698話 希望の風 02
───切っ掛けは、情け無いほどシンプルな《突発事故》。
───《通信断絶》である。
ロンドンには、非公式に諜報活動中の『天使』と『悪魔』が存在しているが。
その両陣営が、ほぼ同じタイミングで上層部と連絡を取れなくなった。
報告を入れる事も、指示を受ける事も不可能になった。
非常事態。
まあ、後にその原因は、《蜂の大規模侵攻》と判明するのだが。
何しろ、嫌らしいくらい同時発生の《通信断絶》だ。
現地の諜報員達にとっては、最悪の状況しか予想出来ない。
”第二次『大戦』の勃発だ!”
”ついに始まってしまった!”
”しかも!戦いはすでに、互いの首都にまで及んでいる!”、と。
そう思い込み、どちらが先に暴走した、仕掛けたかは問題ではない。
応戦した側にも正当な理由があり、仕方の無い事だったかもしれない。
だが、戦火は即座に拡大した。
何の隠蔽もされない法術と魔法が唸り、飛び交い。
たちまちロンドンは、文字通りの『火の海』と化したのだ。
私とログフォルドは慌てて、人間の救出に向かった。
瓦礫の中から怪我人を救出し。
たとえ《奇跡や魔法のように見えても》、出血や骨折を治療し。
老人の手を引いて、耐震設計が施された地下鉄構内まで誘導。
はぐれて泣き叫ぶ子供の、親探しもやった。
やっていたのだが。
───それを最後までやり切ることが叶わなかったのは。
───私とログフォルドが、集中的に狙われ始めた為だ。
私は、天使から。
ログフォルドは、悪魔から。
それぞれの同族に『裏切り者』、生かしておけぬ『重罪者』として。
即ち。
本当に全ての諜報員が牙を剥き、私達の敵となったのである。




