695話 優しい上司 03
・
・
・
・
・
・
・
「それで、首尾は?
───おう───ああ。
───よし。
じゃあ、そのまま継続で」
「───ん───駄目だな。
状況が不穏だ、撤退しろ。以降は別の奴に任せる。
───気にするな、お前のせいじゃない。
他を担当すりゃいいだけだ、問題無い」
「───”『受け持ち』を増やせ”?
それを判断するのは、俺だ。
そんな余裕でこなせるモノを任せてるつもりはないんだがな?
まあ、やる気は買うが、これからの結果次第だろ」
ソファに座り、スマホで次から次へと電話を掛ける男。
その隣で少女は、携帯ゲーム機でプレイ中。
音量の大きさに男が顔をしかめても、お構いなし。
───だが、そんな嫌がらせじみた行為が、ぴたりと止んだ。
素早くSAVEされ、タイトル画面に移行する画面。
ゲーム機の電源を落として、少女はスマホを耳に当てた男の横顔を見つめた。
「───おい、ふざけるなよ?」
冷たく重い声が、休憩室に響く。
「お前、仕事をせずに遊んでるのか?
それとも、俺に対して”遊んでもいいですか”って、許可を求めてんのか?
ええ??
お前が言ってるのは、そういう事だろうが?
───なあ、よく聞けよ。
俺はな。
仕事が好きなんだ。
好きで好きで、吐き戻すくらい好きで。
その次に好きなのが、『仕事ができる奴』なんだ。
お前は、どうだ?
仕事をするのが好きか?
気が狂っちまう程に、好きか?
どうなんだ、ええ??
───おう。
───よし。
そうだよな。
お前も好きだろう、仕事。
だったら、どうすりゃいいか分かるよな?
ああ。
その意気だ。
しっかり頑張れよ」
通話を切り、テーブルに投げ出されるスマホ。
僅かな怒りを孕んだ、短い溜息。
「・・・すごい。ぜんいん、女だった」
「まあな。
というか、聞き耳を立てんなよ」
「さいごのやつ、何かもめてた?」
「『もめる』ってレベルでもない。
『たまに、よくある話』さ」
紆余曲折の挙げ句、最終的に氷抜きだったカフェオレ。
そこに、奪い取った少女のカップからザラザラと残りの中身を追加する男。
「・・・・・・」
「時々、トチ狂う奴がいるんだよ。
”誕生日を祝え”とか、”祝ってやる”だとか。
”プライベートで会いたい”だのと、馬鹿臭い事を」
「ひゅーひゅー」
「何だそりゃ。隙間風か?」
「カルロゥ、『もてもて』だ」
「モテたところで、1ドルの儲けにもならん」
ガリガリと、氷を噛み砕く音。
「だが、そういう腑抜けた奴に『分からせる』のも、仕事の内だな」
「なんで、女ばかりなの?」
「平均的に、女は男よりも長期的な情報収集に優れてる。
偏見じゃなく、事実としてだ」
「じゃあ、もしもそれが逆だったら、男を使う?」
「いや、それはない。
仕切っている俺が『男』である以上、あり得ないな。
仮に女が、男より能力が劣っていたとしても。
恋愛感情で踊らせてブーストすりゃ、軽く上回れる計算だ」
「カルロゥ、さいてい」
「勝手に言ってろ。
第三者の《お気持ち》に配慮するほど、こっちは暇じゃない」
「すごくわるい男だ。
蜘蛛のなかまに、注意かんきがひつよう」
「俺の部下に蜘蛛はいないから、安心しろ。
それよりも、リーシェン。
いい加減、本来の仕事に戻ってもいいか?」
「だめ。ぜったい安静」
「──────」




