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718話 学習帳 3ページ目 03



”・・・しかし、だ。

まさか《船長》が、あのような暴挙に出るとはな”



長い沈黙を置いて発せられたネズミの言葉に、男は首を傾げた。



「うん?暴挙とは、何がかね」


”腕を切り落としたじゃないか、相手の”


「それは当然だろう。私は銃で撃たれたのだぞ」


”それにしてもだ・・・何も、そこまで。

せめて5、6発撃ち込まれるまでは、笑って済ますだろうと思っていたんだが”


「馬鹿な事を言うんじゃない、ラッチー。

私とて、日々学んでいるのだよ。

向こうは『D教団』の正式名称を出しただけで、いきなり発砲した。

脅しではなく、至近距離で頭部に当ててきた。

人間だったなら、確実に即死だ。

それに対抗して、何が悪いのか。


そもそも、『近隣住民の拉致や勢力拡大を禁じた《協定》』を破り。

おまけに派遣された特務員を2名も殺害している連中だぞ?


私はな。

『教団本部』の(しか)るべき立場の者に会わせろ、と言っただけだ。

穏便に、丁寧な仕草でだ。


その結果、ああなってしまうならば。

後は《話し合いまで持ってゆく為》に殺し合いをするしか、手はあるまいよ」


”それは・・・いや、しかし・・・”


「我等は、人間のふりをした《人ならざる信仰者》。

魚であれ、それに似た何かであれ、種族を問うつもりも、資格も無いが。

相手が明らかに非友好的ならば、相応に振る舞うのが道理だ。


人里を闊歩する熊は、始末されて当然。

魚人もまた、同様であろう。

見てくれはともかく、奴等の中身はとっくに《人間ではない》のだし。


あれでも私は、相当に手加減をしたのだぞ?

中々に頑丈でしぶとい連中だったからな、町ごと焼き払ってもよかったが。

一応は、口が聞ける程度に(とど)めておいたのだ。



───まあ、その甘さこそが《悪手》だったか。


結局は数に押されて、拘束され。

重りを付けられた挙げ句、海に沈められてしまったが」


”・・・実のところ、そうなる事まで計算していたのではないか?”


「うむ、多少はな。

『教団本部』の場所は、沖合いに浮かぶ島と判明している。

あのまま魚人共を倒し続けるより、そちらへ向かったほうが建設的だ。


よって。

私はすぐさま鎖を引き千切り、得意のローマ式泳法で夜の海を」


”あれは、少しも泳げていなかったぞ。

比重の軽い《乾き物》であるが故、なんとなく浮いていただけだろう”


「そうだったかな」


「どっちにしても、結構目立ってましたぜ?

あっしらは幽霊ですから、夜目が利くもんで!」



何か不満げな視線のネズミを無視して、またもや船員の『割り込み』。



「いやぁ、驚いたのなんの!

腰が抜けそうになりましたよ!

『これはまさか、死んだ船長があの世から蘇ったか』と!」


「そんなに似ているのかね」


「そりゃもう、生き別れの兄弟かってくらい、ソックリでさぁ!」


「ふうむ。

先代の船長は、君達が亡霊となるより前に、死んでいたのだな?」


「ええ!

イカとタコを合わせたような巨大な化け物に、猛然と立ち向かいましてね!

そこそこ粘ったんですが残念ながら、海中へ引きずり込まれちまいまして!」


「まさに、海の男よなぁ」


「あの人、全然泳げなかったんでね!

甲板から落っこちた瞬間、全員が諦めましたよ!」


「そうであろうなぁ」



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