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フォックスドールシンギュラリティ

人類が愚かな戦争で滅んでから何千年と言う時が過ぎた。


正確には滅んだわけではなく、幾分か残っていたのだが、大半の文明は滅びたので差異はないだろう。


その戦争の中で、かねてもの脅威である核に対抗するための兵器が開発された。


放射線と強い衝撃を防げる特殊金属を元に作られた、二足歩行の機械人形、アニマドールは、百年も続いたとされる、人類最後の戦争の、主な兵器として使われたらしい。


鉄人形の中に乗り込んだ人々同士が命の奪い合いをする。どれだけ技術が進歩しても、それが最後の戦争だとしても、争いの本質は何も変わりはしなかった。


それが戦争を加速させ、結果的には収束へと向かったのだから、戦争を終わらせた道具と言ってもいいだろう。


争いの結末は、地球の8割を焼土に変えたとされる。


結局残った、残された人々は残された技術を基準とし、それ以上の技術の発展、目的としては核などの兵器開発を禁止する法を持った国──正確にはボランティア団体のようなものが、いつか巨大化し国と同じような機能を持ったもの──を立ち上げた。


そうやって、新たな社会を作れるのは人が持つポテンシャルそのものだ。


また戦争を繰り返すより、今の停滞を続けた方がいいと考えたのか、それとも新しい可能性に賭けたのか。


それはどうでもよく、その組み立てた機関、初めは有志のボランティアに近しいものがこの時代には、この地球の統一国家と呼べる物になっていた。


しかし何千年もたって、戦争が御伽話のように語られる、それが美化されたアニメやマンガが造られるのだから、戦争というのは愚かさのない、ファイティングスポーツとして見られるようになってしまうのは、人の死を深く考えずにまた争いを始めたのは、人類がいかに愚かなのかを語っている。


なら人類は永遠に戦争を辞められないのか、そう言われるとノーと言いたくなる。


ただ、今を生きる子供には、争いのない未来を切り開いてくれよと、無責任な言葉を投げかけるだけである。


過去の戦争の遺産、黒歴史とも言えるアニマドールを使って。








太陽が真上にあって、日差しが地面を照らしてくれる。


RPGに出てくるような村の景色の中で、セグウェイや自転車を乗り回す人々は、当たり前の景色として、この時代に残されている。


川の音が流れる、村に囲まれた豊かな村と呼べるような場所で、音が鳴る。


それは、決して小さくなく、誰1人逃すことなく、村の人には響いていた。


森が揺れる。鳥が逃げるように飛ぶ。


その音は、森の中を進む音。


それは大きくなりつつあり。


そしてその正体を村人達は理解した。


「魔物だぁーーーーーーッツ!!!!」


その言葉と共に、村人達は走り出した。


獣は唸り声を上げる。


逃げ惑う人々を見下ろしながら、その巨体を動かす。


そんな中で、一人だけ目立つものがいた。


手に籠を抱えた、一人の女性だ。


(怖い、怖い、怖い)


