735話 Plunge into Error Hell 03
「どうして太陽が在るか理解できずとも、作物は育つ。
洗濯物を乾かすことも可能だ。
カトリックの起源や正当性を証明したいなんて、私は思わないね」
「教義そのものが有益なら、他は敢えて問わない、と?」
「まさに。
《神》の呼称は、意図的に用いるのみだな」
「??」
「”《神》が仰った”と、”親戚の3歳児が言った”では、天地の差。
聴こえの良いほうを選択して然るべきだろう?
本来は誰が喋ろうとも、発言の価値は変わらない筈だがね」
失礼、と声を掛けてから、桃のタルトにナイフを入れるリスヴェン卿。
あたしもそれに習って、一口頂こう。
いや、もっと沢山。
糖分補給だ。
会話の合間だけど、脳にがっちりとエネルギーを注入しておきたい。
「つまり、君の最初の質問への回答としては。
”教義の中の得になる部分のみ、活用したいから”───というところかな」
「真実の解明より、世界が平和であることが一番、ですもんね」
「そうとも。平和こそが一番だよ」
日溜まりで寛ぐ、犬か猫。
もしくは、甘いお菓子に喜ぶ子供みたいな表情の、枢機卿。
「私のほうからも、質問していいかね」
「ええ、どうぞ」
「仕事絡みの話、なんだけれどね。
他者の意見を聞いてみたい。
人並み以上に頭が良くて。
けれども、人格はともかく、主義主張がまったく合わなくて。
そういう相手を確実に排除する方法。
または、その方針として、何が重要となるだろうかね?
いやいや、当然だが君の事ではないよ?」
「・・・・・・」
ちょっと、お爺ちゃん。
さっきの『世界平和』は、どこ行っちゃったの!
仕事というからには───カトリック内部の話?
まさか。
他の枢機卿とか、ライバルが対象??
んん。
そこんとこは、深入りしないとしても。
何が目的なのかは、ピンときた。
お爺ちゃんは、あれだ。
無駄を省きたいのだ。
自分がこれまでにやってきた事や、いつも念頭に置いている事。
それらを『言語化』するのは、意味があるといえばある。
その課程で矛盾を見つけたり、新たな手法を思い付く場合もあるだろう。
でも、壁に向かって独り言を言うにしろ、メモ帳に書きまくるにしろ。
完全にやろうとしたら、どうしたって時間を消費する。
そこは避けて通れない。
ならば、同じ時間を掛けるなら、『密度』を高くしよう。
思考がよく回る誰かと話し合い、更なる飛躍を目指そう、ってコトだよね。
よし。
「・・・前提条件。
その『舞台』には、卿と《対象》の他にも10〜20人が存在する。
登場人物全てが、異様に知性が高い。
《排除》の方法は大きく分けて、2つ。
不慮の事故で、物理的に消えてもらうか。
何らかの『規則違反』に該当させ、もしくは濡れ衣を着せて吊し上げるか。
こんな感じで、構いませんか?」
「ああ。非常に好ましいね」
「あたし自身は、相手に恵まれていないせいもあって。
そういう事態に陥ったことがないんですけどね。
この機会に、勉強させていただきます」
「うんうん」
お爺ちゃん、瞳がキラッキラだ。
おっそろしいなー。
それにさ。
否定しないんだね?
排除方法の1つ目。
これ、2つ目のルートでも結局、生きてなかったりして!




