87話 Watch Cat 05
───更に、次の日。
王様は入念に全身を毛繕いして。
首に袋を下げてから、走り出した。
魔界もやっぱり、複数の階層から成り立っていて。
その1つ1つの入り口に、『門番』がいる。
許可の無い者は通れないし、抜け道も無い。
”ネズミ1匹、通さぬ”、なんて良く言うけれど。
そのネズミを捕まえてしまうのが、猫。
ネズミに出来ない事を平然とやってのけるのが、猫なのだ。
『門番』の足元を、風の如く駆け抜け。
他の悪魔達にも、全く気付かれることなく。
長い長い階段を幾つも駆け降りて、評議会にまで侵入。
・・・ついに、その部屋へと辿り着いた。
「───にゃおん・・・」
「うおっ!!」
細く悲しげな王様の鳴き声に、『評議長』が驚き、飛び上がる。
「・・・お前!いったい、どうやってここに!?」
「どうしても頼みたい事があって、来たんだ」
王様は、じっ、と評議長を見つめた後、力無く俯いた。
「お邪魔だったかな?僕、帰ったほうがいいかな?」
「あっ・・・いや!その!
・・・疲れただろうし、ゆっくりしていけ!」
「そうなの?それじゃあ、お言葉に甘えて」
───ごろん、と横になる王様。
───それを、そわそわ、ちらちら、と窺う評議長。
「・・・で?頼みたい事、というのは何だ?」
「うん。僕達『猫』はね、かなり『悪魔』が好きなんだ」
「おおう!それはそれは!」
「もっと仲良くしたいし、遊んだり、甘えたりしたいんだけど・・・」
「・・・だけど?」
「悪魔が使う『魔法』で、痛い事をされたり、嫌な思いをさせられるんじゃないか、って。
それが怖くてみんな、悪魔に近付けないんだ」
「そ!そんな事はせんぞ、絶対に!」
「うんうん。僕もそう信じてるけどね。
一族みんなを安心させる為には、『言葉以外の約束』が必要なんだよ」
「それはいったい、どういう」
「具体的にはね───僕達『猫』に、どれだけ魔法を掛けようと。
それが悪い効果を発する場合は全て、無効化されるように。
『魔導原型核』の基底演算層に、例外として刻印してほしいんだ」
「おっ!おい待て!!
お前・・・そんな事を、どうやって知って───!!」
「捕まえたネズミが、言ってたんだよ。
あいつらは何処にでも潜り込むからね、本当に気を付けたほうがいいよ?」
「ぐ・・・ぐぐぐ・・・」
「それで、どうかな?僕達のお願いは、叶えてもらえるのかな?」
「・・・いや・・・その・・・。
さすがにこれは、儂の一存では・・・『魔王陛下』でないと・・・」
「じゃあ、陛下に『これ』を渡してもらえる?」
王様は首に下げた袋から、折り畳んだ紙を取り出し。
そっと床に置いた。
「それは・・・何だ?」
「嘆願書、だよ。
『子猫達』が、『つたないけれど』『覚えたての文字』で『泣きながら』書いたんだ」
「!!!!!!」
「僕だってこんな事───難しい、って分かってるさ」
王様は、立ち上がり。
ゆっくりと歩みを進めた。
評議長の横、その脚に触れるか、触れないかという距離。
しょんぼりと尻尾を下げて。
「・・・ここへ来るまでに、悪魔達から聞いたんだ。
みんな、言ってたよ。
”評議長は、歴代の中でも一番の、慈愛に満ちた御方だ”
”数々の英断は、魔界の歴史に刻まれ、永遠に語り継がれるだろう”、って。
でも、そのあんたが『駄目』って言うんなら・・・諦めるしかないよね・・・」
「ぐ・・・ぐぐ・・・」
「勿論、タダで、とは言わないさ。
今日一日、これまで一族以外の誰にも触らせてない僕の体。
『好きなだけ、撫でて良い』よ?」
「なぁっ!?そ、それは、本当かっ!?」
「───まずは、お膝に乗るね?」
ぴょん。
「───むほおおおおおぉッ!!!」




