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リンクスキルが目覚める音

太古より伝わる伝説の生物を模したものが大地に立つ。


この炎の海に立つそれは、まさしく人類の希望。


だからなのか、ミライは至って冷静で、客観的に今の状況を見極めている。


そしてそれに対し、唸り声と共に、暗闇の中きら現れた魔物の群勢は、人類の敵と呼ぶに相応しい。


怯えているのは、このアニマドールの威光に耐えられないからだろう。


「エネルギーソードとシールドなら!」


腰に装着された、標準装備された、透き通ったクリアなパーツが大部分を締めるシールド。


そしてフォックスドールシンギュラリティ、それが持つポテンシャルたる膨大なエネルギーそのものを実体化、つまり持ち手だけだったモノに、片刃の実体を生やして握られているのが、エネルギーソードなのだ。


右腕のエネルギーソード、それに警戒するように迫り来る、魔物の群れ。


その中の一匹がこちらに向かい飛び跳ねる。


「迂闊なっ!」


右腕を大きく振り上げ、左右真っ二つに切り裂く。


綺麗な断面図から噴き出す血は、暗いせいでよく見えなかった。


続け様、このアニマドールの各部に装備されたクリーンファイア機構、それにより驚異的な加速を掛け、瞬く間に魔物の群れを切り裂く。


翼が生えた魔物も、牙が鋭い魔物も、なんであろうとなす術なく、フォックスドールに切り裂かれる。


一体、二体、十、百!!!!


戦火を駆けろ!炎を突っ切れ!敵を切り裂け!


「最後!」


エネルギーソードの刃部分のロックを解除する。


刃は地面に落ちたあと、緑の粒子となって消える。


そして、エネルギーソードの持ち手、見る角度を変えると銃にも見えるそれには、引き金がついている。


その引き金を引けば、光の玉が目の前の、亀に触手を生やしたような魔物は、チリ一つ残らなかった。


「マニュアル通りか、それ以上に強力な兵装だ、これは」


初陣。それにしてはアッサリと、なんの気持ちも湧かない。


立ち並ぶ死体に対して、何も思やしない。


そうして、虚無と一緒に数秒間、空を見上げる。


星空が、よく綺麗だと思う。







「Danger Southeast」と太字のフォントで書かれた電子文字を見つめるまで、なにもする気が起きなかった。


だから、音速越えで突撃してきたモノを防げたのは、奇跡的だった。


それが反射、本能によるものか、この機体の特性たるものかは、わからない。


「狐の、魔物!」


半人半魚。


いや、半狐半機械。


大きなキツネが、二問の大砲を背負っている。


「煙を見れば、アレから撃たれたものだというのはわかるが……魔物なのか?アレは」


生物の範疇を超えた、機械の身体を持った四足歩行の狐は、第二射を放つ。


「シールド!」


光の線が、巨大な大砲、キャノンから発射される。


その熱が、周囲のモノを溶かし、その威力が、残ったモノを吹き飛ばす。


かくして、平らな地面だけが残ることになった。


いや、その元凶の狐と、それを受け止めたフォックスドールも残っていた。


「防いで見せたのには関心するけど、こうも街に被害が出ると」


やるせない、そう感じた。


今の攻撃に巻き込まれた人の怨嗟の叫びが聞こえてくるかのように、頭には人の声とおぼしきモノが絶えず響く。


その声、その音に対し苦虫を噛み潰したような顔をする。


だから、一瞬、ほんの少しだけ、巨大な質量と共に突っ込んできた狐に対しての反応が、遅れてしまった。


「たい、あたりっ!」


しかも、その狐の背中には、二門のキャノンがある。


「だああぁっっつ!!!」


叫んでどうにかなるわけでもないが、気合いは入る。


その勢い任せの操作により、フォックスドールは、巨大な狐を掴んで地面に叩きつけた。


そして、足を大きく動かし、サッカーをするように、蹴り飛ばす!


