732話 ま" 04
「とにかくね。
結界はまあ、何とかなったんですよ」
「だから、何でさ」
「そりゃもう、そういう時の為の《自作のアレコレ》がありましてね?
伊達に給料貰ってませんから!」
「ホント、ウチの会社公認みたいな言い方、やめてくれる?」
「でもオレ、『告げる大鴉』じゃないですか。
《それ》も込みで採用されてますよね?」
「ないよ」
「と、見せかけて?」
「絶対にない!」
あってたまるかっての!
単なる思い込みだよ、それ!
お前はただ、顔の良さで採用されただけだよ!
いつもいつも、余計な事ばかりしやがって!
───いや、でも。
───ちょっと待てよ?
こいつ、破天荒で身の程知らずで、常に予想外なカラスではあるものの。
『失敗』はない。
実質的な損害を出したことがない。
だが。
今回初めて、『失敗』した?
被害届を出されたとか、賠償金とか?
そういう、会社にも責任が及ぶやつなのか??
「───カルロゥ君」
「はい」
「正直に言って私は今、君が恐い」
「オレも、自分で自分が恐いですよ。
次は何をやらかすのか、考えただけでワクワクします」
「恐いけれども、一応は訊いておこう。
結界はその、《自作のナントカ》で突破して。
それじゃあ、君は何を失敗したんだい?」
「あー、ええとですね。
詳しく説明しましょう!」
「うん」
「結界には、『起動状態のモニタリング』やら『操作記録の発信』やらと。
面倒な機構がわんさかと盛り込まれていましてね。
ああ、《監視カメラ》の高級なやつに例えると、分かり易いかな」
窓枠に置いていたワインボトルから、ドパドパとお代わりを注ぎ。
カラスは、シーサイドなテラスから景色を眺めるような優雅さで微笑んだ。
「ヤックモルさん、グラス持ってきましょうか?」
「いらない」
「それじゃあ、お構いなしに飲んじゃいますよ?
・・・ふぅー!
で、《カメラ》の話に戻りますけども」
「ああ」
「簡単に言っちゃえば。
映像記録をダミーで上書きしながら、本体の内部を書き換えたわけですよ。
リアルタイムで」
「いやいや。
それ、簡単にできやしないだろう?
しかも、民生品じゃなくて、そういう行為にも対策を施してあるような、」
「全ファイルが、パーミッションゼロで塗り潰されていて。
なのに正常動作する、という《トンデモ仕様》でしたねぇ。
おまけに強度のほうも、軍事規格を遥かに越えているという」
「突破するなよ。
明らかに、突破しちゃいけないやつでしょ。
それに、天界側が設置した法術結界は??」
「ええ、ええ。
当然そっちも、かなり頑張ったわけですよ。
その為のオレですから!」
「──────」
なんで法術に解析、介入できるの?
そんなのが可能なら、あれじゃん。
戦争で勝てるじゃん。
「ぱっと見は、正常稼働中。
ただし、内側は今後の事も考えて色んな便利ツールを仕込みまくり。
綺麗に整えて、蓋を閉じ。
はい終了!
カァ!と高らかに啼いて、勝利宣言!
それから悠々、結界の向こうにお邪魔させていただきまして。
テムズ川をクルーズ後、カフェで紅茶などを嗜み。
ロンドン塔にいる小さな同類とも、挨拶を交わし。
事前に《とある筋》から入手しておいた場所。
某ホテルの外壁に張り付き。
さあ、会議を激撮だ!、というところで!」
「──────」
「首根っこを、ぐいと掴まれましてね。
はい」
「───誰に?」
「やー、それがですね。
オレの優秀な目をもってしても、まったく見えない。
分からない。
そういう、『正体不明な手』でありまして」
「──────」
「そんでもって。
褒められましたよ。
もうね、わんさか褒められちゃいました!
”いやはや、これほど短時間でシステムを欺き、改竄してしまうとは”
”その技術、手際の良さ、『見事』の一言に尽きるぞ”
”褒美を取らせよう、オルトゥ・シック・ランハベル”
”これからも精進し、余や多くの同胞を楽しませてくれ”
”その為に必要となるだろう《許可証》を、君に渡しておこう”
”今回だけは、それをもって見逃してはくれないかね”
”あとは───そうだな”
”ささやかではあるが、これを───ELHの皆にも振る舞ってほしい”
”頼んだぞ”
なんて事を、耳元で仰るわけでして」
「ま"っ!!!」」
「これってやっぱり、《あの御方》でしょうかね?」
「ま"っ!!!」
「マクロフ農水大臣?」
「ま"っ!!!」
「マイデン上院議長?
貰ったバッジなんですが、襟のところに付けて大丈夫ですかね?」
「ま"っ!!!」
付けろよ!!
今すぐ付けなさいよ、有り難く!!
このバカガラスッ!!
何でッ!!
よりにもよって、魔王陛下に捕まってるんだよッ!?
ELHって、社名までバレてんじゃん!!
これもう、完全にアウトだよ!!
社員一同、巻き込まれてんじゃん!!
「いやー、『そんなこんな』で。
ここにあるのは全部、太っ腹な誰かさんからの《頂き物》でしてね。
遠慮無く、腹一杯に食べちゃってくださいな!
あ。
社長って今日、いるんでしたっけ?
一応、報告に行っといたほうがいいです?」
「ま"っ・・・」
「”まだ早いぞ。落ち着け、オルトゥ君”?」
「ま"」
「じゃあ、全部食ってからにしますか!」
「ま・・・」
「ちょっと。
泣かないでくださいよ、ヤックモルさん。
嬉しいのは分かりますけど」
「・・・・・・」
分かってない!
微塵も分かってないよ、君!
涙じゃなくて、言葉のほうが先に枯れちゃったよ!
ああ、いいさ!
こうなったら私も、食べて、飲んで。
全部忘れるまで楽しむよ、豪勢な《頂き物》を!
どうせ家に帰ったって、夕食は用意されていないんだし。
居酒屋にでも寄ろうとしてた分、お金が浮いたよ!
やったね!!
明日も良く晴れるって予報だし!!