バラバラに逃げる人混みの中で、座っていた。いや、転んでいた。


四か、五か。自分の何倍も大きな獣がその女を見つめる。


吐息は鼻の先、牙は視界を埋め尽くすぐらい近かった。


その女性は、ただ、目を閉じた。


そしてすぐさま、爆音と共に目を開けた。


森が揺れる。


空から影が降ってきた。


影は鉄の装甲を身にまとい、目が光っている。


二足歩行で、7mもあろうそれは、人の前で後ろを見せていた。


どこか、そう、動物に似ていた。


そしてそれは、獣に立ち向かっていく。


そう、これが日常。どこにでもある、誰にでもある日常なのだから、特別な事などと、そう思わないでほしい。


ただ、この時の機械人形──アニマドール──に乗っていた少年が、この物語の主人公だということだけは、理解していただく。








「アニマドールというのは、太古の遺産からであって、我々が作り出せるものではない。何故だかわかる奴はいるか!」


「はい!」


学校の、教室と呼べそうな場所で、目立たないように黙りこくる人々の、子供の中で、周りより一回り小さな子供が手を上げる。


「なら答えてみろ!」


体育会系の、威勢のいいガタイが声を荒げる。


こんな熱血系は、今の子供に嫌われるのが筋なので、周りの子供は興味もなさそうだ。


「1000年前の大戦で、そのデータ、主に製造に関する物は全て消え去ったからです!」


「さすがミライ生徒、予習もバッチリなようだな」


周りの子供、ミライと呼ばれた子供と、それを見つめる体育会系以外の子供は、ほーんと言った様子で、ぼんやりと聞いている。


「ミライ生徒が言ったように、アニマドールは先の大戦で使われたものが、化石のように発見された物が現在の全てだ。そしてそれのコピー、研究は特別な場合を除いて禁止されている。それは何故か………ミライ生徒!答えてみろ!」


教師は周りを一瞥した後、殆どの生徒から露骨に目を逸らされたので、仕方なく同じ少年に投げかける。


「アニマドールの量産は、人同士の戦争の火種になるものとして、禁止されているからです!」


「そうだ、なら特別な場合とは、どういう場合かわかるよな?」


教師は周りの視線を受け、安堵する。


「諸君らも知っての通り、この学校、そしてそれを含める組織、オールド管轄だけのみ、アニマドールの取り扱いを許可されている。君ら技術科はそれの整備や改造をやるんだから、こんな歴史チックな話は興味ないだろうが、そうしないとテストは大味な物になるんだ、理解しろ」


