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736話 Plunge into Error Hell 04



「まず、基本方針ですが」


「うん」


「第一に、『宣戦布告』を一切しないこと」


「現在、誰が《敵》として認識されているか。

常に皆を警戒させ、私の一挙手一投足を深読みさせる」


「はい。

”卿の頭の中に、リストがある”、と思わせる。

『排除者リスト』です。

”その上位にきた者が、消されているのだ”と」


「思考トリックの一種だね。

それを思い込んだ者は、自動的に錯覚するだろう。

反抗したことによって順位が上昇するなら、味方すれば下げられる、と」


「勿論、何の確約もされていません。

だから、そうするもしないも、卿の考え次第です。

そもそも、リスト自体が存在していなくたっていい。

必要なのは、卿に従い易い土壌を作っておく、これです」


「うむ」


「もう一つ。

一度《敵》として扱った相手は、けっして許さないこと。

事態が急変しようと、卿に()びを入れようと。

必ず(すみ)やかに、《排除》までもってゆく」


「途中で利害が一致してさえ許してはならない、その理由は?」


「”全員で総攻撃しても良いのだ”と、簡潔に学習させる為です。

頭の良いキャスト達は、卿が無言でも自動(オート)で《敵》を見つけ出しますが。

恐いのは、《敵》を叩いているうちに自分も《敵》になってしまうこと。

卿の方針が絶対に変わらないなら、彼等は安心して拳を振り上げるでしょう」


「そうだね」


「この2つを徹底しておけば、大幅に手間が省けます。

卿が直接に手を下さずとも、周囲が《敵》を孤立させる。

”こいつはもう助からない”、と見捨てる。

叩く。

誰の助力も得られないから、息の根を止めるのが容易くなる」


「普段から、皆に恐れられている自覚はあるよ」



おっと。

つまり、その程度はとうにやってるぞ、ってこと?


だけど、講師の前だし。

カッコ付けたいもん。


頑張れ、あたしの脳味噌(あたま)



「次は、具体的な戦術部分に入ります。


『舞台』における対人戦闘、その結果予想は数値で推し(はか)れません。

IQテストのポイントが5ほど上回っているから勝てる、などは無い。

AとBを牽制し、Cと共同し、Dを恫喝して様子を(うかが)う。

その程度で済めば、話が簡単なのですが。


実際は更に複雑で、時間経過と共に個人の許容量を超えるでしょう。

『こうなった場合は、こうする』というパターン思考では対応不可能。

あっという間に、保有している選択肢の数が現実的ではなくなってしまう」


「──────」


「全パターンをあらかじめ予想し、対策を練っておくのは無理です。

『舞台』の端のほうや、すぐには動きそうにない腰の重そうな『駒』。

それらを思考範囲から省き、総数を減らし。

その残りで考えないと、やってられない」


「捨てさせた選択肢を小突いてやるのは、常套手段だね」


「まともにやれば、そういう『化かし合い』のような戦いになるでしょう」


「ああ」


「暇な時なら、それで十分かもしれません。

ですが、《敵》は常に一名とは限らず。

『名勝負』を演出する必要も、掛ける時間も無いのであれば。


・・・あたしは。


『ファストフラッシュ』が、最も有効な戦術だと思います」



「───『ファストフラッシュ』?」



言葉を繰り返したリスヴェン枢機卿の目が、ギラリと光る。


きた。

これは、ノってきた!



「相手がじっくりと考えて打ってきた手を、完全無視して。

ノータイムで、バチンと。

自信満々にただ、打つ。


こちらの手は、何でも構いません。

意味が無くていい。

無いほうが、より効果的かも」


「ああ、分かった───『高速の点滅』に引き込むか」


「はい。

優れた者ほど、自分が頭を使った分、相手もそうしてくると考える。

思い込んでしまう。


それをいきなり、思考時間ゼロで返されたら。

あまつさえ、驚き硬直している間にも矢継ぎ早にカードを切ってこられたら。


”そうなった切っ掛けが、自分のミスにあった”。

”何か、致命的な失敗を犯した”。


その思考から離れることができなくなってしまう」


「こちらはただ、一つの道筋だけを注視しておけばいい」


「その通りです。

どんな勝負であれ、《分水嶺》となる部分は多くありません。

卿が立っておられる『舞台』では、尚のこと。


排除を突きつける際の明文など、一つあれば十分。


リバーシで例えると。

端の手前を相手に取らせたら、端はほぼ自分のもの。


そこだけを見て。

そこへ辿り着けない《吊り橋》は、どんどん切り落としてください。

相手が正気に戻れない速度で、次々に。

ランダムに」


「相手も、その行動に引き()られる。

付き合ってしまうだろうね、”自分も同じ速度で何かせねば”と」


「対抗策としては、『立ち止まって、何もせずに考える』でしょうか?


でも、それをされたところで、こちらは特に困らない。

相手が罠だと看破できても、できなくても。

その間にさえ卿は、カードを切り続け。


眼前にはもう。

事実として、《吊り橋》が一本のみ」


「途中で招集をかけて会議を開き。

大した事もない議題について話し合い、不服そうに閉会する。

そういう『揺さぶり』も効きそうだ」


「何も理解出来ず、何に(あらが)うべきかも分からず。

だから最後は、考えることをやめる。


目の前には《地獄への一本道》があるのに。

それすらも見えなくなってしまう」


「この方法、他者はまったく手を付けられずに傍観する。

完全なフリーズだ。

次回からは私がそれを始めた途端、彼等は《対象》を死亡扱いするだろうな」


「そして、誰もが卿を理解することを投げ出すでしょう。


”駄目だ、次元が違う”。

”こんなのと勝負しても勝ち目が無い”、と」


「演技力にも掛かっているか。

”実は殆ど何も考えていない”、と疑われぬだけの」


「バレない限りは何度でも使える《初見殺し》かも、しれませんね」


「ははは」



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