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白い大地へ

戦場の中で、この戦果の嵐の中で目を引くのは、二体のアニマドールだった。


「あれらに押され、魔物達は後退している……?」


「ミライ、来たのなら手を貸せ」


「了解でーす」


戦場の中央に行けば、リンクスキルが死者の怨念を伝えてくる。


死ねば生命はそこまでで、幽霊なんて、魂なんてものは存在しないのだ。


ならなぜ死者の声が聞こえてくるのかと言えば、これは電気信号の残留思念なのだからだろう。


死ぬ瞬間に激烈なスピードで思考をした脳の電気信号を、リンクスキルという自動で周波数を合わせてくれる装置が、自己の脳に伝えてくれている。


ただ、それだけで、ロマンチックなものではない。


だから死人の思考に引っ張られるわけにもいかず、私は前を強く見つめるしかないのだ。


その前には、亀を模した、両腕に一本ずつ、両肩に一門ずつ、計4門の大砲を持つアニマドールと、それを攻撃する黒いアニマドールだった。


「データファイリングの照合で、黒いアニマドールが様々な生物に変形できるアニマドールとあうのはわかったけれど……」


あの、亀のアニマドールはなんなんだ?


この人類最後のアニマドールであるはずのフォックスドールにも載っていない機体なのだから、ユニバーサルな物ではないのだろうけど。


技術者としての観点でも、あのアニマドールは胡散臭い。あれに載っているのがイジョウクラシックなら尚のことだ。


フォックスドールは邪念を感じさせない軌道で黒いアニマドールへ向かう。


現在は……兎だろうか、とにかくとして、俊敏な動きで亀の砲撃を避けている。


「まるで童話だな」


うさぎと亀、そんなお話があった遠き過去の話は、うさぎが寝て、亀が勝つ。


が、現実にはあり得ないのがお話なのだから、亀はうさぎに押されている。


「この感じ……知り合いか……?」


違う、憎悪を兎から感じたるのだから、敵だ!


「だとしても!」


誰であろうと、切る!


エネルギーソードを振り翳し、避けられないと判断した兎が変形し受け止めて見せれば、接触回線で声は繋がる。


「このダイレクトに伝わる憎悪の形は、イマバルゥグ!?」


「そうさ、貴様が神の使徒を殺している間に、このアニマドールを見つけたのさ!」


選ぶって説明してくれたのには感謝するが、目の前の男はテロリストだ。


マリーさんが教えてくれた、テロリズムの首謀者は、こんなアニマドールを使っている!