暗闇を無視できるモニターは、ハッキリとキツネがダウンしたのを見た。


鉄の塊をつけた狐が吹き飛んだ後は、周囲のチェックをする。


「死にたくはないものな」


だから、自身の周囲、次にこの街の安全を確認できた時には、安堵の息が出てきた。


撤退命令というのも、メッセージから飛んできた。


「終わった……のなら、」


フォックスドールの股間部分、コックピットから出て周囲を観察する。


自然と、いつのまにか消えた炎のせいで、周囲は暗い。


「私は、機械人形で、命を殺したんだよな」


確かめるように呟いて、夜道を歩く。


殺した死体、さっきまでフォックスドールの中で見下ろしたものを、見上げる。


「死にたくなかったはずなのに……殺した……」


手は汚れていない。綺麗だ、白く、よく綺麗な肌と揶揄される色だ。


「攻めてきたのはそっちだ、死体がグロテスク的と感じているわけでもない、そもそもこれは人じゃない」


だから、何も思うことはないのに。


なぜか、震えが止まらない。

呼吸は荒くなる。

悪寒が耐え難い。


「相手の思うこと感じることが……ダイレクトに伝わってくるようなこの感触は、なんだ?」


わかるわけもない自問自答。


それを続け、少しでもこのゾワゾワとする感情を紛らわす、早く歩いて、気を紛らわす。


周りにも、なにかそういうことができそうなものがないものかと、見渡すと、遠くにベージュ色の塊が見えた。


あれは、人形のフォルムをしている。


そちらへ向かうと、段々と、はっきりと、そのビジュアルは見えてきた。


暗闇に対し、目が慣れたわけでもない。あたりは暗いままなのに、その人だけ、やけに明るく見えた。


長い髪、ロングヘアとかいうのに、


「アレは、裸……だよな」


一糸纏わぬ裸体。


それが目前、つまり相手もコチラを認識できる距離へと近づいた時、ミライは、その瓦礫の上から見下ろしてくるその女性を、見つめることしかできなかった。


なんというか、芸術的だ、後にしてみても、こうとしか言いようがなかった。


ミロのヴィーナスのように完璧なバランスの体。

青い、透き通って、瞳の奥には自分が反射されるほどに綺麗で、吸い込まれる目をしている。

さらに、整った顔立ちと、メリーベリーハニーの香りを纏った、艶のある長い髪。


その、恐らく年上の女性であろうモノに対して、ミライ・クラシックは一目惚れしたのだった。






そしてその後、その女性をフォックスドールで抱え、一緒に帰ったのが昨日の出来事である。


が、しかし女性の顔は今さっきのように、つまり鮮明にハッキリと、脳裏に焼きつき離れない。


「アレはなんだ……?」


コレが恋と呼べるのは、とうにわかってはいるが、あの人が何故あんな場所にいたのかは、わかりはしない。


聞けば、あの後事情聴取を受けたと言うが、その後は知らない。


しかし脳は、アレを敵だと告げている。


長い廊下、朝日が登り始めてまもないせいか、ボーッと、意識ははっきりとしない。


だけれど、向かい側から来た人が険しい顔つき、少なくとも眠気がない顔をして歩くのを見て、これは眠気ではないと判断する。


「恋でもして、浮かれているんだ」


朝日が影と光をはっきりとわけ、廊下の装飾をハッキリと照らす。


あの後は、よく寝れたのだから、眠気はないのだ、と判断して歩みを早くする。


赤いカーペット、等間隔で配置された種類の多い花瓶、横から見える、崩壊した街並み。


目的の部屋、他の部屋のドアに比べ、一回り大きく自分を待ち構える扉の前に着く。


横にある端末にカードキーをスキャンし、一秒後に自動で、扉が開く。


(見た目は木製なのが、信じられないよな)