はーい。そう、全員が声を上げて、鐘がなった。


「クラシック!」


鐘が鳴ってから少し経って、教室に入って来たものがいる。


肩にかかる青髪に、白いシャツを着た女の子だ。


「ソルトか」


さっきミライと呼ばれてた少年がそれに応えた。


一瞬だけ、小さな笑みを浮かべたが、それは誰も見ることはなかった。


「一緒に帰ろうよ」


「今日はこの後試験があるから、だから無理」


荷物を持ったミライは教室のドアに手をかけ、そのまま出る。


ソルトと呼ばれた青髪の少女は、何も言わずについていく。


「試験って、三年生がやるやつでしょ?一年生には関係あるの?」


「ソルトとは同い年だけど、学年が二個違うだろ」


「そっか、そうだったね!」


ああ、ミライはソルトの二個上の学年だったと思い出す。そして納得する。


何歩も歩き、大きなドアを押すと、太陽が出迎えてくれる。


ミライはポケットから小さな、おそらく鍵であろうものを取り出し、綺麗にならんだ機械の一つにに刺す。


その機械とは、我々の言葉で言うなら原付のスクーターが近いしいモノだった。


ラクター置き場、と書かれた看板を通り過ぎると、自分の肩に両手を置いた少女が話しかけてくる。


「ねえ、試験って何するの?」


「アニマドールの整備、それをやるだけさ」


当然のように、背後にはソルトがいる。


離れないように、ギュッとミライの制服を抱きしめて、だが。


石のレンガで整備された道を、二輪のタイヤで進んでいく。


右手には黒い城のような、高い建物が建っている。


自分を抱きしめて、落ちないようにする少女を気に掛けながら、今さっき見た、城みたいな場所へと辿り着く。


城の周りには、6から8メートルぐらいだろうか、人型の、鉄人形と呼べばよさそうなものが、何体も立っていたり、歩いていたりしていた。


踏み潰されないように、遠回りして城に近づいた。


「ああ、ミライさん。こんにちは」


「こんにちは」


黒い帽子をとって、大人の人が挨拶をくれる。


ラクター置き場と、書かれた場所に原付を置いた後、ドアのない入り口へ入った。


中は白いタイルが敷き詰められて、天井にある大きなステンドグラスが様々な光を放っている。


大人が大勢いて、様々な方向へ向かっていく様は駅のホームを思わせた。


首にかけていたカードを使い、改札を開ける。


ベッタリくっついてそばを離れないソルトと一緒に近くにある階段を下る。


朝日で照らされた床は、電気の光で照らされる床になる。


「つきました!」


遠くに見える、スキンヘッドのおじさんに見えるように声を上げる。


「ミライ・クラシック生徒か!30分前に着いたのは流石、とでも言っておこうか」


「ここには毎日来てるので、今更迷いませんよ」


「うむ!本当はすぐに始めたいところだが、一部の生徒が迷っているようだから、少し待てな!」


「はーい」


残りの時間を、待つために、ミライは壁際へと走っていった。


「ねえ、此処ってどこなの?」


さっきまで黙っていたソルトが、話をかける。


「そりゃオールド管轄でしょ」


「そうじゃなくて」


「オールド管轄の、AD整備場」


「えーでぃ?」


「アニマドールを、置く場所ってこと」


「じゃあ、軍の基地なんだ‼︎」


「そ、だからソルトみたいに、みんな初めてここに来るの。学生が迷うのは仕方ないさ」


この城の側に置いてあった、大きな鉄人形が此処にも何体か存在している。


ただ殆どが、皮みたいな、装甲を外して、人形の中身を曝け出している。


そこにはチューブが、何本も繋がっていて、なんらかの液体であろうものを流し込んでいた。


「城の外のとは違うね」


その人形を、一階上から見下ろす形で、見ている二人は、持ってきたパンを食べていた。


「整備するからね。縦だと大変だろ」


「ああ、整備するものね」


全ての人形は、上を向く形で横になっているので、自然と見つめ合う形になってしまう。


「たしかクラシックのもあるんでしょ?どれ?」


「あれ」


「どれ?みんな同じだけど」


ここにある全てが、同じ形をした鉄人形なので、色ぐらいしか違いがない。


「眠ってるやつじゃなくて、起きてる方」


ミライが指さしたのは、ほとんど真横の、つまり整備しない方の鉄人形であり、周りより目立っていた。


「キツネさん?」


フォックスを模した外見をし、美しい艶とフォルムをしたロボットが、ミライのアニマドール、フォックスドールだった。


「ミライ・クラシック!」


スキンヘッドの教官が、側に近づいてくる。


地下で、閉鎖された空間に、何回も大声が反挙するのを聞きながら、腕時計を横目で見る。


左手の針には、先程から十分立ったのを確認できた。


「なんでありましょうか」


「うむ、待ってるのも暇だろうなと思ってな。先に貴様のテストだけ済ませておくか」


「了解しました」


教官殿にありがたさを感じつつ、一階下へと走っていく。


「ガールフレンドはダメだ」


「えっ」


「当たり前だろ」


残念そうにするソルトを横目に、ミライは下へ下っていった。


