表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
730/739

728話 いかがわしく、にこやかに 04


「うははは!

愚かなり!

今貴様が噛み千切った首は、我等の中でも最弱!!

何ら痛くも痒くもないわッ!!

ぬはははは!!」



六ツ頭のヒュドラが、身をくねらせて哄笑。

しかし、即座に生えてきた七番目が、ぽつりと一言(ひとこと)



「いや、もう再生したけどな?

あと、テメぇ───これ以降、仲良くできると思うなよ?」



ぶはっ、と大きく笑い声が上がる。


だが、それは天使達のみの話。

リーシェンを筆頭に、蜘蛛のお嬢さんは皆、形ばかりの笑みを作っている。



「さても、さても。

こやつら、なんと協調性が無いことか。

どう思う、弟よ?」



双頭のケルベロスの右頭が、皮肉っぽく首を(かし)げ。

即座に、もう一つのほうが続ける。



「いや俺ら、どう考えても双子だよな?

おぎゃあ、と生まれてすぐ、母親(おや)の乳首を奪い合った腐れ縁だよな!?」




これまた天使達の歓声が響いて、拍手喝采。



うげぇ。


正直に言って、最低も最低。

特大の《お寒いギャグ》だ。

古すぎて化石のような、もはや年寄り連中でも言わないヤツ。


しかも後半は確実に、どこかの誰かがクレームを付けてくる内容。

こいつを新鮮に感じられるのは、天使くらいのもの。


綺麗に咲いた、10の笑顔の裏側。

如何(いか)な蜘蛛とて、その胸中ではブリザードが吹き荒れていることだろう。



「・・・・・・」


「───あ」



2列に並べたテーブルの真ん中。

擬態変更(シェイプチェンジ)》で宴会芸を披露していた奴が、ようやく俺に気付き。



「やーやー、こんちは!

スンマセン!

ちょっとばかし、遅くなっちまって!」


「・・・・・・」


「まぁでも、いいっしょ?

来た時には丁度良く、(まと)まるモンが纏まってたみたいだし!

ギリで間に合った、つーコトで!

へへへ!」



擬態を解除して能天気に笑う男。


ぴっちりと撫で付けた、真ん中分けの黒髪。

顔と比較して大き過ぎる、同色の(ふち)の眼鏡。


スーツに身を包んではいるものの、まるで似合っていない。

サイズからして、明らかに適切ではない。

むしろ、その『不格好さ』でウケを狙うような。

紳士の目から見て、ふざけるのも大概にしろよ、と声を荒げたくなる仕草。



───しかもだ。


───『そんなの』で、誤魔化せると思うなよ?



こいつ、天使であって、天使じゃあない。


元は悪魔、地獄の一員。

何の理由でだか、『天界()(くみ)するを良し』とした裏切り者。


どういう事情があったにせよ、悪魔(おれたち)から許されると期待するのは間違いで。

目立つ場所に出て来てはいけない立場だろうによ。

それを堂々、チャラけた感じで御登場とあっちゃ、こっちの顔も(ゆが)むぜ。


『アヤシイお店ごっこ』より、お前のほうがよっぽど看過出来ねぇな。



「・・・・・・」


「あー、ちょいと。

(にら)むのは()しましょうよ、代表さん。

こちとら、表も裏もないっす。

マジメな正直モンっすよ!」


「・・・そうか。悪かったな、謝るよ」



つまり、お前は腹に一物含んだ道化師じゃなく。

見た目通りの、ただの馬鹿ってことだな?


その辺を歩いてる時に出会えば、確実に胸倉を掴むだろう相手だが。

幸いにも今の俺は、責任ある職務の真っ最中だ。

事を荒立てぬよう、私情は(おさ)えておいてやる。


しかし絶対に、次回はないからな?



「ほんじゃ、まぁ!

条項はすでに書き出してあるんで、確認してもらって!」


「おう」


「えぇと、この内容で異存は無いですかねー?」


「・・・・・・そうだな」



なんというか、その。

改めてこうやって列挙すれば、凄まじいものがある。


何から何まで、徹底して悪魔側(こちら)が優位。

破格の条件、無慈悲な取引。


こんなのはまるで、《敗戦国の降伏宣言》に等しいぞ?



