05話 燃えるNY(その5)
とある悪魔の、独白。
────悪魔、ヴァレスト。
教典破壊者、偶像破壊者、教会破壊者、等と呼ばれ。
最近ではもう一つ、字名が加わったのだが・・・
それはさておき。
私の存在は、彼の『系譜』に連なるものではない。
『性質』にも、何の関連も無い。
正しく言えば。
私には本来、その2つが『無い』。
それらは私にとって、『在る』のではなく『創る』ものなのだ。
後付けの、量産品でしかないのだ。
要は、別に彼でなくとも、この世の何者であれ私と『関係が無い』のだが。
『位階』を持たぬ身としては、誰かの配下に付くしかなかった。
配下とは、自在に扱える手足であり、戦力である。
使い捨てることができる、予備の命である。
大きかろうと小さかろうと、1つの組織を構成する際に必ず求められるもの。
それが、配下である。
────けれど、私を欲しがる者は、彼以外にいなかった。
この能力を知れば、当然だろう。
配下にしたところで、『使い捨て』が出来ないから。
私に顔が無いのは、全てに対してのXXであるから。
現実のXXではなく。
“こうであってほしかった”という、XXなのだから。
私の顔を見た者は、懇願する。
懺悔し、赦しを乞う。
そして、陶酔する。
それらはみな、私にとって心地良い。
比較すべき感情自体がそれほどないが、あれは蜜のようにとろける。
そして、暖かい。
私は、人間で言うところの『中毒者』なのだろう。
────自分の顔を、知らない。
────どう見えているのか、分からない。
悲しくはなく、不自由でもなく。
きっとそれは見えないのだろうし、見たいとも思わない。
私にはXXなど存在しないし、それを夢想する必要も無い。
そんな私に、私の顔が見えたとしたら。
私は、増殖してしまうのだろうか?
この世界に。
それは陳腐な物語だ、あまりにも。
────悪魔、ヴァレスト。
彼に私の顔がどう見えているかを、尋ねたことがある。
“言葉では表現しきれん。絵にしてやるから、待ってろ”
砂漠の真ん中に、2昼夜かけて描かれた『それ』は。
最初から最後まで何を表しているのか、爪の先ほども理解出来なかった。
おまけに、『完成だ』と彼が叫ぶと同時、砂嵐で綺麗さっぱり消えた。
千年後、今度は夜空の星で描いてくれるという約束だが。
おそらくそれも、訳の分からぬものと化すだろう。
彼は、恐ろしいほど絵心が無い。
そして。
ほんの少しではあるが。
悪くないボスである────
マギルさんの顔が見えない理由を、知り合いから問われたことがあります。
私が実際に体験したことが、ベースとなっているのですが。
このシリーズの何処かにそのお話を入れて良いのか、判断に苦しみます。