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人魔大戦、開幕!

ガタンガタンと、揺れる列車の中にある浴槽は、揺れずに熱い水を貯めていた。


その中に、ゆっくりと足を入れ、やがて肩まで浸かれば、ゆっくりと声が出る。


「あー」


湯気に包まれ、疲れを吐き出す。


ああ、次はオールド管轄に行くんだ。


思考は仕事のことばっかり考える。


列車の個室を買って、今は自分一人しかいない空間なのに、羽目を外さないのは今まで仕事しかしていないからだ。


(これが終わったら……私はどうなるんだ?)


私は用済みなのだから、イジョウに捨てられるのだろうか。


(結局、ソルトにちゃんと謝ってすらいないのだ)


戦争とは結局物事の一つで、それ一つで今後が決まるわけでもないのだから、想像もつかない。


「ソルト……」


抱いたことのあるあの裸を思い出す。


この一ヵ月間まともに口を聞けていないのだから、やはり避けられているのだろう。


謝ろうとしていても、会えないのだからできやしない。


文面だけで、メールで謝罪したこともあるが、既読スルーされている。


「最近疲れてばっかりだ……」


深く、湯の中に沈む。


口元まで上がった湯は、口呼吸を止める。


(なんで、辛いのにやめないんだろう)


自分に対し問いをかける。


なぜ辛いのか、なぜ辛い中で頑張っているのだろう。


疑問に対し、独り言で解決しようと思えば口は湯を離れる。


「一人の人間に、なんで私は拘っている?」


何故謝ろうと思う?何故一ヵ月もその女のことを考えている。


人の死を受け止め過ごすように、あの騒動を、喧嘩に納得して適当に放っておけばいいだけではないか。


口元に手を当て、考える。


指先が、唇に触れた時、その答えはわかった。


唯一の心残りが、ソルトなのだ。


私が死ぬときの、唯一の心配事がソルトなのだから、それを解決してから死にたいのだ。


独善の考えが、私の真意だった。











夜の静けさと、列車内の静かさは、微塵も関係がないのだが、気分には関係がある。


つまりいまこのドギマギというのか、不安定な心の理由には、夜のダウナーを誘き出すような効果も一つの理由なのだ。


高い金を払えば借りれる列車の個室、それを何個か借り、隊員を割り当てている。


チャイムが鳴り終わり、すぐに扉が開く。


そこに出てきたのは寝巻姿の隊員で、コチラを見ると怪訝な顔でこちらを見上げている。


「こんな夜中の女性の部屋に何のようですか」


「いや、ソルトに用があってきたんだけど」


玄関から、というか扉から見えるのは壁だけで、中の様子はわからない。


「ちょっと待っててくださいね……」


扉が閉まり、しばし静寂が流れる。


聞き耳でも立てようか、いやそんな君の悪い真似はできないな。


そんなことを考えれば、すぐに扉は開く。


「今いません!って」


「は」


いないって何だ、絶対いるだろ。


いないなら最初から聞く必要もなかったでしょうがよ。


呆気に取られ、空いた口が塞がらないと、人を憐れむ目でコチラを見上げる彼女は要らん言葉を付け足す。


「今はみんなで大富豪やってて無理ですけど、この後私が代わりに相手してあげましょうか?」


「……夜這いじゃないんだけどぉ」


「あ、そうなんですか」


もういいよと言えば、パタンと扉は閉められる。


閉まった扉を、十秒ほど見つめトボトボと来た道を引き返す。


この、やり場のないもどかしさをどうにかしようと思い、自販機でフルーツオレでも買おうとする。


「なんか……そういう気分じゃない」


ここでこれを買っても、何にもなりはしないのだ、と、頭はつげる。


しかしなぜか私は端末の、電子マネー用のアプリを開いている。


そして、ガタンと音が鳴り、フルーツオレが落ちる。


そして、またトボトボ歩いていく。


「なんか……惨めじゃないか?」













「なんか、哀れになったな」


開口一番、目の前の男は私を見て言い放った。


清々しい朝日が入り込む室内で、私の心は深くダウンしている。


なぜ、哀れみが今日も続く?


