86話 Watch Cat 04
───そして、集合当日。
王様は入念に体を解してから、走り出した。
天界は、複数の階層から成り立っていて。
その1つ1つの入り口に、『守護者』がいる。
許可の無い者は通れないし、抜け道も無い。
”ネズミ1匹、通さぬ”、なんて良く言うけれど。
そのネズミを捕まえてしまうのが、猫。
ネズミに出来ない事を平然とやってのけるのが、猫なのだ。
『守護者』の足元を、風の如く駆け抜け。
他の天使達にも、全く気付かれることなく。
長い長い階段を幾つも駆け上がり、天界中央局にまで侵入。
・・・ついに、その部屋へと辿り着いた。
「にゃあ」
「うわっ!!」
紳士的に挨拶した王様に、『大天使長』が驚き、飛び上がる。
「・・・お前!いったい、どうやってここに!?」
「ちょっと頼みたい事があって、来たんだけどね」
王様は首を傾げ、上目遣い。
「ごめんね。僕、帰ったほうがいいかな?」
「あっ・・・いや!その!
・・・疲れただろうし、ゆっくりしていきなさい!」
「そうかい?それじゃあ、お言葉に甘えて」
───ごろん、と横になる王様。
───それを、そわそわ、ちらちら、と窺う大天使長。
「・・・で?頼みたい事、というのは何かね?」
「うん。僕達『猫』はね、かなり『天使』が好きなんだ」
「ほほう!それはそれは!」
「もっと仲良くしたいし、遊んだり、甘えたりしたいんだけど・・・」
「・・・だけど?」
「ほんの少しのイタズラや気紛れを、『罪』として数えられるんじゃないか、って。
それが怖くてみんな、天使に近付けないんだ」
「そ!そんな事はしないぞ、絶対に!」
「うんうん。僕もそう信じてるけどね。
一族みんなを安心させる為には、『言葉以外の約束』が必要なんだよ」
「それはいったい、どういう」
「具体的にはね───僕達『猫』が何をしようと、その結果どうなろうと。
『転生痕』に、何も書き加えずに。
そのままで『大霊書庫』に送ってほしいんだ」
「ちょっ!ちょっと待て!!
お前・・・そんな事を、どうやって知って───!!」
「捕まえたネズミが、言ってたんだよ。
あいつらは何処にでも潜り込むからね、本当に気を付けたほうがいいよ?」
「む・・・むむむ・・・」
「それで、どうなんだい?僕達のお願いは、叶えてもらえるのかな?」
「・・・いや・・・その・・・。
さすがにこれは、私の一存では・・・『御神』でないと・・・」
「じゃあ、神様に頼んでもらえる?」
「うーーむ・・・うむむ・・・」
「僕だってこんな事───難しい、って分かってるさ」
王様は、立ち上がり。
ゆっくりと歩みを進めた。
大天使長の横、その脚に触れるか、触れないかという距離。
悲しげに尻尾を下げて。
「・・・ここへ来るまでに、天使達から聞いたんだ。
みんな、言ってたよ。
”大天使長は、歴代の中でも一番の、慈愛に満ちた御方だ”
”数々の英断は、天界の歴史に刻まれ、永遠に語り継がれるだろう”、って。
でも、そのあんたが『駄目』って言うんなら・・・諦めるしかないよね・・・」
「う・・・うぅ・・・」
「勿論、タダで、とは言わないさ。
今日一日、これまで一族以外の誰にも触らせてない僕の体。
『好きなだけ、撫でて良い』よ?」
「なぁっ!?そ、それは、本当かっ!?」
「───まずは、お膝に乗るね?」
ぴょん。
「───むほおおおおおぉッ!!!」




