722話 お土産の話だよ 02
「どうして、喧嘩をされましたか?」
ええと、その。
そこまで興味があるわけでも、ないんだけどね?
出くわしてしまった以上、このままサヨナラするのも味気ないし。
一応は理由とか聞いておきたいな。
「───こやつが、『約束』を破ったせいだ」
《枯れ枝の人》が、【土着神】を指差して言う。
その袖を小さな《枯れネズミ》が引っ張って、盛んに啼いているけど。
ちょっと可愛いね、これ。
何だかんだでネズミのほうは無事なのは、ちゃんと守られていたからかな?
「『約束』?」
「そうだ。
とても由々しき事態なのだ、円い御方よ」
「──────」
「この世界においては全ての存在が固有であり、特別だ。
どれ一つとして、同じものはなく。
如何なる手段を尽くそうが、どれとも完全な同一になれぬ。
したがって。
根本的に不平等であるのは、甘んじて受け入れるしかない。
どれとも、誰とも異なるからこそだ。
これは《明確な自我》を保ち続ける上での、悲劇的な宿命だといえよう」
「はい。とても正しい、道理です」
「だが、それ故に。
『強い』『弱い』の差があるのは当然。
『損か』『得か』も大切で。
更にはそこに、単なる『好き』や『嫌い』も加味されるだろう。
そして、そのどれもが不変の因子ではなく。
予測で立てた考えが突如、変更を余儀なくされる場合とてあるが。
───だからこその、『約束』だろう」
「意味するところが、『平等』だからですか?」
「そうだ───その通り。
弱者が強者と対等になれる機会は、『約束』のみである。
たとえ、その内容自体が偏っていても、『約束を交わしたこと』は平等。
そこから発生する効力も。
それを維持する責務も。
一度同意した以上、必ず平等に、互いが保証しなければならぬ。
叶わなかった、では済まされんのだ。
どんな言い訳をこねても、その一切が無用である。
誰が誰と約束した際にも、常に『約束』の重さは変わらず、《絶対》だ。
いかなる強者であろうが、破る事は許されない。
あってはならない。
それがまかり通るなら。
『約束』など勝手に破棄しても良い、と思っていたのなら!」
「??」
「───そんな存在は今すぐ、別の世界へ行ってしまえ!
他の何とも手を結ばぬ、手が差し出される事もない、無限の競争地獄で。
欺瞞と欲情に塗れ、最後の一つとなるまで奪い合いに興じるといい。
それこそまるで、『弱者のように』な!」
うーーん。
理屈としては、間違っていないね。
表現の仕方、言い回しもユニークで好感が持てる。
何より、地球の平均と比べたら、結構強いほうだろうに。
己より弱きものについて考えが及んでいるのが、素晴らしい。
味方してあげても───いいかなぁ。
心配気な《枯れネズミ》が、ぱくぱくと口を開けて喘いでるのが可哀想だし。
「つまり、どんな《約束》が破られましたか?」
「町の外の住人、もしくは外部から訪れた人間に危害を加えぬ事。
みだりに勢力範囲を広げず、騒ぎを起こさぬよう配下の者にも徹底する事。
それを守るならば、こちらも手出しはしない、という《協定》だったのに。
一方的に違反した上、真意を確かめる為に派遣された者を2名殺害し!
私自身も訪れるや否や、攻撃されたのだ!」
「それは、とても愚かな行為だと思うのです」
「そうだろう、そうだろうとも!」
「品格が問われるような、問題であるでしょう」
こうなったらもう、どちらが悪いかは確定な気がするけれど。
一応は【土着神】の言い分も聞くというか、問い正す他にないね。
「───あなたは本当に、それをしましたか?」
思念反応・・・・・・『動揺』及び、『肯定』。
「どうして、やったのですか?」
・・・・・・『論理的な該当理由、無し』。
『侮蔑』。
『本能』。
『罪悪感』は皆無。
うわぁ。
これはまったくもって、話にならないぞ。
同じ【邪神】として、恥ずかしい限りなんだけど!
君さぁ。
馬鹿なのかい?
アキコやその娘さんがいる惑星で、何してくれてるの?




