726話 いかがわしく、にこやかに 02
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「もうちょっとー、もうちょっとだけー!♡
あ、そんな感じ!
そう、これいいかも!♡
西海岸と東海岸で分けて、ぴったり『半分こ』だねー!
《ろあん》と、お揃いだよー!♡」
「やったー!!
ろあんちゃん、今日も可愛い!!
お揃い、感謝でありますッ!!」
「やだやだ、やだぁ〜〜〜!
ねええぇぇ!ハワイ、欲しい!
ぜったい、ほ〜し〜い〜〜!!
海が綺麗で、大好きなんだもん!
ハワイでライブ、したいんだも〜〜ん!」
「そうだよね!ハワイはすっごく、いいところだよね!
ようし、オッケー!!
おじさん、奮発しちゃうぞーー!!」
「ボク、決めたよ。
マラッカ海峡を挟んで南北は、ボクの王国にする。
これ、絶対だから。
海賊をやっつけて、国民みんなが仲良く楽しく暮らせるようにするんだ」
「おお!!
御立派ですぞ、姫殿下!!
じぃは、どこまでも連いてゆく所存ッ!!」
「・・・これ、あげる。
『いいこ』には特別な手作りの、ちょこれーとけーき。
しかも、魔法をかけてる。
受け取ったあいては、無条件でペルーをひきわたす」
「ぐはあッ!?
しまった、魔法が効いてきたあぁーーッ!!」
───何だ、これ。
───本当に何だよ、これ。
世間一般で、遠くからチラと見ただけで犯罪行為と認定されそうな。
そういう《見た目年齢》のお嬢さん達が、営業なさっている。
もう、嫌らしいくらいバリバリと。
境界線を一方的に押しまくって、シーレーンの各所を奪取しておられる。
おいおい。
こんなのが許されるのか。
許されていいのかよ。
『定例交渉会』、どこいった?
俺以外、みんな天使側のテーブルに行っちまって、おまけに膝の上だぞ??
ちなみに、たった今ペルーをまるっと毟り取ったのはリーシェン。
あそこは、天使の3大地上拠点の1つだ。
それを即座に諦めさせた手腕は、称賛されるべきものだが。
手作りのケーキってのは絶対、嘘だろう。
お前が《食べる専門》なのは、よおぉく知ってるぞ。
どうせ見栄えするやつを購入して、包装紙だけ替えたに違いない。
相手は、泣き震えながら歓喜してるけれども。
「あの・・・ごめんね。
あたし、他のみんなみたいな『ああいうサービス』は、出来なくて。
先生からも、止められてるし」
一番端の席。
ただ一名だけ、膝の上にお座りしていない子がいる。
「・・・でもね。
いつもありがとう、ライブ観に来てくれて。
歌とかダンスとか、いっぱい感想をくれて。
あたし、ちゃんと全部読んでるからね?
嬉しくって、たくさん元気を貰ってるんだよ?
それで。
その・・・あのね・・・」
「ミーシャたん、ストップ!
それ以上、言葉は要らない。
幸せを毎日届けてもらって、こちらこそ感謝しているんだ。
なあに。
ロシア南部に関しては、私が確約する。
完全譲渡だ。
ははは!こんなの全然、安いものさ!」
うおう。
こっちもこっちで、着々と交渉を進めているようだ。
ていうか、無条件で撤退させやがったぞ。
さては、プロだな!?
『真面目な頑張り屋さん』系か!?
───なんという、いかがわしさ。
───カーテン閉めて、照明落とさないと駄目なんじゃねぇか、これ?
どう見たって、会議などではない。
まあ、有り体に言って、夜の。
繁華街とかにある、《そういう店》の雰囲気なわけだが。
ただ一つ、異なる点をあげるとすれば。
《料金はもう、前払いされてる》ってトコロだな。
悪魔側が、俺を含めた11名なのに対し。
天使側は、本来の規定数を割った10名で。
即ち、俺を残してペアが組めるようになっている。
最初から、そう仕組んである。
蜘蛛のお嬢さん達と、その相手。
それはズバリ、『芸能活動者』と『ファン』の関係だろう。
分かるぜ。
分かるんだよなぁ、これ。
些か、下世話な表現になってしまうが。
この場所でペアになる迄にあちらさん、相当な時間と金を投入している。
間違いないぜ。
《廃課金》でジャブジャブ突っ込んで、物販は『全買い』の『全コンプ』。
なんなら、在庫も残さず攫いますよ、という『守護者ムーブ』。
そこまでやった上での、超近接距離だ。
入れ込んだアイドルに密着なんかされたら、そりゃもう『堕ちる』さ。
狂わないほうがおかしいさ。
───そして、俺自身も残念ながら。
───こういう事に関して眉をしかめつつも、強く言えた立場ではない。
世の中には、あれだ。
《ヴァーチャル配信者》、という職業があってだな。
ポテロンちゃんは、永遠の21歳。
悪魔に憧れ、自作の大きな角を頭に装着している女性だ。
好きな食べ物は、ポテトチップスと鯛焼き。
嫌いな食べ物は、一切無し。
誰かを嫌ったり悪く言ったりすることは、けっしてない。
笑う時は口元に両手を当て、『くふふ』。
いつか本物の悪魔になるべく、常に新しい《悪事》を考えているものの。
その《いたずら》が成功したためしが無い。
どう転んでも最後は、みんなが笑顔になるような『ほっこり展開』になる。
雑談の合間で突発的に唄う歌も、非常に人気が高い。
やや舌足らずで、音やピッチが多少外れても、チャット欄は『頑張れ』コール。
他の配信者とコラボする度、”ファンの民度が高い””優しい世界”と褒められる。
彼女はよく、”わたし、みんなを守るよ♪”と繰り返すが。
この俺が、そして皆が、ポテロンちゃんを守護る!
節度をもって、ありとあらゆる苦難からポテロンちゃんを守護ってみせる!
───ただし。
───今月はもう、金が無いのだ。
3周年記念とあらば、黙っていられる筈もなく。
配信第一回目からの古参『ポテ党』として、俺は奮戦しまくり。
その結果として、金が無い。
正確に言えば、財布の中に現金はあるのだが。
多大なる請求により、その全てが来月初頭に消え失せる計算で。
もはや、《使ってもいい金》が少しも無い。
俺は。
恐ろしくてその事実を、マギルに言い出せない。
ミュンヘンの代表に就任して、小遣いがアップしてるだけに余計だ。
”色々と付き合いの席もあるだろう”と、かなり増額していただいた手前。
全部使い切ったなどと、どの口で言えようか。
言えやしない。
言えるわけがないのだ。
ボルコーから借りよう、とも思ったんだけどな。
あいつもあいつで、全額叩いてやがった。
流石、『ポテ党』の同志だよ。
ああ、まったく。
ポテロンちゃんは、最高さ。
人間だけど、とびきりの女性なのさ!
ポテロン:「ほんと、気持ちだけでいいからね?」
漆黒の竜:「問題ないさ!」
元・総理:「問題ないとも!」




