697話 希望の風 01
【希望の風】
電気、ガス、石油のパイプライン。
インターネット回線。
病院、軍事施設、原発のシステムまで。
昨今のサイバー攻撃というものは、容赦が無い。
有名企業へ《暗号化解除》の支払いを要求する、ランサムウェアだけでなく。
人命に関わるライフラインであろうが突如、遊び半分のように標的にされる。
率直に言えば。
私はそれらの行為と影響を馬鹿にし、苦笑していた。
営利目的であれ、自己顕示欲に基づく『戦争ごっこ』であれ。
よしんば将来における本当の戦争に備えた、敵対国家の『予行演習』であれ。
自らが遠方の安全地帯にいるなら如何なる非道も行える、理性無き犯罪者達。
何の対処も出来ず毎回、形式的な声明を発表するだけの管理責任者。
サービス再開時期と損害賠償額にしか興味が無い、完全無防備の一般人。
私は、それらの全てに呆れていた。
『とても残念な低予算映画』を鑑賞する気持ちで、悠然と眺めていた。
───だが、現在となっては違う。
───如何に思い上がりで慢心であったか、心底思い知らされた。
振り返ること、約一年前の秋。
ここロンドンは、未曾有のテロ事件によって揺れた。
それこそ、サイバーならぬ物理的攻撃を受けて甚大な被害が出た。
倒壊、損傷した家屋や建造物は、何百という単位。
死者や負傷者数も、《大惨事》としてイギリス史上に残る規模。
国家を挙げて復旧に全力を注ぐも、要した期間、半年以上。
勿論、犯人は速やかに『逮捕された』。
警察は直接関わった複数名と、その組織の構成員を手当り次第に拘束し。
国外にも指名手配を飛ばし、世界各地で執拗な『炙り出し』が行われた。
けれども、実際の『あれ』は。
断じて、破壊活動家による犯行ではなく。
ただ単に天使と悪魔が衝突した、《局地戦闘》の結果である。