横向きの鉄人形のそばに来ると、装甲を外してある部分によじ登る。


上で興味津々と言った様子で眺めているソルトを思い、手を動かし始めた。







「ソルト、だったかな」


しばらく、四苦八苦しているミライを眺めていると、横からスキンヘッドが話しかけてくる。


「はい、教官殿」


「私は技術科だけだ、普通科の担任ではない。それより……」


唇が波のようになっているのを見るに、言いにくいことを、言おうとしているのだ。


「その、だな。ミライ生徒は、どうなのだ?」


「どうなのだ?と言われても、私には質問の意図が理解できません」


「そうだな、例えばイジメとかだ」


「イジメ、でありますか」


目を合わせていた教官を見ず、下にいる男の子を見下ろす。


一人で。楽しそうに。機械を弄っている。


そういう顔は、いつまでも眺めていたい。


「はっきりと言うなら、ミライ生徒はこの長い歴史を持つオールド管轄の中でも一と二を争える、それぐらいの天才だ」


まだ見下ろしている少年は、自分と歳が変わらない、16歳なのだと、理解している。


ただ、自分は一年生で、彼は三年生。


その優秀な成績から、二年飛ばすのを許されたらしい。


この調子でいけば、義務教育──この時代では大学まで──を受けずに社会に出るという、特例中の特例を貰える、だとかスキンヘッドは付け加え。


「もう卒業しても、誰も文句はいいやしない。だが、疎ましいと思う奴はいる」


「だから、いじめられていると」


出会った時を思い出す。


彼が入学式で、生徒の代表として、全員の前に立った時をだ。


「そんなこと、ないと思いますけどね」


彼は、殴られたら殴り返すタイプなのだ。


だが、それ以上に人と関わりを持とうとしない。


その理由の一部は、自分が作ったのだが、という言葉は誰にも言わないつもりでいる。


「そうか。彼女である君がいうのなら、間違いはないのだろう」


「別に彼は私のことが好きなわけでもないですけどね」


「む、そうなのか」


「ただ私が一方的に好きなだけです」


「そうか。頑張れよ」


教官は、このガールフレンドが、幾分かだけでも、イジメをなくしているのだと、感じることにした。


あの、綺麗な水色の瞳。


ああ、いつまでも、その集中する時に見せる、真剣な眼差しを私に向けて欲しい。


あの綺麗な顔立ち、細いが詰まった筋肉をした身体、透き通る声、期待されるミライ。


その全て、私のモノにしたい。


そしてしばしの沈黙の後、下から大声がした。


「教官殿ー!終わりましたー!」


「早いな!流石ミライ生徒だ!」


階段に向かう、自分と同じ歳の子を見る。


「天才には、見えないけどな」


私は、彼の外側しか知らないのだから。


外側だけを見て、彼を好きになったというのは、今更思い出す必要もなかった。







さて、アニマドールは強力な兵器であるし、それを持てば全能感なるものが湧いてくるのが人である。


だから暴動まがいのことはよく起きるし、それをアニマドールを持って鎮める。もしくは、そのアニマドールを流した闇商人を裁判にかけるのが、オールド管轄の役割である。


人のおよそ倍以上もある物同士が戦うのだから、それが何日かに一回起きるのだから、人類はまだ戦争を続けていると言えてしまう。


ああ、愚か愚か。






彼は、ミライ・クラシックは天才である。


運動も勉強もできる、才色兼備だ。


そして何より、クラシックという性はそれだけ価値があるものなのだ。


だから、初めは、学校に入って数ヶ月は、自身の将来のおこぼれを貰おうと、女性から色目が降り注ぐのが当たり前ではあった。


幼稚園も保育園も、小学校にも通ったことない、そして両親もいなくなってしまった少年にとっては、人に失望するのには十分だと言えた。


だから同年代の子供とは仲良くなれないし、ましてさらに狡猾さを上げた、と言う偏見を持った大人に対しても、必要以上に心を開かなかった。


強いてあげるなら、その、人に失望する前、中学の入学式で友達になった、ソルトぐらいにしか、心を開けないのであった。


その弱み、情報の無い人間にかける詐欺みたいに、「私と付き合ってることにすれば、少しだけ人から話しかけられなくなる」そういうことを言って、今の仮初のカップルになっている。


だから、彼が誰かにアタックする、今の関係を壊す、ましてや告白するなどと考えないのが、ソルトという少女であった。


──その日の、夜までは。






赤い炎が、夜空を照らす。


その炎は、だんだんと広がり、大きくなり、人の死体を何百体と薪にして、夜空を照らせるほどになったのだ。


さて、戦争が終わらないと言う話をさっきしたのを、覚えているだろうか。


そもそも、何故アニマドールを裏ルートで流すような犯罪者が、そしてそれを買うマヌケがいるのか、と言う話だが。


「グルキャアァァァア!!!!」


狼の遠吠えが、よく響いた。


といっても、その狼は、昔の地球に生息していた狼をそのまま巨大化させたような物である。


その大きさ、実に八メートル!


