721話 お土産の話だよ 01
【お土産の話だよ】
───約7000万㎞。
───それは自分にとって、瞬きの間に移動出来る距離。
実際、神殿を出てから1秒と掛からず、そこまで到達したのだけれど。
うん。
アキコから説明を受けた通りだったね。
すぐさま、衛星軌道上を周回中の《元気なお嬢様達》に補足されちゃって。
本当に元気過ぎて危ないから、慌てて贈り物を差し出したよ。
最近になってようやく品種改良に成功した、『金星の花』。
とびきり活きが良いのを選別した、その花束を手渡して。
”どうぞ、これを”
”迷惑になるので、直接お伺いはしませんが”
”よろしければ、墓前にお供えしていただければ”、───と。
発声会話ではなくとも、思念で通じるって聞いてたからさ。
そういう感じで、慎重にコミュニケーションを取ってみたんだけど。
礼節というものは、どの星であっても非常に重要だなぁ。
彼女らは、なんとかそれで許してくれたよ。
『表層部分』を幾らか、バリバリと焼かれはしたけどね。
まあその程度で、とても友好的に《滞在許可》を受けることができたんだ。
でもさ。
自分も相当、緊張していたんだろうね。
地球へ降下する際の角度が、事前に計算していたより僅かにズレちゃった。
本当、微妙に、ちょっとだけなんだけど。
それで『降り立ってしまった場所』は、予定していたニホンじゃなくて。
アジア地方ですらなくて。
もっともっと離れた地域の、海の上だったってわけさ。
「───小さなわたしで、こんにちは!」
まずは、元気の良い挨拶から入ってみる。
以前に滞在経験のあるミラスハヤムから、《地球語》は習ってきた。
彼女の娘、黒竜のフリューアンゼと一緒に勉強したんだ。
発音だけじゃなく、イントネーションまでバッチリさ。
・・・あれ?
完璧だよね?
ちゃんと聴こえてる?
「───ああ、こんにちは」
かなり間を置いて返してきたのは。
人間に良く似たフォルムの、『何か』。
ただし、枯れ枝みたいに乾いていて、あちらこちらが損壊した状態。
頭部らしき場所も、半分ほど砕けて無くなっていた。
「つまり、質問がしたいのです」
「──────」
「これは、喧嘩をされた場面ですか?」
白く煙る海。
そこそこの体積の海洋生物が5体、ぐったりと浮かんでいて。
男が乗る木造の船は、全長の1/4を消失。
右向きに傾いて、今にも沈みそうな気配。
「そうだな───喧嘩といえば、喧嘩だろうな」
怒りを抑えるような溜息。
残った片目を真紅に輝かせて、《枯れ枝》が呟く。
そこから、やや離れた位置。
言葉を使わず、単なる咆哮で抗議してきた【巨体】は。
ほうほう・・・なるほど。
世界において、自分と同様な区分けにある存在。
【邪神】。
つまり、この地球土着の古株、ってところだね!