「ミライ、喋りをするなら手を動かせ!」


父親が、横にいる亀型のアニマドールに乗っている男が、私を急かす。


「今まで逃げていたのはさすがと言えるけど……」


結局犯罪を行なっているのは馬鹿ではないか。


下段から黒色を蹴り上げ、エネルギーソードで殴るように突く。


体制を崩した黒いアニマドール、データによればゼーリドルという名が追尾型のレーザービームを乱射する。


「シールド!」


左手の強固なシールドの上に、エネルギーの膜が貼られレーザーを全て掻き消す。


反撃、関節を狙ったエネルギーソードの射撃は、変形をして避けられた。


「今度は蛇になった!変形マシンだから、関節を狙うといった弱点戦法は通じない!あの硬い装甲を狙うしかない!」


恐らくジェル・アーマと呼べるものなのだから、受ける衝撃により高度が変化する鎧を纏っているのだ。


弱い攻撃はプルプルとした攻撃に弾かれ、強い衝撃には、装甲が強固になり受け止める。


「ならどうする?ミライなら、このフォックスドールなら」


このフォックスと、ゼーリドルには実質的な機体差はないのだから。


「パイロットの技量で、勝つ!」







「ミライと、あの男が」


戦場に行けるはずのない一般人扱いのマリーは、ミライの部屋で家事を行なっていた。


が、頭の中にリアルな戦闘が突如現れれば、戸惑いもするのだが、それ以上に実感もこもったものだったので疑えるわけがないのであった。


「ミライでも、フォックスドールでも死ぬことはあるでしょうけど」


だからどんなに非現実でも、ミライが死ぬ瞬間はリアルな物として感じられる。


「私にできることは、やるべきなのだから……!」


着替えと化粧をし、部屋を出る。


向かう先はアニマドールの倉庫、そこにいるはずの、機械人形である。








「ちょっと!無理ですよマリーさん!」


知り合いの、ミライ経由で知り合いになった整備士が慌てて声をかけてくる。


「操縦の仕方はわかっているつもりですし、やったこともあります!」


「そう言う問題ですか!?」


慌てているのは、私がアニマドールに乗っているからなのだ。


「退いてください!轢きますよ!」


「全員、急いで退けー!」


カタパルトが推進力をアニマドールに与え、空に向かい発射する。


背中のバーニアから出た火力で緩やかな曲線を描きながら地面に向かっていく。


「ミライ、貴方が死んでもらっては……!」


この戦争は、終わらないのよ。







「貴様には死んでもらわなければいけないんだよ!独裁者ァ!」


「なん……でぇ!」


敵のビットによるメガキャノンは、横を掠め地面を溶かす。


フォックスドールは加速をかけ、ゼーリドルと距離を開く。


「強いと言うより……強力すぎるんだ!だから攻撃は受け止めるしかないし、よくてかわすぐらいで!」


このままだと、エネルギーが、人間という有限力の装置が故障するぞ。


「イジョウのアニマドールは、強力な性能で足止めしてくれているけど、ただそれだけだ!」


何をする?何をすれば勝てる?


相手を殺すこと、すなわち自己の生存に集中することに意識を向ければ、自分が人を殺そうとしていることに気がつかない。


反転し、メガキャノンを避け体当たりをかける。


よろめいた体制に追撃をかけ、両翼を叩き壊す。


「勝った……つもりかぁ!!!」


まるで種が急速に成長するように、伸ばしたゴムが元に戻るように、破損した部位は修復される。


ゼーリドルに内蔵されたものが、あれをさせる。


「さしずめ、黒い不死鳥……」


といえば格好だけはつく。


しかし乗っているものの人間性を合わせれば、虫に劣るものだ。


「黒い虫より、私に悪寒を走らせる!」


伸びる黒い触手、覆われるフォックスドール。


「しかし!」


囲われた暗闇の中に、エネルギーソードが光る!