中には電子機器が詰め込まれているドアを眺めつつ「失礼します」中へと進む。


「ああ、来たか。朝早くからすまんな」


椅子に座って、朝食でもとっていたのか、空の皿が二、三枚机の上に残っている。


父親である、イジョウ・クラシックがそこにいる。


彼は席を立ち、コチラに近づき、


「昨日貴様が見つけたあの女、アレについて知っていることはあるか?」


本題、自分をここに読んだ理由を話しつつソファーに座った。


「いえ、魔物を殲滅したあと、偶然見つけました」


「そうか」


「その人は、今どこにいるんですか?」


「それは教えられないな」


「何故です?」


「その様子だと、あの女と話したいのだろうが、あいにく犯罪者と貴様を合わせるほどの余裕はない」


「犯罪者ァ?」


「そうだ。それより、貴様にはこの国を守ってもらう」


下から見上げてくる瞳は、あの日、自分を拾った時と同じ目をしていた。


「私を利用して、何をする気なんですか」


父親の向かい側にあるソファーに座る。


机を挟んで向き合う形で、しばらく見つめ合う。


しばらく経った後、向こうから口を開いた。


「昨日の出来事で、この街は崩壊した。そしてこの事は、これから世界中に伝わるだろう」


(わかってて崩壊させたくせに)


論文を発表するように淡々と言う。この男は、焦りを微塵も感じていないし、ましてや死んだ人を追悼するなど考えもしないだろう。


「この再生期の時代、二千年続いてきたのはオールド管轄の独裁的な政治で、法を守らせ、人類に産業革命を起こさせないことで、続けさせてきた」


それは、ひどく当たり前の話だった。


行き過ぎた技術が地球を滅ぼすのなら、法で持ってそれを止める、それが理由でオールド管轄は作られたのだから。


「各国はこの機に乗じて、ここを攻めてくるだろう。だから、貴様にはフォックスドールを用いてここを守ってもらう」


「他のアニマドールは?アレが私にしか動かせないモノにしても、他の奴らに守らせるなどなさればよろしいではないですか」


「今は整備中が殆どだ。強いて言うなら、解析中のが一体ある。貴様がピンチになればそれを向かわせる」


「本当に、攻めてくると言えますか?オールド管轄に手を出せば、バチが当たりますよ?」


本音を言えば、これ以上この男の思い通りになるのは、嫌である。


だから適当な理由をつけようとするし、こう言う時だけは頭の回転は早まる。


「なら、あの女も死ぬな」


「なっ……」


コイツは、人質を取るのか!?


コイツに何の目的があるのかは知らないが、人質を取るのは、下衆の極みと言えるのではないか?


「貴方は、何なんですよ!何がしたいんですよ!」


気付けば、気持ちのまま、男の胸ぐらを掴んでいた。


「昨日何人死んだか分かりますか!?どうやってなくなったから分かりますか!?貴方は、人殺しだ!自身の目的のために人を利用する!忌むべき悪だ!」


「ああ!そうさ!」


しかし、子供と大人。体格差は埋められもせん。


胸ぐらを、掴み返され、そのまま投げられる。


壁にぶつかる直前で、壁に両足をついて、垂直近い目線で見上げる。


やけに冷たい、暗い目だ。


希望も、光も、そこには、何もなかった。


「貴様が何と言おうが、起きた事実は変えられないし、私が人類の頂点的存在であることも、貴様がこの国の、残った民を守るしかないのは、変えられやしないさ!」


私に運動神経があるから、投げ飛ばしたのではない、子供だろうと赤ん坊だろうと投げ飛ばすのだ、コイツは。





「そう言われて、飲み込むしかなかったんだ」


ソルトは、ことの顛末を聴き、そのように答えた。


「ああ、守らなきゃ、いけないしね」


今は、昨日と変わらないコックピットの中に、二人きりで話していた。


「あの人は、私を利用して、何かしようとしている」


そして、それがろくでないことなのは、もっとわかっている。


「なら、一緒に逃げない?このまま、この機械人形に乗って、どこまでも行くっていうのも、いいと思うけど」


「それは、できないよ」


「どうして?」


「惚れた人が、まだここにいるんだ」


あの、綺麗な顔のことを考えると、それだけで胸がいっぱいになる。


これが、恋というモノなのだろう。


「へぇ……」


興味もなさそうに、ソルトは呟く。


「その人が、どんな人かなんて、わからないでしょ?」


「そんなこと言ったら、私は、誰とも関われないよ……」


どんどんと、不安が心を沈めていく。


恋に浮かれて、私は死んだりしないよな?


