表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
698/742

696話 優しい上司 04



「ねぇ」


「何だ」


「カルロゥの部下に、からすはいないの?」


「カラスって、『告げる大鴉(ブラック・テイカー)』の事か?」


「うん」


「いるわけないだろ。

俺が言うのもアレだが、あんなコントロール不能な連中はアウトだ。

どんな計算も、木っ端微塵の台無しになっちまう」


「たしかに。

カルロゥの弟は、凄くて伝説きゅう」


「さっきの女も、相当だぞ?

恥ずかしいくらい有名で、超が付く金持ちではあるが。

情報収集に関する能力は、《商家》の中でも非常に高い。


あと。

女淫魔(サキュバス)じゃないくせに、男を手玉にとるスペシャリストだ」


「わたしより?」


「そうだな───まあ、同じくらいか。

厄介で、えげつないのも含めて」


「・・・ほほう」


「痛ぇな!

もう少し手加減しろ、手加減!」


「健康そくしんには、常に耐えがたい苦痛がともなう」


「その時点でもう、『健康』の範疇からハミ出してんだろ」


「おきゃくさん、かゆい所はありますか?」


「痛い所しかねぇよ。

《かゆい》が何か、思い出せないくらいだよ」



シャツを脱がされ、うつ伏せでソファに寝た男。

その腰上あたりに座った少女が施術するのは、マッサージ。


ただ、正確には。

マッサージの名を借りた、《大蜘蛛式肉体可動術》。

攻撃と健康体操が表裏一体の、下手をすれば犠牲者が出る《荒技》である。



「本当ならこれ、ぜんぜん痛くないはず」


「おい。

だったら何か、間違えてるんじゃねぇのか?」


「おきゃくさん、動くともっと痛くなります。

ばあいによると、死ぬよりひどいです」


「勘弁してくれよ。

ミスったら溶かされる『ペロペロ』といい、『これ』といい。

お前の特技はどうも、リスクが大き過ぎるな」


「ふだんカルロゥがやってる事も、おんなじ」


「───ん───」


「たくさんの、頭がいいのを使ってるけど。

それらはいずれ、じょうしであるカルロゥを裏切る」


「そうか?

可能ならやってみせてくれ、って感じだが?」


「・・・・・・」


現在(いま)のところ、俺は部下の誰も信用していない。

そういう段階まで踏み込んでる奴が、まったくいない。


つまり。

俺を油断させる事も出来ないのに、裏切りを成功させられるわけがねぇな」


「自信まんまん、だ」


「おうよ。

いつか、絶妙なタイミングで《黒輪商家(バロウ・リンカー)》を乗っ取ってほしいもんだ。

そうしたら、それを奪い返す『仕事(たのしみ)』が増える。

まさに、あいつらが俺に出来る最高の恩返しだろうよ」


「・・・・・・」


「おい。変態、って言うな」


「こころをよまれた!」


「いや、マジでそろそろ仕事に戻らせてくれ」


「きゃっかする。

カルロゥの仕事は全部、みんなで分担してこなす」


「そうはいっても、週末だから結構な量だぞ?

出来るのか?」


「できる。

終われば、わたしが『ごほうび』をあげるって、約束したから」


「お前自らが、率先して仕事すればいいだろ」


「おきゃくさん、あわてない。

まだ、本気をだす時じゃないです」


「いったい、何時(いつ)がその時なんだ?」


「カルロゥが死ぬか、いなくなったとき」


「そうすると俺は、絶対にお前が働いてる姿を見れないわけだな」


「せいかい」


「───つくづく思うぜ。

よりにもよって、激ヤバな上司がいる所に就職しちまったわ」


「可愛い蜘蛛がみまもる、すてきな職場。

わたしは、部下がぜんいん気持ちよくなれるように、甘やかしてるし」


「────────────まあ───1ミクロンだけは、同意するが」



感じているのは、物理的な苦痛か。

それとも、プライドを揺るがす葛藤か。


やや涙目の男が、苦悶の表情で額の汗を(ぬぐ)う。



「おきゃくさん、こんどは(あお)むけになってください」


「おう」


「下半身のいちぶを、集中てきに。色々とします」


「───なっ、おまっ!!ドコ触って!?」


「動くと、まちがえます」


「やめろッ!!

おい───離せええええぇッ!!」




休憩室から漏れ聴こえる、『NO.2』のあられもない悲鳴。

必死に書類を(さば)いてPCへ入力していた、30数名の幸せな部下達は。



恍惚の笑みを浮かべながら、その身をくねらせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