731話 ま" 03
「おい!何をやってるんだ、君は!」
そこらの立食パーティーみたいに食って騒ぐ、低俗な連中を押し分け。
やっとの事で奴の隣まで辿り着いたが。
「はは。
どうも、ヤックモルさん」
「『どうも』じゃないよ!
これ、どこから持って来たのさ!?
経理に伝票回す気なの!?
それとも、盗んだの!?」
「そんなぁ。メチャクチャ言わないでくださいよ」
こっちの気も知らないで、すっとぼける問題児。
いつもメチャクチャしてるのは、お前だろう!
定評があるんだよ!
私の名前をちゃんと呼ぶこと以外、常に最低評価なんだよ!
「まあ、その。
実はオレ、失敗しちゃいましてねぇ」
「何をだよ?
やっぱりこの料理、発注ミス!?」
「や、や。そうじゃなくて。
久々にドジ踏んじゃって・・・《まちかど♪天気予報》で」
「───え?」
今日の放送??
「何が?
別にどこも、おかしくはなかったけど?」
そうだよ。
珍しく普通だったじゃないか、普通。
久々に、『定点』からの中継だよ。
バックの噴水が懐かしくて、思わず見とれちゃったし。
「あれはその、『仕方なく』ですよ。
本当はもっと刺激的な場所から、爆笑な感じでやりたかったんですよ」
無駄に顔面偏差値が高いカラスの、疲れ切った表情。
溜息。
あのねぇ。
君にはまだ、200年早いよ。
そういうの、仕事をきっちりこなせる熟成した中年にしか許されないんだぞ。
しかも、やり過ぎたら家族であっても目を合わせてくれなくなるぞ。
「へぇ。
関係者、同僚すら騙して煙に巻く『暴走カラス』の君が、失敗ねぇ。
一体、何処にお邪魔する予定だったのさ?」
「・・・言っていいんですかね?」
「好きに言っちゃいなさいよ。
もう済んだことだし、誰も困んないよ、今更」
「そうですか?
本来、入っちゃいけない所なんですけども」
「そうだね。
君は大抵、そういう場所に突入するよね。
少しも遠慮無しに」
「立ち入り制限が厳しくって。
嫌になるくらい《結界》が張り巡らされてて。
うっかり近付いただけで、とりあえず牢獄にブチ込んどけ、みたいな」
「──────」
あ・・・れぇ?
何かこれ、聞いちゃいけないタイプのやつ?
「───ちょっとちょっと、オルトゥ君」
「はい」
「一応は私も、情報バラエティー番組の司会者だからさ。
それなりに時勢とか社会情勢は、押さえてるつもりなんだけど」
「ええ」
「もしかして───そこ。
『霧の都』とか呼ばれる都市だったり、する?」
「そうですね」
「何が目的で?
まさか、違ってるとは思うけど───《定例会議》?」
「今あそこで面白い事と言ったら、それしかないでしょう」
「ちょッ!!
何をしでかしてんだ!!
こッ、このッ───!!」
反射的に出掛けた絶叫を、ギリギリ寸前で堪える。
周囲の手前、騒がしくしたくなかった、というより。
こいつが口にしている内容が、とても漏洩出来ないものだったからだ。
「こんの、馬鹿アホ腐れ!
ろくでなしのアンポンタンスペシャル!」
「おお、流石はヤックモルさんだ。
囁くような叱責にも、迫力がありますねぇ」
「やかましい!
そりゃあ、失敗して当然だよ!
会議の出席者以外、ロンドンに入れるわけないだろ!
試す前に気付けよ、鳥頭!」
「いやいや、実際のところね。
入れることは、入れたんですよ」
「何でさ!?
結界はどうしたの!?
魔法だけじゃなく、法術も展開されてるのに!?」
「はは。
それをどうにかするのが、オレの仕事でしょう?」
「その為に雇われてるみたいに言うな!
ウチの役員連中が、卒倒するよ!
君はただの、『お天気リポーター』だよ!」
「と、見せかけて?」
「ELH随一の、《高視聴率男》だよ!
いつも有難うね!」
咄嗟に、絶対認めたくない事実を口走ってしまい。
それでも、”くたばれ!”の代わりに謝辞を述べたのは、あれだ。
当局での勤続、200年オーバー。
パワハラ撲滅を掲げる、徹底した社内研修のお陰に違いない。
本当に有難う!
他にも色々!
すでに口走っては、いるけども!




