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世界を巡る。

世界各国はアニマドールを増援に寄越す、というのは、オールド管轄の寛大な処置の結果である。


つまるところ、イジョウは「諸々の問題を不問にしてやるから、力を貸せよ?」と言っている。


それに従わなければ、法の元に死刑かそれと大差ないものが、行われるであろう。


「それは、わかってますけど。けれど何と関係があるんですか」


ミライは、イジョウに向かっていう。


珍しく、イジョウの方からコチラを尋ねてきたのだ。


マリーさんは運動のため、船内の運動スペースに水着を持って行った。


水着、か。


それが見れないことに対して、悶々としていると、イジョウから返答が帰ってくる。


「魔物は知性で群を作り、地下から這い出てくる」


熱い茶を、躊躇することなく飲む。


湯気が白くハッキリと見えているのに、恐れはないのだろうか。冷ましてあげればよかったか?


「そしてそれは場所や時間を問うことなく、現れる」


魔物の力、それを使えばトンネルぐらいは掘れる。


それを無闇やたらと行わないのは、トンネル造りの危険性を理解しているかだろう。


穴が崩壊すれば、最悪化石になる。


「この戦場に影響されてか、魔物の出現数が跳ね上がってきている」


「それを、私にどうにかしろと」


「リンクスキルか」


リンクスキルが、先の言葉を読み取り脳に伝える。


「幸い、戦力は均衡しているし、他国に助けを出す余裕はある。やってくれるな」


「はい」


その言葉は、思ったよりすんなりと出た。


アニマドールに対し、見方が変わったからだろうか。


今は、自分の意思でここにいる。本当かどうかはわかりようがないが。


マリーを守るため、誰かを守るためなら、自身の身を粉にするのは厭わない。


ノブレスオブリージュ、天才として生まれ育ってきた自分には、そういう使命が、義務があるのだ。


そうなのだと、ずっ理解している。


生まれたことに理由がないのも、十分理解しているが。


「専属のチームも用意してある。といっても、前日お前が指揮をとったあのチームだがな」


この男に対する接し方も、いくらか変化した。


結局何に利用されているかと言えば、便利な道具ぐらいなのだろう。


だが、結果は世界平和のために動いていることになる。


イジョウも、善良な人と、見ることができる。


ただ、そのために人を見捨てているのは、気に食わないが。


「一つだけ」


聞きたいことがある。


「なんだ」


「貴方は、私のことをどう思ってるんです?」


それは、今まで聞こうとも思わなかったことであった。


何故だろう、不安だからか?


変化する人間関係に対し、私は恐怖しているのか?


