74話 情けない背中 04
「───いや、それは心配しなくていい。見た限り、上手くやれてると思うぞ?
・・・いやいや!連絡が無い、ってのが馴染んでいる証拠だろ?
大丈夫だって!・・・おう。うん、それじゃ、またな」
「───ボス、電話していた方は?」
「ん?ああ、この間の『特別行事』な」
「ええ」
「留学で来てるエルフの子が、知り合いのところの娘でさ。
様子を伝えておいたんだ」
「・・・娘」
「うん?」
「背中にでも乗せたんですか?」
「校内じゃ、『実体化禁止』だ。
それに、話をする時間も無かったからなぁ」
「そこを何とかしてしまうのが、ボスでしょう」
「しねえよ。俺を何だと思ってんだよ」
「──────」
「してねえよ」
「では、そういう事で」
「・・・あのなあ、マギル」
「何です?」
「実を言うとな・・・俺は、エルフを背に乗せるのは、それほど好きじゃないんだよ」
「それはまた、意外ですね」
「いや・・・初めて乗せた時の思い出が、まあな」
「・・・初体験の」
「??ああ、初体験?のだな」
「コーヒーを淹れてきますから、少々お待ちを」
「え??」
「じっくり、聞きますから」
「・・・お、おう・・・」
「それで、その『初めて』というのは?」
「・・・ん。随分昔の話だ。
俺がようやく『成竜』になって、すぐの頃か。
親父から何か頼まれて、だったか?
そうだ、届け物を持ってだ。エルフの森へ行ったんだよ」
「『大戦前』の話ですね」
「ああ。あの頃は、普通に行き来があったし。
『実体化禁止』とかの条約も無い。
何の気構えもせず、鼻歌交じりで出掛けたわけだ───竜の姿で」
「ふむふむ」
「渡す物を渡して。俺は、くつろいでいた。
エルフのお姉さん達と語らい、とても幸せな気分だったよ」
「・・・」
「───だが、それは『罠』だった」
「?」
「突然、茂みから100名を超えるエルフ達が現れてな。
俺は囲まれた。
精霊魔法で、雁字搦めに拘束された」
「なるほど」
「・・・何が、『なるほど』なんだ?」
「そういうプレイなんですね」
「いやいや!マジな話だぞ?
あれだけの数で押し切られたら、流石に無理だ。
長老なんて、『世界樹』の精霊力まで使ってやがった」
「では、ボスは完全に抵抗不能に?」
「そりゃそうだろう!あんなのは、どうにもならねぇよ!
・・・まあ、本当の本気を出して、死力を尽くせば脱出は出来たかもしれないが」
「・・・が?」
「そうしてる最中も、俺の顔にお姉さん達が代わる代わる、口付けをしてるわけだ。
振り払えないだろ、それは」
「・・・」
「───で。動けない俺の背に100名超えが全員、乗って。
『それでは、飛んでください!』、ときたもんだ」
「ボスの初体験は、『無理矢理』だったのですね」
「それ以外に、言いようが無いな」
「・・・なるほど。そろそろ仕事に戻りますね。
良い話を聞けました」
「何が、良い話だ?」
「それでは、これで」
「待てよ───これのどこが、良い話だ?
なあ、おい───」
ヴァレストさんは、狙われています。




