723話 お土産の話だよ 03
「───もう少し聞きたい事を、提示します」
「うむ。伺おう」
「《協定》の話は、人間が被害を受けない為のルールですね。
それを作り、約束を取り付けたのも、人間ですか?」
「ああ、そうだ。
確か、今から100年ほど前だと聞いている」
ふうん。
言い方からして、『本人から聞いた』ではなさそう。
伝聞の形式?
おそらくもう、その人間は生きていないわけだね?
「当時の関係者は存在しなくとも、《協定》が無効になることはないぞ」
「どうしてですか?」
「ローマカトリックの法王庁が、この件を管轄している。
そこからの指示で、私が派遣されたのだ」
「──────」
カトリック。
うん、知ってるぞ。
この惑星で流行している『思想』の、一つだよね?
でも、それってさ。
「人間が対象のカトリックに、人間でない貴方の関与?」
「私は、そういう進化を遂げたのだ」
「───進化───」
「昨今では、『多様性』などと言うらしい。
即ち、私のような者も認められる、ということだろう」
ああ、うん。
『多様性』ね。
でも、それが意味するのは、良い事ばかりじゃないぞ。
結構色々な知的生命体がハマっちゃう、《罠》でもあるんだよね。
種の存続が危ぶまれる初期状態においては、絶滅を避ける保険として有効。
”別行動してるやつがいて助かった”的な、命綱になり得るんだけども。
進化速度が停滞してきた辺りでは、毒にしかならない。
『多様性』なんて持ち出してきたらもう、大抵がドン詰まりの末期。
生態のみならず、文化や文明まで含めて、一切が停止。
それどころか、逆行して過去すら否定し始めたり。
『多様性』に疑問を持つこと自体が、《社会悪》と認定されるからね。
まあ、何をするにしても絶対、何かに抵触するようになるのさ。
自分達が決定した規則で、ぎゅうぎゅうに縛られ。
違反探しとか制裁だとか、諍いばかりが発生しちゃうんだよなぁ。
「──────」
「円い御方よ、心配なさるなかれ」
「え?」
「私は、とても嬉しく思っているのだよ」
「───『嬉しく』?」
「《人間ならざる者》は、ただ恐怖の対象でしかないとしても。
多様性という言葉が、私にだけは適用されなかったとしても。
我が身はカトリックの為に存在し。
何処で何をしていてさえ、カトリックの同胞なのだ」
「──────」
「直属の上司こそ、私と同様の《化け物》だが。
本件の指示を出した法王庁は、人間達の作り上げた組織であり。
───私は、人間に頼られたのだ。
それが嬉しいから、ここへ来た。
たとえ命を落とそうとも、退くわけにはいかんのだ」
おお!
熱い!
金星ほどじゃないけれど、中々に熱いね!
きちんと理屈を通した感情論は、嫌いじゃないよ。
《枯れ枝の人》は、責任だけじゃなくて、優しさも愛も備えているみたいだ。
さっきから何一つ反論出来ずにモゾモゾしてばっかの、【土着神】。
本当、恥ずかしいんだけど。
【邪神】として、何かもう!
ぐっ、と握って、ポイしたい感じなんだけど!
「───事情の解釈を、終了です」
「そうか」
「《協定》を守らなかったものは、信用を失いました」
「そうだな」
「つまり、『あれ』ではなく。
わたしと貴方が、別の《約束》を結びましょう」
「!!」
あ。
《枯れ枝の人》、固まっちゃった。
《枯れネズミ》とお揃いだ。
可愛い。
「───そ、それは。
人間ではなく、私とで良いのだろうか?」
「とても良いです、寿命が無い為。
あと、貴方の生死を問わず。
わたしが存在する限り、《約束》は有効となります」
「───どんな《約束》か、聞いてもよろしいか」
「はい。
わたしは今の地点に、小さな基地を作ります」
「基地?」
「『短期滞在用』兼『観測用』ので、あります。
そして。
法王庁と『あれ』が結んだ《協定》に、新たな違反を認めた場合。
確実にそれが守られるよう、わたしが介入します。
『基地』の所有者として、周辺地域及び海域の安定を求め。
ちょっと怒ります」
「その提案、喜んでお受けしよう!!
是非に!!」
「こちらこそ。契約終了」
よし。
上手く騒動を収めたぞ!
《枯れネズミ》も、尻尾を盛んに振っているよ。
元気になったみたいだね!
「───これにて、全状態の修復を開始します」
《枯れ枝の人》、よく頑張ったね。
しっかり船ごと、復元してあげよう。
嫌だけど、一応は【土着神】の眷属達もね。
「それと。
この先、船を妨害から守る用途で、いくつか追加しても了解ですか?」
「ああ、非常に有り難い!!」
我ながら、完璧な気配り。
《枯れ枝の人》が乗っているんだから、この木造船は───あれだ。
カトリックの、法王庁とやらのものだ。
バッチリ、強化しておくよ。
帰還した時、君がたくさん褒められるように。
この話をした自分も、アキコから褒めてもらえるように。
さあさあ!
何も武装が付いてないみたいだから、まずはそこからだね!
あと、次元飛行の装置とかも必要かな!