「5割ぐらいは、息子だと思っているよ」


違う、ハッキリさせないことに恐怖を抱いている。


実際心が安らぐ、安心するのをかすかに感じた。


「残りは他人だ」


「そうですか」


この人にとって私は、特別な人間ではないらしい。


他人でいてくれる人がいるのは、なにぶん嬉しい。


意外にも、自分の中でソルトを泣かせたことを後悔しているらしい。


だから、この男に対しても、自分は勝手に決めつけて接していたのを危惧したのだ。


飲み終わったらしく、ティーカップを中央に寄せ、彼は立ち上がる。


「すぐ出てもらうぞ」


そう言ったら、扉を開けてどこかへ行ってしまった。


私は、何をするでもなく、考えを働かせる。


あの人は、少なくとも、話し合えるぐらいの関係ではあると、そう感じられた。


私はあの人を、育ての親と想いはしないけど、あの人と私は紛れもない親子という他人なんだ。


扉が開く。


まとめた髪が、重そうにゆさらゆさらと揺れている。


片手に持った袋を、私の目の前に、テーブルの上に置き、椅子に座る。


「本当に親子なんですね……」


もう片方の手に持った、自販機で買ったであろう、飲みかけのペットボトル。


動きやすそうな、ラフなスタイルは、無防備に身体を曝け出している。


塩素の匂いが、強く感じる。


「そうみたいです」


強く、そう思う。


自己がそう認識せずとも、他者から、つまり客観的に見ればそうなのだ。


物事の関係性は客観的かつ多数の意見が一番正しく、自己の意思はその多数か少数の中の一つでしかない。


きっと、あの人と私にも、似ているところがあるのだろう。


「で、なんなんです?アレみたいな人がわざわざ来たのですから、何かしらあるのでしょう?」


イジョウとの会話の概要を話せば、すぐさま。


「私もついていけます?それ」


という。


出来ない話でもない、私自身も強くそれを望んでいる。


「ええ、いいですよ」


だから、断りはしなかった。


ただ、そうなると不安の種が、後悔が大きくなるだけで。


「マリーさん」


「はい?」


当人を見つめながら、好きな人の名前を呼ぶ。


それに対し、返事が返ってくることのなんと幸福なことか。


「少し出掛けてくるので、あまりここから出ないでくださいね」












「いない?」


見知った顔、ソルトの母親の顔は申し訳なさそうに私を見つめてくる。


「ええ、行くところが出来たって」


少しやつれている、最近の騒動で元気がないのだろうか。


それとも、悲しんだ娘を見て、同じく悲壮感に駆られたのだろうか。


持ってきた菓子を渡して、その場を離れる。


そうしたら、ふと、思った。


(あの人妻と、マリーの違いはなんだ?)


どちらも年上の女、なのにキラキラと輝いて見えないのが前者。失礼な自分だ。


見慣れたなどは理由にならず、きっと、なにか特別なものがあるのだろうと思うことにした。


そして、ソルトに会えなかったことに対して考えを移す。


本当に運が悪く、いないだけだったのだらうか?


