720話 学習帳 3ページ目 05
「よし───速度、方角はこのままで、右舷から相対しよう。
『砲撃戦』用意ッ!」
”・・・・・・”
「本当に闘るんですかい、船長?
砲撃戦つっても、あちらは撃ってきませんけどね、弾」
「心持ちが大切なのだよ、心持ちが!
先代の船長の、弔い合戦といこうじゃないか!」
「あー、それなんですけども」
《現・船長》の宣言に、幽霊船員が申し訳そうな表情で俯いた。
「───ちょっと、まあ、微妙な感じが」
「微妙なのかね」
「ええ。名目とするには、どうも気合が入らないっていうか」
「ふむ。
故人の人柄によるところか?
───それなら、こうしよう。
私の名を冠して、《メルセディアン海賊団》。
その『初陣』という事であれば、どうだろうか」
「おッし!!
おい、野郎共!!
新生《メルセディアン海賊団》の初仕事だッ!!
派手にブチかまそうぜッ!!」
うおお、と大歓声がそれに応え。
号令を掛けた船員と似た格好の幽霊達が、忙しく甲板を走り出す。
半数くらいは特に何をする、というでもなかったが。
とにもかくにも、たちまち海賊船は活気付いた。
「いいぞ、良い士気だな!」
「───ですが、船長。
《イカタコ》にゃ、砲撃なんて殆ど効きやせんぜ?
あっしらは勝てるんですかい?」
「はは。
砲弾が有効でなかったのは、過去の話。
この船は今や、『幽霊船』だぞ?
《通常ならざるもの》同士、互いに攻撃が通るのは当然だろうよ」
「なるほど!
砲弾、幾つ残ってたっけなぁ。
かなり湿気ってると思うんですが、いけますかね?」
「ああ、何の問題も無い。
諸君らの攻撃方法は元々が、《火薬で飛ばす投石機》のような代物だが。
私の魔力でそれを包み、対象まで確実に誘導しよう」
「よく分かりやせんが、ええと。
それって、船長が直接その魔力とやらをぶつけるんじゃ、駄目なんです?」
「ロマンの都合上、却下だな。
せっかくの晴れ舞台、どうにかして『砲撃戦』という体裁を整えたい。
砲門の旋回、仰角調整などは、見栄え重視で構わん。
何となくやってくれたまえ」
「『何となく』で、いいんですかい?」
「『何となく』で、いいのだ」
「じゃあ───聞いたか、お前らッ!!
相手は、因縁の化け物だ!!
『何となく』狙ってけよッ!?」
即座に響く、了解!!、と野太い声の返答。
「船長!!
初弾装填、完了!!」
「よォし!!
───撃てえぇッ!!」
轟く爆発音。
黒煙と、火薬の匂い。
魔力の残光。
金色に輝く軌跡が、少々不自然な山なりのカーブで濃霧を切り裂いて飛翔し。
迎撃せんとする怪物の触手を弾き飛ばして見事、本体へ着弾。
その光景に見惚れ、感嘆しながらも。
『死せるネズミ』は、悔しさのあまりに歯噛みした。
ああ。
まったくもって、出番が無い。
良く喋る幽霊が、さっきから自分の台詞を全て横取りしている───と。