最大の出力を持ったエネルギーの刃は、ほのかな虹色の輝きと共に、暗闇突き抜け天を仰いだ。


それは、側から見れば神秘的なシンギュラリティだった。


「死ねよ!」


しかし、中にあるのは、戦場に飲まれた過去の天才児。


神秘、人の積み重ねた技術の刃が、人を殺すため振り翳された。


「ミライ!」


「マリー・アンネット!?」


そこに割って入ったのは、綺麗な女性だった。


今、ミライの目には、ただのアニマドールが写っている。


今、ミライの耳には通信で聞こえるマリーの声がある。


しかし脳はそれを理解せず、動き出した、振り翳した刃は好きな人を切り裂いた。


「なっ、んで」


漏電が尾を引き、アニマドールは爆発共に消えた。









人の声が聞こえる。


そしてその声が誰か、私は知っている。


私が好きな人、マリーさんだ。


が、先程殺したはずなのは、わかっている。リンクスキルによって、わかっている。


それなのに、彼女の声は聞こえる。


やっと、自分の脳は何をしたか理解した。


殺した。人殺しを、した。


なぜかこういう時だけ勤しんで働くリンクスキルは、リアルな人の死を想像させる。


それを、現象として、理論として理解する。


つまり、マリーは熱を持った刃に下半身を溶かされ、爆発と共に上半身が吹き飛ばされたのだ、と。


綺麗な顔が、素敵な髪が、爆破によって歪む瞬間さえもリンクスキルは伝える。


嘔吐、嘔吐。


現実から逃げたい内側が、外に出るため喉を通る。


止まらない、嘔吐を見ながら、ミライは思う。


ああ、このまま死にたいと。


はっきりとそう思えたわけではないが、現実から逃げたいと思うのは自殺願望があるのと同じだろう。


今胃の中にある物を全部出して、次に血と酸素を出して、今までの辛いことを全部吐き出して、最後に命まで吐き出せて死ねたら、どんなに楽だろうか。


しかしそれはただの自己中で、現実は動いている。


脳はかすかに訴える。


「ここで死ねば、貴方は本当に人殺しになれるのよ?」


誰の声だ、これは。


「いやだ」


本音として出た小さい声は、自分にすら聞こえなかった。


なぜなら、今の自分を包む音は、レーザーの音だけなのだから。





精神の、脳内の世界だから、私の過去の記憶の風景だ。


「ミライ」


「マリーさん」


モノクロな景色の中で、二人は立っていた。


「言葉だけで、あなたを止められる程の力が、私にはありませんでした」


それは、誰であろうと無理だ。


人を殺すことに集中したミライは、誰の声も聞かないだろう。


マリーは、間違ってなどいなかった。


善悪は置いておいて、その行動はただ、ミライを悲しませているだけで、愚かな行為ではない。


「あなたが、イマバルグゥを殺していたら、戦争は終わらないものになると」


「もういいです」


リンクスキル、人類の導き手たる者に与えられる力は、互いに備わっていた。


だから、会話などしなくても良いのだ。


マリーの理想は、魔物の殲滅ではなく、人との共存なのだというのは、理解していた、話してくれた。


でも、ミライはそれすら忘れてしまった。


その話を聞いてから、無闇に殺さないようにしていたものを、最後の果てに殺そうとした。


だから、マリーが代わりに死んだ。


イマバルグゥを殺せば、戦況は人間有利となり、戦争から殲滅へ変わる。


それが、たまらなく嫌なのだと、マリーは感じた。


そして、マリーは今さっき気づいたことなのだが、魔物社会のことを知っている人間は、イマバルグゥぐらいしかいないのだ。


相手のことを知らず、悪と決めつけ殲滅しようとするのは差別だ。


「ミライには、そんなことをして欲しくなかった」


「だから、大丈夫ですよ」


嘘であった。


声だけはいつも通りに、俯かれて健全性があるのだらうか。


「間違っていたのは、私なんですから」


そこで、ミライの視界は変わっていき、現実に引き戻されていった。












その瞬間は、誰もの記憶に残ることになる。


この戦場を回す、みっつの存在の戦いが幕を閉じたからだ。


割り込んだマリーの機体がフォックスドールに切断され、爆発し、それによりなんらかの不調を来したフォックスドールが棒立ちのまま、黒いアニマドールの攻撃を受け吹き飛ばされたのを、この場の全員が見ていた。


これにより、かろうじて保たれていた戦力バランスは崩れ去ることになる。


ゼーリドルに乗るイマバルグゥは、魔物のため人を殺す。


それの抑止力たるフォックスドールが死んだのだから、魔物側の有利として雰囲気は流れ始めたのだ。


「ミライ!」


ソルトの乗る、クワガタンが、唯一死体のフォックスドールを追いかけた。


「ソルトさん!隊長の生体反応はもう……ないんですよ!」


優男の無慈悲な宣告を無視し、はるか彼方へ吹き飛んだ狐人形を、海のどこかへいなくなったミライを、ソルトは追いかけた。






誰も見ていない、誰にも見えていない。


フォックスドールがどうなったかなんて。


シンギュラリティたると言えばいいのか、全力のレーザーを受けてもフォックスドールは形を保っていた。


が、中の人間は熱に溶かされ、息をしていないのだろう。


だから、ボロボロの鉄人形は、海にまで吹き飛ばされゆらりと沈んでいく。


海水が錆を煽り、冷えた海水が中の死体の状態を保たせる。


そこにソルトが来て、戦場から逃げるように北へ向かって連れて行く。


「おや、これは」


時間的に言えば、2日経ったぐらいの日。


フォックスドールは陸に上がる。


「懐かしいものを……」


ソルトは、なぜか極寒の地に居る人間を踏み潰さないようにミライを寝かせる。


白いアニマドールが横たわった大地も白く、そこは、北極だった。


人が踏み入ってはならない、北極であった。

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