727話 いかがわしく、にこやかに 03
・
・
・
・
・
・
・
───休憩だ。
───何が何でも、休憩してやるぞ!
ガッチリと壁で仕切られてドアの付いた喫煙室に逃げ込み、深く溜息。
高級ホテルのわりに高級感の無い椅子へ、ドカッと着席だ。
ちくしょう。
なんだよ、この”タバコ吸う奴には金を掛けたくないんです”、みたいなの。
時代か?
時代が悪いのか?
上海のほうがよっぽど、マトモな造りだったぞ?
こんなんで三ツ星とか、てんでなっちゃいねぇだろ!?
とまあ、このへんで止めておくか。
いくら喚こうが、どうせ喫煙者は『犯罪者扱い』。
マナーを守って吸ったところで、皆様から愛されるはずもない。
服だの髪だの、そして息が臭いって言われりゃ、ゴメンナサイだもんな。
───さて。
リーシェンと妹達、そしてペアになった天使共は、今も協議中。
俺のほうは見てるだけでする事も無いんで、息抜きだ。
あいつら、メチャクチャ盛り上がってて、休憩をとるつもりもないらしい。
こっそり席を外したって、構やしないだろう。
ただ、俺が居ないからとホテルを追い出されるような行為はやめてくれよ?
そん時は、ダッシュで逃げるぞ?
俺は『破廉恥なパーティーの主催者』じゃないんだからな?
タバコに着火し、深々と吸い込んでから吐き出す。
気分のせいか普段よりも苦くてザラつき、肺に重く溜まる感覚だ。
勅命により、ロンドンまでやって来た俺だが。
これ多分、リーシェン達も陛下から指名されてるよなぁ。
ヤバかったり微妙だったりの地名を、ピンポイントで出してるのがおかしい。
果たすべき仕事は全部、事前に決まっていて。
あとは《遊び》のフリで、予定されたゴール地点へ向かっているだけ。
天使側もそれを承知の上、押し切られた形を演じているんだろう。
───要は、盛大な『茶番』だ。
───いや、オマケで付く『役得』のほうこそがメインか?
しかし、内容がエグいな。
政治だの外交だの、とんと縁が無い俺でさえ違和感をおぼえる。
あんまりにも、条件が片寄りすぎてる。
悪魔側が有利なのにも、程がある。
どれだけふざけたムードでも、これは正式な『交渉会』だ。
最後に判を押した瞬間、”遊びでした”は通らなくなる。
本当にもう、冗談事じゃあ済まされなくなるからな。
陛下が仰るに、「この会議は《完全停戦調印式》の前段階」。
だが、調印に至る為にしてもこれは、あまりに一方的。
天界の奴等はここまで折れてでも、停戦に利があると思っているのか?
何かの罠か?
もしくは───シロウトな俺が何かを見落としているだけか?
くそっ。
それにしたって、これは酷い。
喉を潤そうにも、ウォーターサーバーはおろか、自販機すら無いときた。
マジで喫煙者の抹殺を企ててるな、ここ。
差別主義が極まってるな。
おう!
いい度胸だ、やってやるよ!
ノードリンクで、あと50分!
ひっきり無しに、排気が追いつかなくなるまで吸い続けてやる!
喫煙室、真っ白にした挙げ句に、レビューで最低評価を付けてやらあ!!
とまあ。
そんなのをやらかせば、余計に喫煙者の肩身が狭くなること請け合い。
仕方無ぇ。
ちょいと自販機、探してくるかね。
はあぁ。