それは、少し後にわかることであった。






アニマドールを高速で発射させ、慣性を使い遠くまで飛ばすのが目的の、発射カタパルト。


そこに、巨大な空間に、一つの塊がある。


「これ、いつの間に作ったんですか」


ピカピカなそれは、アニマドールを何体も仕舞い込んで、そこにある。


その中やな自分のアニマドール、フォックスドールがあれば、改めてあの塊に私が乗るのだとわかる。


塊は、箱のような形状をしていて、中にアニマドールを三体ほど収容できるスペースがある。


それが何個も、この空間に、巨大な空間にドンと置かれているのは、邪魔でしかない。


そしてそれを忙しなく運ぶ、豚のアニマドール、ピグゾン。


高所であるカタパルトから外を見れば、ピグゾンが箱を地上の列車の方へ運んでいた。


「人口増加に伴って作られた、巨大な列車」


西暦2000年のものと比べれば、4、5倍はある横幅と縦幅を持つそれは、黒光をここまで運べそうなほど、輝く。


今からアレに乗り、各地を順番に周り、魔物を殲滅し、各国から増援のアニマドールと人員を回収し、最後にここへ戻ってくる。


そうすれば、魔物根絶戦争の開幕だ。


そこまでに異論はないのだが、フォックスドールを見れば考える。


アレだけで、魔物を殲滅できそうだ、と。


各国が結成し、人類の敵を排除する、なんたる美談だとは思うが、何か別の意思でもあると思うのが理性である。


「見方が変わっても、立場が変わってわけではない」


あいつは何かを企んでいることに、変わりはないのであった。







殆ど唯一、世界で技術を持つ国がオールド管轄である。


西暦の技術保存、それを名目とし保つその技術によって、全世界のインフラを支えているのが、現状である。


いま自分が乗る鉄道も、西暦の技術の総和であるものだ。


人と物資の移動を行うそれは、オールド管轄以上に世界を再生させるものであった。


だから、世界の独裁者たるオールド管轄が滅ぼうが、列車は止まらない。止められない。


止めたら、人の自転は止まってしまうからだ。


なので私達、アニマドール操縦部隊であるミライ隊は、特別扱いではなく、経費で列車のチケットとアニマドールを運んでもらうための金を出したのだ。


税金で、列車に乗っている。


この列車は、ユーラシア、ひいてはアフリカ大陸全てを踏破する、なんとも長いものである。


こういうのは世界に三つぐらいある。


一応、アメリカ大陸に繋がる路線も、ないことにはないのだし。


窓の外を見れば、遠くの景色は不動、しかし目の前は一瞬で通り過ぎていく。


席に座って、本を読みながら、時たまに景色をチラリと見て、退屈を紛らわす。


「大人には慣れているけど……」


嫌なことだが、私はミライ隊の隊長である。


そして、その隊員の構成員はほとんどが同年代、つまり子供なんだ。


「これが善意ってのが」


イジョウの脳内をリンクスキルで除けてしまった時、私のために同年代の奴らを多めに配置してくれた、ということがわかってしまった。


いらないんだ、余計なお世話だ。


貴様の子供として、大人とのコミュニケーションが当たり前な私に、同年代の子供の友達がいると思うなよ。


第一私はガキが嫌いなんだ。


友達なんて、ソルトぐらいしかいなかったんだぞ。


「うっ……」


ソルトのことを考えると、より体が重くなってテーブルに倒れ込む。


つい先程に、メンバー表を見て、その中にソルトと書いてあれば憂鬱にもなろう。


気まずい関係の人間と同じ職場に配置されて嬉しい人間がいようか。


「列車というより、商店街みたいでした」


人生初めての列車に対して感想を述べるマリーさんは両手にカップのアイスクリームを持っている。


差し出された片方のそれを、感謝の言葉と一緒に受け取り、食べ始める。


この列車、オールドトレインは、世界を支える物の一つとして、申し分ない程の設備を持っている。


今いるここは料理を買う場所、そしてそれを食べる場所がある。


フードエリアたるここは、人がごったにとなり埋め尽くされている。


一定以上の距離を移動する道具というのは、この大陸において列車しかない。


オールド管轄で使えた電動の乗り物各種は領土外では使えない物だし、その技術は秘匿されているので密造もできない。


結果的に、どこへ行くにも列車へ乗るしかないのだ。


列車といっても、これもバッテリーで動くのだから、どちらかといえば電車だろう。


見た目は汽車なのにね。









アイスを食べ終わり、そのあとは大金払って買ったであろう、アニマドールが置いてあるスペースへ行った。


数えても十数人程度しかおらず、先ほどまでの公共のエリアと違い、静かに時が流れている。


「何度もチェックしてますけど、暇なんですか?」


何度目かのプログラムチェック、バッテリー残量、予備パーツの残量をチェックし、一息ついたと思ったらこれだ。


やはりというか、この女は、マリーは常々無神経な発言をしてくる。


それは知識の探究心である疑問からくる物で、仕方ないとは思えるのだが、腹は立つ。


しかし、惚れた女性に対し、私は友達がいないんですよ!なんてみっともないことを、言えるわけない。


あと数十分で目的のザーフスタンにつくのだから、我慢である。


だからという訳でもないが、パソコンの使い方をマリーに教えてみることにした。


決して、このままだと無神経な発言が何個も飛んできそう、などとリンクスキルが伝えてきたからではない。


しかし、あいも変わらず、マリーの飲み込みの良さには惚れ惚れする。


英語を高速で読み、理解する。


拙いタイピングで調べ物をする様は、いつまでも見てられそうだ。


「知識を増やして、マリーさんは何をしますか?」


学ぶ意義というのは、この時代でいえば協調性や思考力を身につけるためのもので、いわば再生期に適応した自己のモデルを作る、というのが一般論である。


しかし、目の前の女には、そういったものもない。


義務教育だから仕方なく、そういう捻くれた、よくある考えで学び始めた子供のころの自分とは、随分と違う目をしていた。


「色々ある……とは思いますけど」


目つきはパソコンのキーボードと画面に釘付けで、すでに慣れたように情報を入力していた。


「生きたいからから、だと思います」


「生きたいから?」


「一度、吹雪の中で死にかけて、その時に思ったんです。「私はどうなるのか」と。死にかけなのだから、そのままだと死ぬに決まっているのに。けれど死という概念すら知らなかった、あの時の私はただ疑問に思ったんです」


ほー、と鳴き声をあげ、目線をパソコンからマリーの後頭部に移す。


「その後に拾われて、世界の広さを知って、体験してみたくなったんです」


「世界を?」


「はい。父の家には本は沢山ありましたが、それを読んでも知識としてのみ貯まる。知恵として、経験として知識を昇華させるには、体験することが一番だと」


それは、理解できる話ではある。


知識は知識で、体験は体験として、それぞれ独立したものである。


そしてそれが混ざれば、知恵となる。


例えば、科学の授業は教科書を読めばわかることを、わざわざ実験という実習で知恵を身につけさせようとする。科学の授業などそれだろう。


論理的な知識と、具体的な体験に基づいた思考の果てが、知恵である。


が、生きるだけなら知識だけでいいのだ。


ならばこそ、知恵を欲する理由にこそ、彼女の根源があるのだろう。


「私は人として、人間として自由に生きたいんです。知恵は、そのための力です。だから学んで、知恵ある人間として、胸を張って生きてみたいのです」


「なるほど」


終わりました、そう言ってくる目と共に振り返ったマリーを、しばし瞬きをせず見つめる。


酷く、嫌になるぐらい綺麗な瞳だ。


その瞳には、燻んだ、濁った目をした自分が写っているのが、嫌になる。


この人は、強い人だ。


何事にも挫けず、何者にも翻弄されず、自分で道を選ぶことができるのだろう。


それに比べ自分はどうだ?