「そしたら、あとは最後の仕上げっすね!」


「ああ」



馬鹿みたいにはしゃぐ馬鹿と、俺。

互いが承認して《誓約書》を複製。


それぞれに、陛下から預かった《印》を押印する。



「はいはい!

こっちも上司のやつを───ほい、っと!」



続けて、陛下の印の隣に押されたのは。


《天使長 イスランデル・ブラクト・ファウディ》名義のもの。



「・・・・・・」



天使長ねぇ。

こりゃまた、随分と偉くなったもんだよ、あの野郎。


あーー、お前さっき、上司って言ったか?

つまり、アレか?


お前を代表として寄越しやがったのは。

俺に対する、あいつの嫌がらせってことか??



───いやいや。


───問題は、それだけに(とど)まらない。



おかしいだろ、これ。


《陛下》の印章に並べて《天使長》では、『格』が(そろ)わねぇよ。

だって、《陛下》だぞ?

《魔王陛下》だからな?


こういう場合だと、そっちは普通、《神》の判を。



《神》の。




───猛然とそれを指摘しかけていた俺の口角が。


───自分でもハッキリ自覚できるほど、吊り上がった。




ああ、そうだ。

本会議は、事前に調整されたもの。

完璧に仕込まれていて、アドリブなんてあり得ない。


あったとすれば、それは馬鹿がやった宴会芸だけ。

天使側(あちら)が押す印章が天使長のものであることも、陛下は御承知の筈。



分かったぞ!

今ようやく、全てがきっちりと繋がったぞ!



大戦後、何千年に渡った『療養期間』。


《蜂騒動》における、御体の『塩化』。


そして見掛けの上では、俺の発言が発端となったが。

どうにも挙動が不審な《四家》に対して、『特例的な権力を大幅に抑制』。


内側の毒たる《評議会(メナール)》にも、『解体、新生』という大革新。



陛下は。


我等が陛下は秘密裏に、《神》を打ち倒されたのだ!

再起不能なまでに叩きのめし、表舞台に出られないようにした!


更にはこの定例会議、次の《完全停戦調印式》。

そこに横槍を入れるだろう不穏分子を、『正式に』排除しておられたのだ!



───天界の(あるじ)たる《神》の、(いちじる)しい弱体化。



”生まれついての『存在悪』だ”などと、理不尽な扱いを受けてきた俺達だが。

ついに!

ようやく!

それを(あお)り立てて笑ってた奴等に、一発入れてやることができた!



よしッ!

情勢が、一気に変わったぞ!

これからは、悪魔の時代だッ!


知り合いに悪魔がいるなんて言えば、皆から持て(はや)されたり!

クレジットカードの審査も無条件でパスできるような、新時代の幕開け!


俺の名を冠したテリヤキチキンバーガーが発売されるとか!

スマホの料金が半額になるとか!


よく分からんが、そういうのすら可能かもしれない!


期待に胸が高鳴るぜ!!




「これでオーケー!───だよな?

終わっていいのかな?

もう解散しちゃっていい感じ?」


「そうだな。

わざわざ御足労いただき、感謝する」



パーフェクトだ、俺。

(とどこお)り無く、閉会に()ぎ着けたぞ。

にこやかに笑い、代表同士の握手で締めよう。


勿論、両者の笑顔に偽りなど皆無だ。

少なくともこちらのほうは、心底からの笑みさ。



───おい、リーシェン!


───”よくそんな気持ちの悪い奴の手を”、みたいな目をすんな!



しっかり最後まで、『アイドル』で通しとけ。

この成果がニュースで報道されたら、お前の一族には結構な『(はく)』が付くぞ。

良かったな!

両親も大喜びだろうよ!


さあ、《祝い》でもするか、階下(した)のレストランで!

(おご)ってやるぞ?

それとも、むしろ俺のほうが奢ってもらうべきか?


いやいや。

待て待て。


悩みどころだが、ここはやっぱり、紳士として俺が。




──────今月、金が無いんだったな──────


ヤバいな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