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734話 Plunge into Error Hell 02



「カオルさん。

最初にまず、誤解を解いておきたいのだがね」


「ええ」



「私はね。


《神》など、信じてはおらんよ」



「・・・っ!!!」



瞬間、頭の中が真っ白に。


いや、ホワイトアウトは駄目だ。

思考の限界はあっても、停止だけは容認しちゃいけない。



「君のことは、とても頭が良いと聞いている。


成る程。

確かに、そのようだ。


10人が10人、”どうしてか”と(たず)ね返す場面で、そうしなかった。

考える事を手放さなかった」


「・・・・・・」


「勿論、理由の説明はするつもりだ。

君が、それを聞きながら自らの推論と重ね合わせ、追求し。

同一である部分や差異を咀嚼して、楽しんでもらえたら嬉しいね」



リスヴェン枢機卿の、眼球に。

優しく落ち着いてはいるものの、無色だった目に、『色』が(とも)る。


もしかしたら。


この人もあたしと同じく、周囲(まわり)に適合可能な他者が居なくて。

ずっと《こういう機会》を待ち望んでいたのかもしれない。



「私はすでに、60年以上も前から。

カトリックに入信しようと決意した、その当時から。


《神》など、まったく信じていない。

その愛を感じたこともない。

常に《存在しないもの》として、酔いどれの与太話と同列に扱い続けているよ」


「・・・・・・」


「君は何か───好きな動物がいるかな?」


「フトアゴヒゲトカゲとか、やや大きめな爬虫類が好きですね。

時々、ネットの動画で飼育記録を眺める程度ですけれど」


「うん。

では、それにしよう。

君が今、そのフトアゴヒゲトカゲを自宅で飼っているとして、だ」


「はい」


「餌が何処(どこ)に置いてある、とか。

決められた場所で排泄するように、とか。

バスルームに入って来てはいけない、とか。


そういう事はトカゲであろうと、時間を掛ければ教えられると思う」


「ええ。

都度、好みの食べ物を与える『成功体験』の蓄積。

条件学習でルールを憶えさせる程度なら、おそらくは可能かと」


「裏返せば、『失敗体験』も同じく、反復と蓄積だ。

”やってはならない”、と叱ること。

教育課程において、罰を与えることもまた、あるわけだ」


「そうですね」


「環境を清潔に保てるよう、制限する。

人間の邪魔をさせない。

不適切な場所へ侵入したり、危険な行動を禁止する。


さて。

そうやって、君との共同生活に馴染んでゆく《賢いトカゲ君》だが。


ならば彼は。

《情状酌量》や《執行猶予》というものを理解できるかね?」


「・・・できません」


「うむ、できないだろうね。

罰される、褒められる。

0か1かを憶えることは可能でも、それはただの『パターン記憶』だ。


君が考える”状況から見て、今回だけは許そう”は、伝わらない。

伝えられない。


むしろトカゲは混乱し、これまでの学習結果に悪影響さえもたらすだろう」


「知性が低い、乏しい存在には、『根本的な理屈を教えられない』?」


「その通り」


「けれど、下位の存在が上位へ、訴えることならば」


「それを、”意思の疎通だ”とは言わんよ」


「・・・・・・」


「現在の人間(われわれ)では、下等な動物が何を考えているかすら分からない。


たとえ《神》が、素晴らしい能力(ちから)を備えており。

人間のそれを把握、理解できるとしても。

向こうの意思をこちらへ、正しく伝える手段は無い。


『良い』か、『駄目』か。

それを単純に規定して、従わせるのみだ。


何故かを説明したところで、人間(われわれ)には本質の部分が理解不能だ」


「だから、《神》が存在していると認める意味も無い、と?」


「考えるだけ、時間の無駄であろうな。


そもそも、《神》が万能であるかも疑わしい。

大地や海を(つくり)り出し、世界を構築したのだとしても。

それ以上は実行できない、《その程度の存在》なのかもしれんよ。


(いま)だ太陽系外を有人探査不可能な、人間(われわれ)のように」


「・・・・・・」


「まあ、私とてカトリックの信徒であるが故。

信徒同士で語らう際に《神》や《天にまします主》などと、口にはする。

朝に夕に、祈りも捧げる。


けれど、それはただの形式にすぎない。


《神》を信じたりは、けっしてせぬよ」


「だったら。

《神》を心から信じる者には、どう接しておられるのですか?」


「本気で《神》を信じ、(あが)(たてまつ)る。

他に何を主張していようが行動しようが、特に関係無いな。

そういう者達に対しては、例外なく『狂信者』の烙印を押しているのでね。


カトリックという屋根の下にいる限りは、笑って見逃しもするが。


異なる場所に立っているならば、その事実をもって『有害』の判定を下す。

枢機卿として、それなりの対処をとることになるだろう」


「・・・・・・」


「ちなみに。

『狂信者』は総じて、トカゲ並だ。

知性が低く、話し合いにならないのも当然のこと。


彼等に処罰の理由を説明する必要は、一切無いよ」



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