流されるまま生きて、大事なことはなし崩しで選ぶしかなくて、結果的に女を怒らせ、やりたくもないのに人の上に立っている。


自由とは、自分で選び選択すること。


そしてその自由とは、自分のポテンシャルが手に入れるもの。


神童だ、天才だと、そうやって煽てられてきたグラグラの自分より、一人として、確固たる意思があるマリーの方が強いのは、当たり前であった。


急いで、顔を逸らす。


きっと、顔はぐしゃぐしゃで、見るに耐えないだろうから。


悔しくて、情けなくて、自分が嫌になる。


「……どうかしました?」


疑問に思うだろう、こんな勝手に自己嫌悪に陥る奴のことなんて。


「なんでもないですよ。それより、そろそろ降りる準備をしましょうか」


「……はい」


アナウンスが、目的地に着くのを知らせる。


これから、ザーフスタンに降りて、そこで詳しく魔物についての話を聞く。


だから、悔しがってなど、いられない。


仕事に、私情は持ち込めない。


自分より先に、前方を行くマリーの背中が見える。


綺麗で、真っ直ぐで、美しい。


マリーに対して劣情を抱いている。


初めて見たあの日から、今この瞬間まで、ずっと。


あの背中にも。


「クソッ」


なんて、なんて、分不相応な恋と性欲だろうか。


こんなにも、劣っているのに。


あの人と私が、釣り合っている訳ないのに。







南に見える砂漠には、線路のみが続いている。


吹く風は、嫌に暖かい。


日差しは、もっと暖かい。


さらに横にいる男は、鬱陶しい。


「いやーあのミライさんに直々に来ていただけるとは……」


腰を下げ、子供の私に対し下手に出るこの男は、情けない部分だけで言えば、自分の生写しみたいで嫌だった。


結局こいつも私も他人の下でしか行動できないのだ。


この、ザーフスタンの大統領に国を自分達だけで回せるような才能がないのも。


私が、イジョウにいいように扱われるようにしか生きてこれなかったのも。


結局は自意識の低さが導いた物なのだ。


「私の目的は最近現れた魔物の殲滅です。それ以外のことは、一切しません」


どんだけ私に媚びへつらおうが、イジョウは甘くはない。


そう言われると、目の前の丸い男は、顔を歪ませる。


歪ませるのではなく、これがこの男の平常時の顔なのだが、醜くなったのだから歪んでいると言えるのだろう。


日差しを遮る屋根の下、大統領の屋敷のベランダで、向かい合っているこの時間は耐え難いものがある。


「はあ……こちらが、魔物の資料です」


ため息をついてこちらの機嫌を下げてこようとするのは、こいつの癖だ。


何回も、父から贔屓してもらおうとし、棒に振られるこいつを見てきた。


ため息を繰り返すコイツを見てきた。


今見ると、思う。


(死んだ方が世のためじゃないのか?こいつは)


(私もコイツも、大した人間じゃないのだから、死んだ方が、地球のためなのではないか?)








