703話 期待の新人 02
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「本日から、お世話になります。
クレントス・デイバーです」
グレーのスウェット上下の男が、しっかり腰を曲げて礼をする。
ああ、その。
いや、こいつ───とんでもなくデケぇな!
巨人だよ、巨人!
俺だって、188あるんだぞ?
レスラーとして、けっして小さくはないんだぞ?
「寺口 結城だ。
しばらくの間、お前の練習とか世話するから」
「はい。宜しくお願いします」
やっぱ、メチャクチャ上手いよ、日本語。
言葉が通じて良かったぜ。
俺、英語なんて全然だし。
”アイラブユー”と”アイムソーリー”しか、分かんねぇわ。
相手が何を言ってきても、抱き締めるか謝るかの2択だわ。
「ところでお前、身長何センチあんの?」
「───センチ?
ええ、センチはその、204センチです」
「うへえぇ!!
スッゲぇなぁ!!
そんだけありゃ、学生時代は何かスポーツやってたんだろ?」
「いやぁ、そういうのは何も」
「え?何でさ??」
俺、中学ん時にはもう、180超えてたからさ。
バスケやらバレーにラグビー、果ては相撲とかまで勧誘されたぞ?
ああいうのって、菓子折りやらゴニョゴニョを渡してきてさ。
両親のほうから先に落としに掛かるから、面倒臭いんだよな、ホント。
「オレの背丈だと、殆どの競技は無理です。
相手にされないというか、笑われますから」
「・・・は??」
「地元じゃあ、『真ん中よりも、かなり下』って感じです。
みんなオレより大きいし、力も強くって」
「マジで!?」
「ええ、本当です」
「地元って、ドコの国よ?」
「地元は、ああ、ええと───トルコ。
トルコ出身です、自分」
「トルコ凄ぇな!!《魔境》かよッ!!」
204センチで小さいなら、220とか230がゴロゴロしてるって事か??
俺、トルコに生まれなくて良かったぜ。
188程度じゃ、道を歩いてたら間違えて踏まれるだろ。
それか、アレだな。
首輪付けられて、犬小屋で飼われそうだぞ。
「そんじゃ、トルコで生まれて、育ったのは日本ってワケか?」
「いえ。日本に来たのは、つい最近で」
「それでもう、日本語ペラペラか!
天才かよ、お前!?」
「そんな事はないですよ。
普通です、普通」
「いやぁ、凄いってば!
・・・ただ、なぁ。
せっかく日本に来てくれたけどさ。こっち今、かなり景気悪ぃぞ?
地元にいたほうが良かったんじゃないか?
トルコはどうなんだよ、ブッカとか、ショーヒゼイとか」
「景気は、すごくいいと思います。
仕事だって沢山ありますし。
でも───何か、こう。
地元にはやっぱり、居辛くて」
「うん??」
「──────実は、ですね。
オレ、借金してた時代があって」
「あらら。
どんくらいよ?」
「額を言うのは難しいんですけど。
大きな城を5〜6個建てても、まだ足りないくらいですかね」
「おいおいおい!!
何だ、その規模!?
そこまでいったらもう、億とか兆とかじゃ済まないんじゃねぇか!?」
「借金の大元自体は、父と母が返済してくれたんですが。
オレが取り立てから逃走してる内に───その。
税金みたいなものが、積み上がってしまって」
「税金払わなかったら、城になんの!?」
「逃げ続ければ、そうなりますね」
「トルコ、マジヤベぇなッ!?」