「……すまん」


人生で初めて、父親に謝られた。


イジョウ・クラシックは、今の私を見て憐れんだのだ。


「お前でも、女に振られることがあるのか」


謝られたと思ったら、ストレートで殴ってきたぞこいつは。


私はどうすることもできず、言葉のストレートを受け、ソファーに倒れ込んだ。


柔らかいはずのソファーは、今の自分を受け止めるのには不十分だった。


「私って、男としてどうなんでしょうね」


そして何故か、私はストレートに対し、言葉を返していた。


ここはオールド管轄の管理者、世界の統治者たる人間が執務する場所、決してそう易々と入れる公園の便所のようなところではないのに、私はくだらないことを呟いた。


「まあ男として完璧でも、女からすれば不完全なんじゃないか?」


違う、こんな話をするために来たんじゃないでしょ。


そう心に言い聞かせ、目の前の父親に対し向き合うことにした。


「今更取り繕ってもなあ」


そういい、一笑に付する父親も、背筋を伸ばしてコチラに向き合う。


「まあ本題になるが、今日の午後から戦争に参加してもらうが、大丈夫か?」


「はい。特に脱落者とかも出てないので普通に参戦できます」


「そうかぁ……ふふっ」


なんか笑われたんだけど。


「いやすまん、まあ言いたいことは先日メールで送ったしな、もう下がっていいぞ」


「失礼します」


わざと苛立って言い、わざと強く扉を閉める。


閉めた扉の前で少し待つと、中から笑い声が聞こえてきた。


「あっはっは!戦争ができても女を口説けないの!あーウケる!」


今すぐこの扉を蹴り破り、中にいる男をぶん殴れば私の気は済むのかもしれない。そう強く感じた。








「隊長……大丈夫ですか?」


「ダメかもしれねぇ……」


「いや、目の前のフォックスドールのことを言ってるんですよ?下向いて、本当に見てます?」


年下の少年は、信じられないものを見る様子でこちらを覗き込んでいる。


「多分……大丈夫でしょ……報告書みたけど機能についてはごく普通のバックパックだし、機構もユニバーサルデザインのやつだから不備は起こすわけないと思うし……」


「機体が完璧でも、パイロットが情けなかったらダメじゃないですか。一時間後に出るんですよ?」


「ダメかもしれねぇ……」


「なんかありました?いつも不自然なぐらい元気を演じてるのに」


この人はいつも通りなのに、何故か言葉が全て痛く胸に刺さる。


俯いていると、遠くからアセラントの足音が、コチラに歩いてきて、男性隊員に耳打ちする。


「あー、それじゃ僕に出来ることはないですね、失礼します」


「大丈夫ですか?まさか本当にフラれたんですか?」


「そんなわけ」


「じゃあ哀れまれすぎて、本当に自分が哀れに思えてきたんですね」


「可哀想なものを見る目が沢山あるんだもの」


「はいはい、コックピットの中で聞いてあげますから」


「私は……謝りたいだけなのにさ、それが叶わないまま一ヵ月ぐらい続いて、周りはそれを私が女にアタックして悉くを躱わされているって」


「そうなんですね」


「私のこと、どう思う?」


「どう思う?とは」


「いや、だから、いいか悪いかってこと」


情け無い、本当に情けないのではないか?