一昨日までは、普通に過ごしていた日常が、こんなに遠くなるとは思いもしなかった。


ただ、先が見えないことだけが不安になる。


「貴方には、私だけいればいいのに」


だから、ソルトの呟きすら見逃したのだ。


「ねえ、」


目前に、ソルトの顔がある。


気付けば、彼女は自分の膝の上に座っていた。


「戦うの、怖くないの?」


「怖いよ。これから、人殺しになるかと思うと」


そうやって、震えた手を見せる。


でも、作り笑いは、出来ていた。


僕の心は、果たして平穏なのだろうか?


「生きて帰ってきてね」


「うん」


そういい残し、コックピットから出ていくソルトを見送ると、待っていたという感じに警報が鳴り響く。


「十二時の方向よりアニマドール十機!」


「ミライ!発進できるならさっさとしろ!」


「はい!」


発射カタパルトから発進し、フォックスドールは空を駆ける。


「センサーで敵の位置は互いにわかるはずだから……不意打ちは通用しない……!」


腰にある、エネルギーソードを両手に持つ。


「センサーの数は、増えているし……方向はバラバラだ!本当に他国が覇権を狙っている!オールド管轄にトドメを指した実績を求めている!」


それが、単純で明快な、次の覇者を決める証であるのは、この時代の人間にはわかっていたことであった。


「ミライクラシック!五分間守れと総司令から指示が出た!やってもらうぞ!」


「分かりましたよ!」


やるしか、ない。


フォックスドールのスラスターを解放、各部にある、緑色の宝石のように、煌めく物が光を纏う。


クリーンファイアシステムにより、フォックスドールは、音速すら超え、空を駆ける。


「殺せとは、言われていない」


コックピットのモニター、アニマドールが見せてくれる景色から、一機のアニマドールをロックする。


鳥型で、音速以下にせよ、かなりの速さでコチラに迫り来るのが3機。そのうちの一体をロックしている。


両手にあるエネルギーソードから、光の玉が発射され、鳥の両翼をもぐ。


「爆発は、させていない」


確かめるように呟き、確かめるために地面に落ちるアニマドールを見つめる。


地面に潜るように落ちたそれは、ただ黙っている。


あれなら、生きているだろうと計算と、あれは、生きているという直感を信じて、前を向く。


同じように、エネルギーソードを使い残りの2機を落とす。


「一番近いのは落とした!だから他のを狙いに行く!」


鳥型の機械人形から、人が出てくるのを見て、安心できたから、まだ戦える。





「隊長!速すぎて狙えません!」


「バカ!打ってりゃ当たる!」


「当たっても効いていません!」


「何だと!」


十機のアニマドール、陸に住む生命をモチーフにしたモノで構成された部隊は、一騎のフォックスドールに壊滅寸前まで追い込まれていた。


「聞こえていますよね!?壊滅しているんだから、撤退してください!」


「子供の声!?これはあの狐人形から聞こえてきているぞ!」


「戦う理由がないじゃないですか!手を引いてくださいよ!」


「子供だろうと……殺すのが戦争だと見聞きした!」


隊長であろう者が、カメ型のアニマドールと共にミライクラシックを潰そうと、右手のハンマーを振り上げる。


「あなた方はあっ!!」


が、振り下ろすより早く、フォックスドールにより腕を斬られていた。


いや、正確には蹴り上げられ、腕を破壊された、そう言うのが正しいのだろうが。


「早すぎる蹴りは、金属を切れるのか………!」


蹴りというには、速すぎた。








「あと二分!」


部隊を壊滅させ、また別の部隊を壊滅させ、ノンストップで敵を撃破する。


フルスロットルで動かしても、エネルギー切れしないのはこの機体の性能を物語っている。


「魔物の反応!?」


コックピットにある、丸いモニターに描かれたマップから、赤い点がポンと出る。


つまり、突発的な出現だ。


