表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
715/739

713話 僕の事を 06



「───マーカス!」


「・・・ううっ・・・」


「マーカス、聴こえるか!?

おいっ!しっかりしろ!」



何かが。

下顎を支え、僕の左側頭部に手を当てている感触。


きっとそれは、声の主と同じなのだろう。



「ぐ・・・バルスト、か」


「そうだ、俺だ!

目はどうだ───見えるか?」


「ん・・・ああ、たった今、見えるようになった」



火花が散るような視覚効果(エフェクト)と共に、視界が蘇って。

ただ、その代償のように、諸々(もろもろ)の痛覚も復活だ。



「ゆっくり掛けないと、逆に回復魔法で細胞組織を壊してしまうからな。

ちょっと痛みが続くぞ?」


「それくらい、我慢するさ。

治して貰えるだけで、十分に有り難いよ」



有り難いんだが

なんか、アレだ。

至近距離にバルストの顔があって、その。


見つめ合うのも気恥ずかしいんで、自然に視線を落とす。


撃たれた脚は、ほぼ痛みを感じない。

ズボンに空いてたはずの穴や血痕が、見当たらないし。

当然、傷のほうだって治ってるんだろうな、これ。


そっちよりも殴られまくったアタマのほうが重症だった、ってことか。

明らかに、生き残っても後遺症が残る感じだったもんな。



「───マーカス。

助けに来るのが遅くなって、すまん」


「いや、いいよ」


空港(ここ)だけじゃなく、各所で爆発騒ぎが起きちまって。

死者も重傷者も多数だ。

うちの連中が手分けして対処に向かったが───酷い有様だ」


「・・・・・・」


「すぐには救急隊員も駆け付けられない状況で。

とりあえず、子供らや女性から優先させてもらったぜ」


「そりゃそうだろ。

僕の代わりに誰かが命を落としたなんて、あの世で恨むよ。

ま、根本的に悪いのは、こいつらなんだけどな」



すぐそこでピクリとも動かず伸びてるテロ野郎を、精一杯睨み付ける。


手脚の拘束はもう、バルストが()いてくれたようだが。

なんか『魔法的な治療』が終わるまでは座ってたほうが良さそうだ。



「けどな。

俺のほうから一つ、言っておきたい事があるぞ」


「・・・やめてほしいんだが」


「そうはいくか、馬鹿!

黙って済ませられないから言うんだよ!!」



あー。

説教だな、絶対。

説教は嫌だな。



「お前な!

『一度だけ即死を回避出来る』からって、爆弾に突っ込むのは違うだろう!?

そんな非常識な特典、あっても無くても《逃げる》のが普通だ!

人間として、当たり前の行動だ!


いいか!!

生きるも死ぬも、ゲームじゃないんだぞ!?

アイテム頼りで命を賭けるなんざ、ふざけるにも程があんだよ!!

このド阿呆がッ!!」


「・・・・・・」


「どうせ人間なんざ、放っておいたって寿命で死ぬんだ!

こちとら、そういうのを『込み』で付き合ってる!


それでもな!

何千年経っても、慣れやしねぇんだ!

笑って忘れられるようなモンじゃねぇんだよ!



───”自分の命を()して、誰かを助ける”!?


おう!

そりゃあ立派だ、マーカス!

お前は勇敢で、正しいさ!

尊敬に値する生き方だよ!


だが、何千、何万人がそれを讃えても!

俺は絶対、お前の死体に拍手をしない!

俺だけじゃなく、他にもそういう奴がいるのに!


そこんトコロを何にも考えてねぇ馬鹿さ加減に、腹が立つんだよ!!

それくらい、想像しやがれよ!!」



(うつむ)くしかない僕の頭上から、怒声が降り注ぐ。



───痛い、な。


───体と、それ以外も、ズキリと痛いな。



「・・・・・・バルスト」


「ああ!?」


「・・・僕が、『見えてる』か?」


「互いに見えてるから、会話が成り立ってんだろうが!

空気相手に吠えるほど暇じゃあねぇぞ、こっちは!」


「・・・悪かった、バルスト」



そうだよな。

『見えてる』は、『気にしてる』だ。


ああ。

シンだけじゃないんだ。


バルスト。

ブレイク&エイク。

陳さんも、まっちゃんも。

ピアーゾも。

任務で訪れる度、各地で助力してくれる《騎士団》の団員達も。


僕の事が、『見えてる』んだ。

僕にも同様に、『見えてる』んだ。


そうなんだよな。



頭の中がどうにも、じくじくと痛むせいで。


今頃になって、涙が(あふ)れて。

ポロポロと(こぼ)れ落ちた。



「本気で説教してくれて、有り難う。

二度と、今回みたいなのはしない。

約束するよ。


心配させて、ごめんな」


「──────」



呆れるくらいに長い溜息が聞こえ。

僕の側頭部から、手が離された。



「まあ───分かったんなら、いい。

《相棒》にはこれからも、言いたいだけ言わせてもらうが。

お前もお前で、《相棒》としての責任を果たせよ?



頼むから───悪魔を悲しくさせるな、ってんだ」




膝先に。

僕のではない水滴が落ちて、染みを広げて。



抑え切れない感情を、喉の奥から振り絞った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