それがいきなり街に攻撃すれば、石で作った壁は崩れてしまう物である。


「魔物だあぁぁぁぁ!!!」


誰かの叫び声の通り、彼らは魔物である。


近年見られるようになった、巨大な生物。


そしてその巨大な生物には二つの特徴があって、まずは機械を身につけていること。


キャノンにミサイル、レーザーにジェットパック、なんでもござれだ。


そしてもう一つ、人に近い思考。


というよりか、なにか集団的な、社会的な、何か目的があり、行動していると、推測できる点。


魔物は人が集団で住む場所を攻撃し、その後行方をくらます。


だから身を守る為には、条約──本来オールド管轄が独裁という平和を作り出す為に作った──の中の、オールド管轄の許可をもらったもの以外のアニマドール所持の禁止を破ってでもアニマドールを買う必要がある。


これについては、現在のアニマドールの入手方が、地下に埋まった過去のアニマドールを発掘する、その一つしかないことが関係している。


昔の技術が失われた今の時代、一からアニマドールを作るのは不可能だし、なんと細かい内容、そのアニマドール本来の目的──まあ殆どは人殺しの道具なのだが──すらわかってないのが大半なのである。


ダイアモンドが掘れる鉱山なんてものは限りあるが、アニマドールが掘れる場所なんて数えればいとまがないし、数え切れるほどあるのかと疑問も湧いてくる。


なのでアニマドールの仕入れというのは突拍子もなく起こるもので、病気のように起こる時は起こるのだ。


そして、この魔物が蔓延る世界で、アニマドールを持つことを認めているお偉いさんは、民主主義のオールド管轄の中には当然いる。


だって、アニマドールの所持を自由に、何で言って市民から票を集めたのだから。








戦火に、いやこの場合は二次災害とも言えるもの、家の倒壊に巻き込まれたりや魔物に殺されないようにするには、逃げるだけだ。


当然、まだ子供であるミライ・クラシックも人混みに流れるように進んでいる。


(国の奴らは何をしているんだ!?あの巨大が近づいて対処の一つもできないほど、愚かなのか!?)


目の前で繰り広げられる、クワガタをモチーフにしたアニマドールと、翼が生え、尻尾が蛇のように独立し動くライオン型の魔物の交戦。


当然、幾ら戦争がないとはいえ、警察のような軍隊は存在し、その彼らに文句を言っている。


義務教育を受けたのならそれに理由があるというのは、この時代の人間なら誰でもわかることではあるが、文句の一つは言いたいものである。


文句を言うことで、気を紛らわすのは、いつの時代も変わらない。


よく言えば客観的、言い方を変えれば当事者意識のない、その思考が、聞き覚えのある声を鮮明に聞き分けた。


それは、子供の声だった。そして魔物に踏み潰されて無くなった。


たしか、今日の昼頃に公園で遊んでいた子供だった。あの時は笑っていた顔も今は肉片として石の床を汚すゴミ同然になってしまった。


そして爆発──アニマドールのエンジンが、ライオン型の魔物に貫かれて爆発した音──が聞こえてきたのは、ようやく自身が危うい状況の上にいることを、理解させた。


爆発により、一瞬で人が炭になって消えた。


倒れてきたアニマドールの残骸により、血と小さいパーツだけになって人が潰れた。


大勢の人が一瞬で死んだことを理解するのには、今蹂躙されていることを理解できるのには、十分だと、言えてしまう。


そして現在進行形で、新たに現れたもう一体のアニマドール、クワガタをモチーフにした「クワガタン」は、両手に持ったナイフで魔物の首を吹き飛ばし、返しの反撃で地面に倒れ込んだ。


相打ちだ。


少年は、目の前の惨状には目を向けず、その、倒れ込んだアニマドールへ走り出した。


人の血と残骸のレッドカーペットをかけながら、老若男女ありとあらゆる人種の悲鳴のBGMを聞きながら、巨大な鉄人形へ向かう。


外側にある緊急用のボタンを押し、胸部にある、コックピットへ通じる門が開いた。


「大丈夫ですか!?」


外傷から判断し、アニマドールが動かないのはパイロットが怪我を負ったと、判断したのは技術科を専攻していたからで、直感ではない。


ただ、この男はもう直ぐ死ぬと言うのは感覚で理解していたし、自分には手の施しようがないことも、わかっては、いた。


中にいた、打ちどころが悪いせいか、額から血を流す男が、自分に告げる。


「逃げ、ろ」


か細い声が最後の音として、発された。


そのとき、ミライの頭には、目の前の男が見ている景色、走馬灯が映し出されていた。


(まただ!またこれだ!最近起こる、他人の目から景色を見るこの感覚!この男が感じることが、自分の脳に伝わっているような……)