日差しを防ぐための帽子を深く被り、魔物の情報を思い出す。


昆虫型の魔物が数台、何日かに一度、昼頃に襲ってくる。


リーダー格は蠍型の奴で、背後の針の部分が蛇のようになっている、キメラタイプ。


夜になれば、砂漠の方へ逃げてしまう。


聞けば、途中で霧のように消えて見失ってしまうらしい。


日陰の元、ただ佇みながら、街中を見つめる。


私のために特別に用意された個室は、人の姿が見えず、静かな物だ。


だから、こちらに向かう足音は、嫌でも聞こえてきたのだ。


その方へ目を向けると、青年が、いるのだろうとリンクスキルは伝える。


ノックのあと、どうぞと言えば扉は静かに開く。


そいつはよく整った身だしなみで、長く水色の髪を丁寧に纏めていた。


きている服は制服、この国防衛隊──非公式のアニマドール運営隊──の物で、シワが少ない。


靴はこの砂漠の国では逆に目立つ、綺麗な輝きを持っていた。


育ちのいい好青年、見かけだけで、そこまでわかるぐらいには、ルックスというのは重要な要素である。


恐らくはちゃんとした親のもとに生まれ、義務教育を受ける中で精神的に成長し、それにあった礼儀作法も身につけたのだろう。


すり減った様子が一切ない靴、チラリと見えたブランド物の腕時計が似合っている。


「アセラント、ガーニーさんですね」


先にこちらが口を開けば、彼は驚いたように。


「知っていられましたか」


という。


彼は援軍として、オールド管轄に手を貸してくれる予定の人である。


非公式といえど、この混迷を辿る再生期にとって軍隊は軍隊である。


だから、組織として機能するためのデータは存在するし、提出を求めれば大統領から貰うことができた。


「ええ。才能溢れる、英気ある、そう皆様方がおっしゃられてました」


お辞儀をして見せれば、彼は困惑する。


困惑というより、戸惑いだが。


やはりというしかないのだが、私は子供である。


誰から見ても子供の私が、礼儀を尽くすのは、違和感ある物らしい。


しかし大人の、理性的なコミュニケーションに触れ合うしかなかった私にとっては、これしか出来ないのだ。


「で、なにか用ですか?そちらの部隊の挨拶にはもう行きましたが」


「いえ、そういった堅苦しいことで無く、ただお話ができればいいと」


「お話?」


ベランダの私に向き合うように、私の目の前にある椅子に座る。


日差しのもと向かい合えば、身長差が露骨にわかる。


といっても、身長差は殆ど、精々1、2センチぐらいしかないが。


「ほら、アニマドールの部隊って、若い人少ないじゃないですか。だから、歳が近い人が珍しいんです」


それはそうだ。


アニマドールの所持が正式に認められているオールド管轄ならまだしも、この人の所属は非公式のもの、汚れ仕事みたいなものである。


だから地位の無い、金のない人間がやるか、その逆の地位の高い、国から信用されてる人間がやるものだ。


それは咎められても、犯罪といい有耶無耶にするか、全員で口裏を合わせ無かったことにするためである。


そもそも再生期で、命をかける仕事をする必要がないのだから、若い人はなおいない。


「ただの興味本位ですよ。貴方だって、天才とか言われてきたのでしょう?」


そして数少ない若者の中、ミライ隊の中でわざわざ私を探したのは、そういう理由だから、シンパシーを感じたから。


「別に私はそんな大層なものでもないですけどね」


「そんな謙遜しなくても」


謙遜ではない、本心だ。


私など、結局は大した人間ではない。


上っ面だけの、表面上だけの人間なんだよ。


だからソルトを泣かせたんだ。


「それでですね、聞きたいことが沢山ありまして、例えばオールド管轄の景色とか……」


この男は、やはり知恵ある奴だ。


話が上手く、人を不快にさせない。


そして真っ直ぐな心で生きているのが、目でわかる。


話す気など毛頭なかったが、その真っ直ぐさに、知恵に対し少しでも報いるために此方も話をすることにした。


マリーさんのようなものを、この人から感じる。


まっすぐなその姿勢が、あの綺麗な瞳と同じものを持つのだと、理解する。


そして尚更、マリーへの憧れを高める。


面倒なしがらみなく、ただ今のために楽しい話をするこの時間は、久しく味わうことのなかった物のように思える。


仕事でよくあることに対し、互いに愚痴を言い合っている最中、各所に設置された放送用の機械から優しいメロディーが流れる。


「これは昼のチャイムですよ。いい曲でしょう?」


その言葉に対し、真摯に頷く。


「ただ、悲しすぎる気もしますけどね」


そのリズムは、優しく、ゆっくりと、まるで鎮魂歌のように、人の心を宥める。


「魂の帰り歌っていうのの、アレンジです」


「ああ、国歌の」


なれば納得いく。


これはまさしく鎮魂歌、魂を宥めるレクイエムであった。


再生期の前、つまり核とアニマドールの戦争の中で、一番多く歌われた歌が、魂の帰り歌だ。


それは最初の戦場がこの場所だからなのか、ここで暮らしていた文化が流れたのか、理由は分かり用もないが、この歌は戒めようなものなのだろう。


メロディーに体を預け、綺麗な空と街並みを眺めていると、この場に似合わない爆音が鳴り響く。


「魔物か!」


いち早く原因を察知したアセラントは、街に向かい一目散に駆ける。


「アセラントは住民の避難を!わたしはアニマドールで足止めをします」


「はい!」







列車の後方、アニマドールを格納させてもらっているスペースへ走る。


「隊長!いつでも行けます!」


若者の比率が高い整備士達は、既に準備を終えてくれている。


(流石に優秀!)