平静を装う気力も、礼儀作法に気をつける考えもない。


「まあ、たしかに、飛び級が認められている天才、さらに学業問わず、幅広い分野、特にスポーツでも目覚ましい成果を出し、さらに人当たり物よく、特にいうことがないですね」


「そうらしい、自分でいうのもバカみたいだけど、周りから見た私はそうみたいだ」


「でも、女性は隊長と結婚したいとは……思わないと考えます」


「……何でか、聞いてもいい?」


「そうですねえ、簡単に言えば、絵に描いたような人間だから、ですかね」


「はあ」


「貴方は優等生かもしれませんが、中身たるものが、薄いんです。人間臭くない、とでも言えばいいんでしょうか、とにかく、惹かれるところがないんですよ」


「そう、なのか」


「本当はあるんでしょうけど、分かり用がないんですよ私たちからすれば。例えば、休日なにて過ごします?」


「読書と、あとは論文書いたり、アニマドールの整備とか、たまに絵や小説を執筆して……」


「一人で自己完結しちゃってるから、完璧すぎるから、結婚後の姿とか想像できそうにない。入り込める余地がありそうに思えないんじゃないでしょうか」


「そんなにひどいのか」


「性欲とかもなさそうですし、いや、あるのかもしれないのだろうけど、想像出来ないんですよ、貴方の根っこが。だから結婚したいとも思うこともできない」


「つまり、私は優等生ぶって、周りからは遠い存在かなんかだと、思われている」


「だから、ソルトさんはアナタと付き合う気がなくなったのではないかと」


ロボットみたいに思われているのか、だとしたら酷いとは思わないか。


私はちゃんと悲しむし、痛むし、ゲロだって吐くし、できないこともあるというのに。


「いや、でもそれは違うよ」


「はあ」


「ソルトは、私のことが好きなままだから、無視しているんだよ。彼女は、少なくとも隊長の立場である私の言葉を、無視するほど馬鹿じゃない」


「そう、なんですか。あいにく女性方との会話は少ないのでなんとも言えませんけど」


「だから、嫌っているなら、私はイジメを受けている。嫌いな人間はとことんイジメるタイプなんだぞアイツは」


「なら、大丈夫じゃないですか?この戦争が終わる頃には、ちゃんと話せるようになりますよ。アナタにその気があればですが」


「そうか、なあ」


私にその気があれば、か。


戦争が終わったら、無気力になるであろう、この私にか。









格納庫から運び出されたアニマドール、フォックスドールは、艶のある体で光を反射し、大地に降り立つ。


「混戦状態なのはわかっていたけど」


この熱気は、やはり荒々しい。


人が獣を殺そうとする声も。


獣が人を噛み砕く音も。


人が悲鳴を上げながら潰れる音も。


獣の瞳から光が消え失せるのも。


それら全てがリンクスキルという糸を伝い、脳に直接伝えてくる。


そして、必要な情報も、流れてきた。


混戦の中、生命が知能を消し本能のまま生き残りを望むこの混沌の中で、フォックスドールは台地に立つ。


雄々しくと立つそれは、背中にある巨大な2本の筒と共に走り出した。


「追加ブースターの実力を!」


2本の筒が火を吹き、莫大な推進力を加える。


家族と共に走り出したフォックスドールは、右手に持ったエネルギーソードで敵を切り刻む。


「殺しはしてないんだら……」


でも怪我はさせたのだから、帰ってくれよ。


他者を傷つけるのは性に合わないのだから。


「本当に、百メートル先に巨大ADがあるのか?そうは見えないけれど」


センサーに反応して見せているのだから、そこにあるのだろう。


しかし見える景色に目立つものはない。


百は五十、五十はゼロに。


ブースターのお陰で縮まった距離は、目的地の上であった。


「地震!?」


な訳がないと、リンクスキルはつげる。


「なら、本当に地下にアニマドールがある!?魔物は機械を使ってみせるのか!?」


地が裂け、黒き巨体が姿を現す。


それは、誰も見たことがない黒き鳥だった。


光を全て飲み込み、まるでそこにだけ夜が訪れているように、暗い。


魔物も、人も、そのブラックホールのような色に目を吸い込まれる。


そして訪れた静かさに、鳥は産声を上げた。


否、それは産声ではなく、起動音だった!


