93話 Players 03
「ドルとユーロ、どちらもある。現金は全部持って行っていい。
カードだけは、勘弁してくれ」
相手を刺激しないように、小さめの声で言う。
目を逸らさず。
だが決して、動いてはならない。
年1度の『格闘講習』における僕の成績は、下から数えたほうが早いのだ。
・・・それと。
この仕事に就くまで僕自身、勘違いしていたが。
『特務』従事者は、銃の所持を許されていない。
例え一般人による所有が認められている国でも、その国の『許可証』無く持てば、犯罪行為。
発覚した際に、現地の警察や治安当局と面倒な事になるからだ。
・・・とにかく、これは駄目だ。
目の前には、2人組の男。
ドレッドヘアに、銀とターコイズの派手なネックレス。
黄色いTシャツに、サーフボードのプリント。
モスグリーンのカーゴパンツは、七分丈。
・・・もう、アレだ。
ジャマイカ生まれ、ジャマイカ育ち。
やたらにデカい、典型的なジャマイカン。
そして僕は、バスローブ1枚だ。
「おいおい。なんかおかしくねぇか、ブラザー?」
「もしかして俺ら、強盗と間違われてる?」
「───カリブの風に、誘われて」
「───ホテルの鍵を、こじ開ける」
「そんな俺らが、疑われてんのか?」
「滅茶苦茶ヤバい顔した、Little Boyに?」
「油断するなよ、ブラザー。こいつ、相当殺ってるぜ」
「おうよ。目を見りゃ、分かるってもんだ」
(1人も殺ってねーよ!!
殺られかけたことしか、ないんだよ!!)
喉元まで上がってきた言葉を、何とか飲み下し。
スマイルだ。
スマイル・マーカス。
「・・・強盗じゃないなら、どうか部屋から出て行ってくれないか?
勿論、警察に連絡なんかしない。
お互い何もなく、平和的に終わらせようじゃないか」
(1階受付には速攻、抗議するけどなっ!
宿泊代を交渉する材料としてっ!)
「油断するなよ、ブラザー。俺、アニメで見たから知ってる」
「おうよ。俺らが背中向けたら、目からビームを出すんだぜ」
──────。
よし。
限界だ。
限界☆マーカス!
とりあえず、1発叩き込む!
その後にどうなろうが、もう───!!
「おおっと!本気になったら駄目だぜ!」
「HAHAHA!ジョークにはジョークで返してくんなきゃな?」
一瞬で、眼の前からジャマイカンの姿が消え失せ。
左右から両腕を取られていた。
「───地獄の道を、進み行き」
「───買ったアイスを、落っことす」
「俺達キョーダイ、『ギリアム様』のお使いだ!」
「・・・・・・え''・・・?」
「ほれほれ!これ持てよ!」
ぽん、と1冊の本が、僕の胸を叩く。
「『ギリアム様』直筆の魔導書、ときたもんだ!羨ましくて泣けてくらぁ!」
「読んでみようぜ、Boy!ハリー!ハリー!」
手を。
指を掴まれ。
強引にその表紙を、捲らされる。
見せられる。
「・・・う''ッ・・・!!」
「『読め』ってことは、『憶えろ』ってこった!」
「『憶えろ』ってことは、『使いこなせ』ってこった!」
吐き気を堪えるのに、必死なのに。
ジャマイカンAが、ぐりぐり、と僕の頭を『撫でる』。
ジャマイカンBが、ばしばし、と僕の背を『さする』。
そして、2人とも肩を上げ、コキ、と鳴らしてから。
「とりあえず、ピザ頼もうぜ!!あと、ラムコーク!!」
「ヒューーーッ!!ゴキゲンだぜ、ブラザー!!」
「ヘイ、Boy!お前、何飲む?何飲む?」
「・・・み・・・水を・・・」
「何の水割りだ?ウォッカ?」
「Yeah!!こいつぁ、イケる口だぜぇ!!」
───だっ・・・誰かッ!!
───助けてくれえ''え''え''え''え''え''ッ!!!!