フォックスドールのコックピットに入り込み、スターターを起動する。


「オープン回線で聞こえるな!直ちに発進出来るのは何名か!」


「五人です!」


「ならその五人は私の後についてこい!遅れたやつはここの防衛を任せろ!」


列車の巨大なコンテナ、その側面が開き、日差しが内部へ入り込む。


「発射カタパルトオーケー!タイミングは其方に!」


「ミライ、フォックスドール、出る!」


加速を加え、鉄人形は発射された。


「クリーンシステム起動!望遠モニタで……」


敵の位置を把握!データ通り蠍型のキメラとその他大勢!


「後続の奴らもついてきている、ならば叩く!」


街から少し離れた砂漠、あそこに敵の拠点があり、攻めてくる。


「各機遠くから奴らを攻撃しろ!」


街と魔物達のちょうど間、そこに立った鉄人形は、手に持った武器で攻撃を始める。


標準的性能のライフルは、当たれば魔物の命を散らす。


「隊長!増援はあと二分で来るそうです!」


が、五機というのは少なすぎた。


数のダンチが、敵の進行を許す。


ならば、


「私は敵陣に突撃して数を減らす。取りこぼしたのは頼んだ!」


「無茶ですってそれは!」


「飛んじゃったー!?」


部下の言葉に耳を貸さず、フォックスドールは飛び立った。


クリーンファイアシステムは、瞬く間に敵陣との距離を積める。


「お前らはー!」


両腕を使い、魔物どもをちぎっては投げ飛ばす!


「リンクスキルで未来演算!AIで細かい操作の補助!」


大勢の魔物の攻撃をすり抜け、確実に一体一体を殺していく。


「リンクスキルが伝える痛みは我慢できる!なら!」


タッチパネルを操作し、こう叫ぶ。


「リミッター解除……!オービタルシステム起動!」


目の前にいた敵が消えたのに、魔物どもは驚いたであろう。


さらに、周りの仲間が一瞬で殺されれば、より動揺を見せよう。


「ぐっ……この対G性能でもキツいのか!」


音速、いや光速に近いのか、フォックスドールの姿は周りの目に止まることはない。


巨大な質量が高速で動くことにより発生する衝撃波は魔物共を吹き飛ばし、音速を超えたエネルギーソードの斬撃は当たれば綺麗に部位と体を切り離す。


「あと二秒!」


我関せずという様子で歩く、リーダーを視界の中央に捉える。


「蠍ごとき!」


緑の衝撃波──フォックスドールの余剰エネルギーが放つ光が波に乗って作り出されるもの──は、砂漠を巻き上げる。


「死にたくないだろ!帰れよー!」


精密機械で作られた拳によるパンチは、硬い装甲を易々と貫き、巨大な蠍を吹き飛ばした。


「各員、状況は!」


「増援がそろそろ来ます!あっ!?」


「どうした!?」


「リーダー格の蠍が逃げてます!」


「本当か!」


蠍の方を向けば、瀕死の様子で、地を這っている。


それに追ずるように、他の魔物も一目散に砂漠方面へ駆ける。


まるで増援を察知したかのように、嫌にタイミングがよかった。


(砂漠の方へ……!いけるか!?いけない!オーバーロードしたせいで機体にガタが来ている!)


それでも、機体を動かす。


エネルギーソードを構え射撃体勢へ。


「安定しない!」


放ったエネルギー弾は、外れるか掠めるかで大した意味をなさない。


砂漠へ、柔らかい土地へは、後一歩というところで。


(この情景……リンクスキルか!)


射撃は諦め、手元のモニターを高速で操作する。


(望遠モニタと、録画機能を使えば!)


蠍が、魔物達が砂漠へ足を踏み入れた瞬間、巨大な砂埃が舞う。


そして、砂埃が治れば、その場には何も残っていなかった。


「録画!ズームして、精密化!」


その一部始終を撮った映像を凝視し、彼らがどこへ向かったのかを知る。


(柔らかい砂の中に潜ったのはわかる。けれど熱反応や生体反応に、魔物の様子は……)


「そうか、そういうことなのか」


「どうかしました?」


「いや、うん。取り敢えず増援の人と取りこぼしがないかチェックして、帰ろう」


こういうことをあと何回やるのだろうか。


何十も繰り返して、世界を一周するのだろうか。


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