
「嬢はわたしと同じSです。あっえーっとSというのは」
「知っている」
知っているとも。ただそれは一般常識として知っているだけであって、私がそれを――。
「たぶんそうです」
「はい?」
ミランダも同意見だった。
「確証はありませんが、あの黒髪を求める目は変態さんの目です」
「卿になんと言えばいいのか……」
「いやあの……知ってらっしゃるかと」
ミランダが助け船をだしてくれた。
「卿が何を知っているというのだね?」
「卿もSMプレイ好きです」
ガーン。ガーンである。
「本気ですか?」
私は少女姉妹に本心から聞いた。
「本気です。うちの祖父が卿の女王さまでしたから」
「『祖父ガ卿ノ女王サマ』?」
「卿の向こう傷、アレやったの、うちの母です。あんまり大人しかったので、先代に頼まれて。で、外では紳士な狂犬になりました」
「すう……」
私は息を吸った。肺に酸素が十分ほど満たされた。
「本気?」
「本気です」「本気です」
ハモった。