「攻撃が、くるぞぉー!」


歴戦の兵士を思わせる、重たい声がそういったのと同時に、黒鳥は攻撃を始めた。


全方位に光の槍が飛び、人間を貫いていく。


アニマドールの盾ごと機体を貫き、逃げ惑う人形の全身を刺し、地面に突き刺さり、空の彼方まで飛んでいく。


「全方位レーザーなんだ、これは」


回避に専念できるのは、魔物も戸惑っているからだ。


そうして、エネルギーが切れるまでなのかは定かではないが、時間によってレーザーは弱まっていった。


さっきまでの悲鳴のオンパレードが嘘のように静かに、静かに時が流れた。


残った数人は、ただ自分達が取り囲んでいる黒い物体を見つめる。


味方をされたであろう魔物達も、それを見つめる。


背中を向けたら殺されるであろうプレッシャーは、この場の全員を止めるのには大いに役に立っていた。


ただ、一人を除き。


「やるしかない!やってみせろ!フォックスドール!」


黒鳥、その巨体に対し勇敢にも突撃したのは、ミライ・クラシック!


「通信は……遮断されている!やっぱり人がいるってことじゃないか!」


エネルギーソードのライフルの弾が効かないのは光の槍の時に確かめていた。


ので、接近戦を仕掛ける。


「人殺しはしないつもりだけど、どうなるか」


その巨体に見合わず俊敏な動きでエネルギーソードの斬撃を避ける黒鳥は、コチラに対し手を出すのか戸惑っているように見える。


しかしこちらが明確な殺意を持って剣を振う姿を見れば、当然反撃してくる!


「やっぱりこれがロストテクノロジの最先端なのか!?」


勝手に、しかも無茶が入った動きをするフォックスドール。


同様であろう、カラスのアニマドールも意思と本能が混在したかのような、無茶苦茶な動きで当たりを壊している。


共鳴している、互いに互いを恐れている。


「落ち着けば……勝てるのに!」


私とシンギュラリティの息が合わない。


ここで隙を晒せば、周りからの攻撃だってあるかもしれないのに。


「ミライは引け」


「イジョウの声!?」


退却を促すアニマドールが見えるから、そこから通信が飛んできているのだとわかる。


あれは、倉庫の奥で整備されていた新種のアニマドール。


それが持つ、肩に設置されたキャノンがビームを発射し、カラス型の奴に当て怯ませる。


だから普通に、何事もなく私は退却できる。


部隊を補充するという名目で、この場を離れた。


目的は、あのアニマドールを知っている気がしたから。


フォックスドールの資料で、見た気がしたから。








「特殊なプログラムがあるのかな」


補充と修理を行っている際は、パイロットは暇なのであるが、ミライクラシックは整備士としても働いているのでそんなことはない。


当て割り振られた部位は、コックピット内部であった。


ミライは持ち前の手際のよさでコックピット内の汚れと古いパーツの交換を行った後は、随分暇になった。


この空間を使う本人として、気になった場所を直せばいいのはありがたいことだが、暇になってしまえば恨むことになる。


「おーい。手が空いてるなら動かしてみてくれないかー?」


「わかりました!」


下から聞こえた声に、コックピットから身を乗り出し応答する。


「動作確認、実行します!」


フォックスドールの両手を上げ、指をしなやかに動かしてみせる。


首を回し、肩を上下に動かし、まるで準備運動だ。


こういう動作ができるから、アニマドールは人型なのだろうか。


「完璧には治せてないけど、それで戦えそうかー?」


「はい!大丈夫です!」


完璧に修理するのには時間がかかるのだし、他のアニマドールも治さなくてはならないのだから、必要最低限の補充だけで済ませるしかない。


「この高性能機なら、充分戦える!」


栄養食と、スポーツドリンクを飲み込み、自分の補充も済ませ、フォックスドールは発進する。

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