死にたくない、無念な気持ちが嫌と言うほど伝わり、それに対して優しい少年は涙を流してあげることしかできない。


その共感こそが、少年の力なのではあるが、そのせいで少年は、永遠の傷を負うことになってしまった。


それは、後のお話なのだけども。


メンテナンスを行うためなのか、技術科は最低限アニマドールの操縦を習う。


だから今さっきから、こうしてアニマドールを操作し魔物をいなす。


(時間を稼げば、人は逃げれる!)


やはりアニマドールの操縦も天才であるミライクラシックは、既に二体の魔物を倒していた。


生きた通信機能に呼びかけをすると、少年が毛嫌いする、大人の声が聞こえてきた。


「そこにいるのか、ミライ」


父親、といっても血のつながりはない、戸籍上だけの関係。


「イジョウ・クラシック……!!」


四十代は過ぎた、しかし力強さ、若さが持つそれを感じる声は、よく耳に響く。


怪訝そうな顔を浮かべ、音声通話を切ろうとする。


この父親は、このオールド管轄のトップ、つまりはこの地球で一番偉い人間、ということにはなる。


それの息子が、なぜこうもその男を毛嫌いしているのかと言えば、単純に気に入らないからである。


自分の記憶に無い話だが、どこか魔物に滅ぼされた村で、たまたま生き残った自分を見かけ、拾ったと、その嘘のような話をされた時から気に食わなかった。


お偉いさんがなんでそんなところにいるのだとか、拾っても父子関係を結ぶ必要はなく、施設に送ればいいのにだとか、小さな疑いが大きな嘘に思える中学生の子供にとっては、結局怪しい人間としてしか評価できない。


この男は、そういう、信用ならん人間なのだ。


「ちょうどいい。近くにいる部隊と一緒に後退しろ」


そして、一番嫌いなところは、こいつが軍人としても偉いことだった。


軍人が政治をやる。そう言うのは、大体過激な方向に向かうと、歴史の授業で教わっている。


「ああ、そうですか。わかりましたよ」


わざと不機嫌そうに返事をして見せたのは、ミライが子供であることの証拠、自分の本音を隠して社交辞令も言えない、言いたく無い幼稚な部分の表れでもあった。


程なく、損傷したクワガタンがやってきて、それと一緒に後退することになった。


(あの男は、間違いなく自分を利用するつもりでいる。だから今こうして、軍事基地である場所に向かっているんだ!)


そして、なにか、異様で感じたことない物が、そこにあることも直感でわかってしまった。


(このオールド管轄の本拠地であるこの場所が、いきなり魔物に襲撃を受け、それに応戦するアニマドールの部隊だけど、敵の戦力は大きいのか、長引いている。この炎の海は、そうして作られている!)


クワガタンの、昆虫を模したくせに五本もある指の一つに掴まり、少年は運ばれる。


(あの男は、イジョウは、その襲撃、いや、いつかの襲撃に備え、何らかの策を講じている!そのために自分が必要で、今こうして呼び寄せている!)


そのことを理解していても、嫌いな大人に利用されるとしても、少年は逃げるわけにいかなかった。


逃げてどうなる?


この酸素を奪う火の海の中でどうする?


ジャングルよりも脅威蔓延る火の森の中でどうする?


少年は、流れに身を任せるしか、解決策を見出せなかった。


(せめて、その何かが、ソルトを守れるようなものだったら、いいのだけど)


巨大で、そして戦火に包まれていない、この国の中心に近付いていくのと同時に、胸の鼓動が早くなるのを感じた。








忙しなく、絶え間なく、そう言う言葉が似合うAD発射カタパルト。


質量あるアニマドールを高所から射出し、目的地にまで一気に飛ばすための舞台に、ミライ・クラシックはいる。


床に足をつけ、その異様な雰囲気を放つ、恐らくは戦闘機に近いような物を見ていた。


青と白が目立つ、カラーリングだけ言えば軍事基地に対しては派手なカラーでオモチャみたいだと感じる。


「お前には出撃してもらう」


ミライの父親、イジョウはそう、命令した。


血縁はないにしろ、親が子に対して放つ言葉とは、思えない。


(やはり、この男はこのオモチャを使うために、私を使っている!)