残りわずか、残った部隊を叩くだけのタイミングで出てきたのなら、つまり疲弊した所を叩こうという魂胆が見えてくる。


「論文で見た通りの知能はあるのか、偶然か」


疑問を口に出せば気は紛れる。


「残った部隊と魔物を相手にするにはどうする……!?」


モニターのマップから見るに、部隊を殲滅させて魔物を倒すのが安全、なのだけれども、比較的というだけで危険には変わりない。


「こうか!」


だから、論理的ではない直感に頼りアニマドールを動かした。


「どちらも一箇所に纏めれば、リターンも大きく成る!」


掴んで投げ、次の相手のところへ移動しまた投げる。


まさに神速と呼べるスピードは、三十の秒を持ってして、草原の中心に巨大な獣と人形をかき集めた。


「アニマドールは三機、魔物は二体、いける!この機械人形の性能なら!」


少年は進む、人を守るため。


人が死ぬより酷いことはないと、そう教育された自分を、この再生期の世界を鵜呑みにして、ことを進める。


だからフォックスドールは空を飛ぶ、太陽を背に、人殺しの魔物共を、覇権を握らんとする自己利益の追求を行う人間共を。


自身の敵を殺すため、五体の獣はフォックスを狙う、が。


一機、右手に持ったエネルギーソードで打ち倒される。


一体、首を刎ね、命動かすエネルギたる血を放出させる。


一機、コックピットをエネルギーソードの射撃機能で消し飛ばす。


一機、恐れを成して此方を見上げるだけの人形、それのコックピット、人がいる場所を踏み潰した。


「残り一匹」


そして、残り一分。


一瞬にして四個の獣を対処したのは見事と言えばそうではある。


が、彼は、自分が人を殺した、無抵抗の人間を殺したなどとは、微塵も理解していなかった。


「残り一匹を殺せば!」


自分、いまフォックスドールを無視しオールド管轄へ向かう狐型の背中に、狙いを定める。


「補正はAIがやってくれる!」


だから、打てば当たるのだ。引き金を引けば、命は殺せる。


そう、考えてしまった。


考えたのなら、思考は発展し、真実を突きつける。


帰納法が示したのは、背後にある死体を自分が作り出したこと。


血潮が噴き出す首のない獣。


鉄が焼ける匂いだけする、鉄人形。


(今ここで打てば、あの草原を駆ける命は、赤く地面を染めるか、土もろとも焼けて消えてしまうのではないか?)


それを自分に置き換え、出た結論は。


「そんなの、いやだ」


誰だって死にたくない。だから人を守るため、機械人形を動かしている。


「なのに、私は、人殺しを……?」


思考が、意識が、戦場を離れ動き始める。


「ミライ・クラシック!何をしている!」


誰でもない声は、少年を戦場に引き戻す。


そして、無意識で銃の引き金を引いた。


思考を読み取り動くアニマドールが、引き金を引かせた。


そこから、少年には、視界がやけに遅く見えた。


光の弾丸、熱と質量を持ったそれが、進む。


   獣の皮膚を焼く


     人の叫び声に近しい雄叫びがした


 皮がやけ、光によって消えていく


        赤々とした内臓が見えた


 胴体が消え、手足と頭だけに


            与えられた熱が体を膨張させ、残った部位を破裂させた


               最後に瞳は此方を見ていた


  苦しそうだった、かわいそうだった


 なにも、のこらなかった。


そして少年は、それを、一瞬にして味わった。


その苦しみ、痛み、虚無が体に駆け巡る。


体に異常はないのに、全身が焼けるように暑い、痛い、苦しい。


(なんだ……!?なんなんだ……!?これは!)


それは少年が、運命を受け取る器になった理由。


コックピットの中でうずくまり、ただ震える。


少年は、戦争が持つ恐怖に、飲み込まれてしまった。

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