692話 All fall down 02
死因は全て、自死。
遺書の一通も、直前の一言すら無く。
皆がほぼ同一のタイミングで、静かに命を断ってしまった。
───その理由を、僕は推測出来るが。
───話したところで、《人間》が理解するのは不可能だろう。
戦争で例えると、『終戦』だ。
停戦でも休戦でもなく、『終戦』。
普通の人間ならば、間違い無く喜ぶべき事。
もう殺されないのだから、嬉しくて当然で。
祝杯を掲げて叫び、歌い踊ったっておかしくないのだ。
けれど。
僕の友達は───古くから生き延びてきた《規格外品》は、違った。
突如押し付けられた『終戦』は、希望の真反対。
命の心配が無くなり、隠れることなく暮らしても良いと保証され。
それによって、【生きる理由を失った】。
彼等はもう、とっくに壊れていた。
人間の思考とは掛け離れた、本当の《規格外品》に成り果てていた。
ああ、そうだよ。
僕も。
彼等と同じように命を断たなかった僕も、別の意味で壊れている。
手遅れだ。
どうやってもこの先、【人間にはなれない】のだ。
───事がここまで及んで、僕はようやく気付いたけれど。
───墓守は、最初から知っていた。
《人間になりたがる馬鹿》に、人間の肉を喰わせ。
人間の言葉を憶えさせ。
最後の最後に、この事実を突きつけるのが目的だった。
勿論、明確な『悪意』によってだ。
以前、”人間を憎めばどうだ”と言いやがったのも。
ギリギリまで人間になることを諦めさせない、計算づくの『からかい』だろう。
何せ、遥か昔。
殆どの悪魔が記号や図形の形だった頃から、人の姿をしている奴だ。
自分ですら人間のふりはできるが、本当の人間ではないぞ、と。
そういう忠告の体をとった『嫌味』だったのかもしれない。
───あいつが求めているのが僕の墓であるのは、間違いないが。
───どういうふうに死んでくれ、と願っているんだろうな。
想像が付かない。
どうすれば、墓守の裏をかけるか。
それとも、自死を選択しなかった時点で、その掌から抜け出したのか。
この状況すら、奴が予測していた未来の一部なのか。
今、僕に分かっているのは2つのみだ。
これから呼び出すつもりの、ルーベル。
唯一の弟子が、”人間を辞めてくれ”という懇願を受け入れないだろう事。
師弟関係の終わり。
そして、親友のくれたノートPCで執筆する、小説の続き。
新しき吸血鬼とその隷属者達が、人間を喰い殺し。
その血を糧として、人間に良く似た《規格外品》を『削除』してゆく物語。
───それだけだ。
故に、僕は壊れていて。
人間になれなかったのだろう。




