730話 ま" 02
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(会議室って───何処の会議室だ?)
すでにカルミアの姿は見当たらず。
廊下では、決して少なくない職員達が小走りに移動している状態だ。
(どうなってるんだ、一体??)
よく分からぬまま、その『流れ』に乗るように走る。
運動不足だが、走る。
後ろから押されかけるのを感じつつ、何とか転倒しないように走り切って。
───辿り着いたのは、同階の東側に位置する『第一会議室』。
───開けっ放しの入り口から中へと入るなり、視界に飛び込んできたものは。
(うわっ!!)
(何だこれええええっ!!??)
中央に寄せた、全てのテーブル。
その上に載せられた料理。
料理。
料理。
シャンパン。
ワイン。
デザート類。
これでもか、とばかりに盛られたそれらに、皆が群がっているが。
私は逆に脚が止まり、顔が引きつった。
いかん。
こりゃ駄目だ。
『こういう』のは、気軽に摘んでいいものじゃあない。
評議会の。
いや、旧・評議会議員のパーティーにも呼ばれた経験がある自分だ。
そこでさえ、滅多と提供されなかったような、高級の!
超特上の品々じゃないか!
おい、駄目だってば!
立ったまま食べるな!
まず、何はともあれ、最大限のフォーマルな服装。
当然、所作も相当なグレードが求められる。
一品ごとに、他の誰とも被らぬ評論だって必要で。
考え無しにポイポイと口の中に放り込めば、たちまち恥をかくこと請け合い。
中途半端に関わるくらいなら、回れ右して逃げ出すべき《おもてなし》だぞ!
どれもこれも、紙皿に取り分けるような代物じゃあないんだよ!
プラスチックのフォークを突き立てるなッ!
食材の段階から選びに選ばれた、気高い料理を汚すつもりかッ!?
パンケーキを手で持って、直接かぶり付くな!
そこいらの安物とは訳が違うんだぞ!
それ一枚で、私の小遣いが全て消し飛ぶんだぞ!?
これだから、モノを知らない『庶民』ってやつは!!
「───おっ、ヤックモル君!」
叫び出す寸前の怒りにわななき立ち尽くしていると、肩を叩かれた。
報道部のトップ、ヒルダーズ部長。
よく飲みに誘われるが、一度も奢ってくれたことがない、ケチな男。
噂によると現在、家庭内別居の状態。
そういう部分も含めて色々と自分に似ている為、どうにも好かない相手だ。
「やぁやぁ、有難うね!
ウチの部も全員で、御相伴に預かってるよ!
凄いねェ、君んところのオルトゥ君は!」
「───は??
オルトゥが、何ですって?」
「これ、彼の『差し入れ』なんだろ?
次から次へと持って来て、ここに並べてるのを見たよ?」
え??
『差し入れ』??
いやいや、いや!
こんなの、平の給料でどうにかできるようなモンじゃないから!
できちゃイカン、レベルなのよ!
アンタもそれくらい分かれよ、部長職だろ!
どう見たって明らかに、格式高い老舗の名店からの取り寄せじゃないか!
しかも、このデタラメな量だぞ!
いつから予約を入れて、どれだけ支払った?
あいつ、実家でも売却したのか?
まさか。
もしかして、”社内経費で落ちる筈”、とか。
”請求書を回しとけば大丈夫だろう”、なんて。
そんなウルトラ阿呆なこと、考えてないよな!?
───慌てて、混雑した『即席ディナー会場』を見渡せば。
───人だかりから少し離れた壁際に、バカガラス発見だ。
野郎!!
グラス片手に、何を気取ってやがる!!
おい、そこから動くなよ!?
今すぐ行くからな!?
絶対に動くなよッ!?