予感が確信に変わり、嫌悪感はさらに増す。


しかし逃げるわけにはいかない。


この状況で逃げてどうにかなるわけでもないのは、子供でもわかることだった。


(だけどフォックスドールなら、出来る)


整備士として、アニマドールという兵器を扱うものとして、目の前のオモチャに対し、自分の命を賭けろと言われたら、いい気はしない。


「整備終わりました!いつでも行けます!」


作業着を着た集団が、そう言ってこの場を離れると、イジョウは重い口を開いて、次の命令をする。


「さっさと行ってくれれば、後続も出せるぞ」 


そのまま、こちらの顔色を伺いもせず──といっても分かりきっているだろう──足早に奥にあるアニマドールらしき物、見たことないタイプに向かってしまった。


ミライはこれに対し、特別怒りが湧く、と言うことはなく、取り敢えず出撃しようと思った。


アニマドールは人類最期の戦争に使われたとされる。


そして、最低でも百年は続いたとされる──といっても当時の文献などは殆ど存在せず、推測の域を出ない──戦争の中では、改良、アニマドールの語源に関われば進化という形をとって変化をしていた。


そして大きく戦争の段階を五分割し、その年代ごとに使われていた、とされるアニマドールの世代。


後に作られた物の方が性能は良いのだが、激化したとされる最終戦争の最後、今の戦争を知らぬ幸せ者の人類には想像もできない戦いで、激しく劣化した五世代目のアニマドールは、この今の時代、何千も経った今となっては、現存しないだろうという結論に至っている。


だが、その時代に作られたであろうそれが、今自分の目の前にある。


「この奇跡の遺産を引き継げたのは幸運だけど、こうなって利用されるためにあるのではない!」


技術者としては、マニュアルと整備士を信じて軍人になるしかない。


「コード認証、ミライと判断」


だから、覚悟を決めていたその時に聞こえた機械音声にも八つ当たりを仕掛けてみたくなる。


さあいざ、作業用──といっても弱いからそうなった──アニマドール、ピグゾンが二人係で発射カタパルトにフォックスドールのがわをおく。


「アニマドールが発進します。進路から退避してください。アニマドールが発信します。進路上にいる人は今すぐ、退避してください」


綺麗な女性のアナウンスと同時に、目の前にある、ガレージが開いてみせた。


炎の海は、どこまでも広がる。


「ここまでを、許すのか………」


気持ちをハッキリと声に出せば、自身の手が震えていることに気づいた。


「進路クリア、アニマドール、発射します!」


発射機構により、猛烈的な加速を加え、空に向かって何トンもある巨人が打ち出された。


「続いて、発進どうぞ!」


「FDS、ミライ クラシック、出ます!」


戦闘機の背後、バーニアが炎を吹く。


やるしか、ない。


炎は緑色で、光を放つ粒子がバーニアから大量に吐き出されることにより、炎のように見える。


光のエネルギーをそのまま推力に使う機構「クリーンファイア」により得た力によって、金属の塊は空に向かう。


「ドッキング開始!」


両翼が背後部分に移り、アニマドールの背後、腰の部分に空いた穴へと入り込む。


「コレが、FDS!太古の黒歴史!」


命をともした、心臓というコアが埋め込まれ、本来の機能を取り戻したそのアニマドールの威光たるや、人類の叡智そのもの!


各部に搭載されたクリーンファイアシステムにより、大気圏内、重力化においても飛行を行い!


各部から流れる光の粒子、緑の光は、形を成して一つのシルエットとなる!


「行くしかない……のだよな」


暗闇の夜の空に浮かぶそれは、優しく光る九つの尾を持って、月と共に下界を見下ろしている。


九尾を模して作られし、アニマドール。


その名前はFDS。


フォックスドールシンギュラリティ!

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